Entry1
巣立ち
小笠原寿夫
これは、小さな一軒家で起こったよくある物語。父と子が言い争いになって、衝突しております。
「お前みたいなやつ家に置いておくわけにはいかん!出ていけ!」
「ああ、出て行ってやるよ!こっちだってこんな家に住みかねえよ!」
「二度と家の敷居をまたぐな!」
「お前のこと一度だって親父だなんて思ったことねえよ!」
そこに野次馬が入ってきました。
「え?なんか面白いことやってる。失礼ですけど何をされてるんですか?」
親子喧嘩は、野次馬をよそに続きます。
「お前ひとりで生活やっていけるか試してみろ!俺たちの苦労が身に染みてわかる。」
「お前、親父らしいことしてくれたこと一度もねえじゃねえか!」
「なんか激アツやん。」
無縁の野次馬は嬉々としてそれを見ていました。
「お前に親父と呼ばれる筋合いはない!早く出ていけ!」
「ああ、ああ、出て行ってやるよ。俺が大成功してもお前の事助けねえからな!」
「お前みたいなやつが社会で通用するわけないだろ!」
「こんなん見れる機会めったにないわ。どついたりするんかな。」
「いままで世話になったな!金輪際、この家には近寄らねえよ!」
「文句はいいからさっさと出ていけ!」
「息子さん、親父にビンタとかしなくていいんですか?」
我関せずとばかりに、野次馬は呟きました。
「今まで苦労賭けられた分、お前を殴らせろ!」
「出たぁ!」
野次馬の存在になど見向きもせずに親子喧嘩はヒートアップしていきます。
「お前ひとりで大きくなったような顔をしやがって。殴りたいのはこっちの方だ。」
その時です。父と子は同時に野次馬にビンタをしました。
「じゃあな親父。俺行くわ。」
「風邪ひくなよ。」
「親父もいつまでも元気でな。」
「社会に出ても信念だけは持っとけ。後、これは持っていけ。」
父は野次馬から財布を抜き取り、そこから千円を差し出さしました。
「親父……。」
「他人に迷惑かけるような真似だけはするな。わかったな。」
「じゃあ行くわ。」
子は振り返りもせず、家を後にしました。
「あの、それ僕の財布なんですけど。」
「あんた誰だ。」
「いや、誰っていう事はないんですけど。」
「あいつ、一丁前に親に反抗しやがって。大きくなりやがった。あんたも息子の成長を見届けてくれ。」
「何かさっき僕、どつかれたんですけど。」
「今日は気分が晴れた。あんたこれでも受け取ってくれ。」
父は、すかさず野次馬に千円を手渡しました。
「俺の財布や!そらお前らの気は晴れるやろ!」