ごんぱち
あるところに、会社がありました。
その会社は、とても働き者の社員ばかりの素晴らしい会社でした。一日中しっかりみっちり働き続けて、病気をしようと怪我をしようと親兄弟や妻子が死のうと休んで会社に迷惑をかけるような不出来な社員は一人もいませんでした。
でも、一生懸命なのは良いのですが、社員はプライベートでストレスを抱えているみたいでした。よく原因不明の突然死をしたり、鬱病になって自殺したりしていました。
「ああ、理由は分からないけれど、みんな、可哀想に。可哀想になぁ」
その様子を見て、赤ら顔の社長は大層心を痛めていました。
「労働と死との間に因果関係は一切ないけれど、たまには休ませて、リフレッシュさせてあげよう」
社長は、掲示板を立てました。
『やさしい社長の会社。残業を禁止します。有給休暇あります』
けれど、社員たちは信じません。
残業を廃止したというのに、自主的に働き続けるのです。有給休暇を使わないどころか、自主的に休日に会社に来て、無給で勝手に働いてしまいます。むしろ、掲示板を立てる前よりも働いて、業績が上がっています。
「ああ、一体どうすれば良いんだろう? ぼくは業績なんかより、社員の方が大事なのに、社員の方が勝手に働いてしまうなんて」
社員達のためにやさしい社長は心を痛め続けました。
そんな時、とてもとても仲良しで、喧嘩をするような事の一切ない青ざめた顔の社員が見かねて言いました。
「それなら社長、こういうのはどうでしょう」
青ざめた社員は、労働基準監督署に内部告発をしました。
労働基準監督署の役人達は、業務改善命令を出し、社員の休む時間が十時間になりました。週に一回必ず休みの日を入れるように言いました。
これを見て、初めは半信半疑だった社員達も、ようやく休むようになりました。
プライベートな悩みも同じ時期に解決したらしく、死んだり鬱病になったりする社員もいなくなりました。
社長は、青ざめた社員にお礼を言おうとしました。
けれど、青ざめた社員の姿はなく、書き置きが一つだけ。
『内部告発をするような、和を乱すぼくが会社にいてはみんなが怖がります。ですから、ぼくは姿を消します』
社長は泣きました。
この手紙を、朝礼でみんなに読んで聞かせて泣きました。
筆跡がどうとか、本当に涙が出ていたかとか、そういうのは全然分かりませんが、とにかく泣いているように見えなくもありませんでした。