Entry1
日本ユニセフ定義型人間
ごんぱち
「ただいまー」
広美がマンションのドアを開ける。
「……あれ?」
いつもなら駆け寄って来る筈の息子の雲英(きら)の姿がない。
「きーちゃん?」
リビングからは、テレビからと思しき音が聞こえる。
広美は買い物袋を脇に置いて、リビングに来る。
「きーちゃん……?」
そこには、ぐったりした様子の雲英がソファーに横たわっていた。
「幼い子供がテレビの真似をして死んだんです! 真似をすれば命を落とすようなものが公共の電波で流されるなんて、あり得ない話です!」
法廷で原告の弁護士は力説する。
「従って、これらの放送を『準危険放送』と定義して、視聴させた場合には厳罰に処するべきです!」
「これら放送と言いましたが、具体的にどんな番組ですか。そもそも、視聴をどうやって証明して罰するのですか」
被告の弁護士が反論する。
「準危険放送だというものは、Gコードを見ただけで分かるじゃないですか。その時間にテレビに向かっていなかった事が、被告によって証明出来ない時に罪に問えば良いのです」
「Gコードで全てが分かれば、番組を観る人なんていなくなるでしょう。大体、何が準危険放送なんですか。定義が曖昧なままでは、例えばお昼の長寿番組だって準危険放送である可能性が出るじゃないですか。そこはどうお考えですか?」
「警察が捜査し、視聴すべきではないと判断、摘発した物が、準危険放送です。準危険放送ではないかと迷うような場合は、準危険放送だと考え視聴したりさせたりしない事が望ましい」
「警察の一存で逮捕されるというのですか? 裁判で無罪になったとしても、逮捕、起訴によってどれだけの不利益を被るか」
「後ろめたい事がなければ、どうという事はないでしょう。それともあなたは、準危険放送を好んで視聴されているのですか?」
「あなたは、例外中の例外である本件のみで表現の自由を大幅に狭めるのみならず、思想信条の自由まで規制せよと言うのですか!」
「自由は、責任を伴うものである筈です! 他者の生存を侵害する自由など、あり得ない事です!」
「……きーちゃんっ? きーちゃん!?」
「……それはきべんだじゆうはなにがきべんなものかせいしゅくにうわああんおくさんおきをたしかにかたきはぜったいとりまはいぜったいおねがいし……」
テレビで放映されている法廷ドラマの登場人物全員の台詞を真似て喋り続け、息継ぎをし忘れた雲英の顔からはどんどん血の気がなくなって行った。