永遠の黄金週間
アレシア・モード
連休最後の日である。午後も三時を過ぎる頃、私――アレシアは、ベッドに転がりながら無為な時間を費やしていた。明日から仕事かよと思うたび、低迷した精神はなお一段とポテンシャルを沈めた。
「ああ、連休が永遠に続けばいいのに」
『然り』
突然目の前に黒い渦が現れた。その中心から姿を現したのは、山羊の角と長い尻尾を持つ伝統的な悪魔だった。
『ハロー、私は悪魔デビロス、この尖った耳は貴女の願いを聞きましたぞ』
「え、マジ、悪魔?」
酒が入ってるにも関わらず、こんな幻覚が見えるとは。ひょっとして現実だろうか。そんな時はベッドを三回、踵で打つ。どんどんどん。あっ……「デビロス?」しまった。私、デビロス様を消してしまった! いま気付いたが、デビルをロスしてデビロス? 初手から消えるネーミングかよさすが悪魔汚い! ノックの音がした。
「アレシア? どうかしたの……」
「汚いよデビロス!」
「あ……そう、そうね」マリが腐りかけの仔猫に向けるような目でベッドの私を見おろす。いやお前さん、何故ウチに居る。明日は仕事だろ。帰れや。
「連休も今日で終わりだし~ゴロゴロさせてよ、マリ」
「今日はもう……11日だけど」
「……」
「居眠りしたのね……五日間」
「はて!」私は枕元のカレンダーを指した。「ハハ、今日はまだ六日これが証拠だ」マリは無言で「日めくりの紙をペリペリ「むしり始めた!」何をするだ! 悪魔! 山羊!」それは私がやるの! 今日はまだ連休最後の日!
「――自分と地の文が交錯してるわ……あまり私には侵食しないでね」
「謀ったな、マリ。どうやって私をタイムワープさせた」
「寝てただけでしょ」
「元のゴールデンウィーク世界に戻せ」
「悪いけど……人類は過去へはワープできない。相対性理論にもそう書いてある……現実を受け入れなさい」
「終わらんよ! 心を忘れた科学には絶対負けない! 来たれ今日もデビロス、エコエコアザラク!」
「えっと……『ストゼロ』0.35L投与」
いやあ話が分かるね君。私は渡された酒を飲み干した。最近、味が変わった気がする。
「ところでマリさん、今年はパリ五輪ピックですなあ」
「……去年よ」
あれ、そうだったか。どうも記憶が曖昧だ。え、欧州大戦? 大正時代じゃねーよ。ああマリ、またそんな病人を見るような目を。さては私を入院させる気か。なんちゃって。
「ここは病院よ……アレシア」
朦朧と明るむ光の中で、マリの横顔が目を伏せた。