第1回3000字小説バトル
Entry9
そこは横浜、ホテルパシフィコ23階。そこで自殺しようと、僕 はポケットにピストルを持ってチェックインした。午後8時。少な くとも今夜は、眠ろう、と考えていた。 そこは横浜、ホテルパシフィコ23階。私は少なくともここに三 泊するつもりでいた。彼と過ごすため。午後九時、チェックイン。 彼はその後来る予定。 自分は、部屋から出て、少しロビーでくつろごうと考えてフロン トを通り過ぎようとすると、ある女から声をかけられた。やあ久し ぶり、どうしたの。ここに泊まるつもりなのよ、彼と。私は23階。 僕と同じだ。 僕は部屋に戻り、いやだな、と思った。こんな時に、知り合いの 女と同じホテルに泊まるなんて。 物音しない部屋で、仕方なくウィスキーを口に含む。少し考える。 無想抜刀術。何かが狂わせた。俺を、何か、得体の知れぬ事実 が、狂わせた。以来、ここまで落ちた。横浜に死す。すべての終わ りと、始まり。 ノックの音がしてドアを開けると、ロビーで出会った女がいた。 少し時間いい?いいよ別に。私もそれもらっていい?いいよ、今作 るよ。女はウィスキーの水割り少しのんでから、こう言う。私の彼、 今日これないんですって。少しの沈黙。だからどうした、俺には関 係ないだろ、そんなこと。冷たいのね。何が。あなたが。その後、 少しして女は出ていった。 俺はその後、眠った。確かに眠った。しかし、浅い眠りだった。 何故なら、起こされたからだ。また、ノックの音。俺はどうせあの 女だろう、と思った。そしてドアを開けた。まぎれもなく白刃が、 一瞬きらめいた。一瞬の後、俺は床に血まみれでもがいていた。誰 だ。しかしもはや、誰の気配もなっかた。 私は部屋に一人で眠っていた。けれど、何かふと、妙な声、それ がしたような気がして、目が覚めた。午前二時半だった。私は冷た い水を飲んでから、一人でいてもつまらないから、あの男の部屋に いこうと思った。男の部屋のドアが少し開いていた。そこからそっ と覗くと、男が倒れていた。床には、真赤な血が流れていた。私は フロントを呼び、男は運ばれていった。おそらく既に死んでいただ ろう。出血がひどすぎた。刀で斬られたあとが、肩から、胸にまで 達していた。 次の日、昼過ぎに彼がようやく来た。私は昨夜のことを彼に話し た。彼は驚いていた。私はフロントに、男のことを尋ねると、ある 男に別室に連れていかれた。その男は、ホテルの重役で、昨夜の 事件については、あまり他言しないで下さい、と前置きして、あな たは第一目撃者として、今から警察に行ってもらいたいのです、と 言った。私は、仕方ないですね、と言ってから、彼に連絡して、警 察署へ私服警官に同行した。 警察署では、正直にすべて言った。警察は親切に接してくれた。 そしてその男が死んだことも教えてくれた。死因は、刃物で斬りつ けられた外傷による、出血多量であった、とのことだった。その男 の死は、何かを予感させた。何かを。そして、あの死体に刻まれた 斬った跡の凄まじさ。この世のものとは思えぬ暗殺。まずは、その 男、一体何者だったのか。 私は、その男が、借金で身を隠していたことを知った。殺された 日、ホテルに泊まったのも、取り立て屋から逃れるためだった。そ して、彼を殺す動機、それが一体何だったのか。疑問はその一点 に絞られる。金を貸していたなら、殺しては元も子もない。殺すは ずはない。では一体誰が何のために。 私は、その男の友人であった人物と会う機会に恵まれた。その友 人である人物とは、若い頃、何度か会ったことのある人だったけど、 今ではかなり太りぎみで、中年に成り変っていた。その人が言うに は、殺されたその男は、ある道では相当名が通っていた、とのこと だ。その道とは、剣術だと言う。剣道は有段で、さらに独自に居合 を会得した、とのことだ。とすれは、その道で知り合った何者かが、 真夜中その男の部屋に入り、斬殺した、ということになるだろう。 つまり、殺された方も、殺した方も、剣客であったということだ。 しかし、殺した方は、あの斬り様からして、相当の腕であるはずだ。 一撃で命をとるほどの腕の者は、そう多くはいないはずだ。その男 の友人は、いろいろと私に教えてくれたが、最後にこう言った。あ あいう世界には、関わんないほうがいいよ。彼らにしか分からない ルールがあるんだよ。たとえ殺しても、殺されても、どちらもそれ を苦にしないような、そんな感覚なのさ。 私は、殺された男と知り合いで、独自の剣術を切り開いたという男 を知った。その男の居場所も知った。どうしても会いたかった。だ から、その男をいきなり訪ねた。そこは横浜からかなり南にいった ところにある、普通の家だった。訪ねたが、不在だった。どこにい るか知らないか、とその家の住人に聞いたが、知らん、と言った。 私は諦めなかった。その家に何回か行って、少し様子を窺ったり した。その家の者には気付かれぬように。十日して、私が様子を窺 っていると、黒い服の若い男がその家に入っていった。私はその男 と眼が合った。その瞬間、動悸がした。直感的に、その男が、恐ら く殺しただろう、と思った。私はその後、しばらくその家には向か わなかった。しかし、何故か、ある日、もう一度、男に会いたくな った。男に。 そして私は男に会った。その男の家を訪ねて、直接、その男に会っ たのだ。正直に言って、いい男だった。しかも、若いと思った。私 はその男を食事に誘った。その男は二十三歳だ、と言った。そして、 学生で、普通の生活をしている、と言った。そして、わたしが言っ た男、つまり殺された男について、何も知らない、と言った。 私は男と寝た。男は身体付きからして凡手ではない、と思った。 この男なら、殺れる、と感じたのは、その男の眼だった。死んだよ うな眼、ほんの一瞬だが、残虐な眼になった。その眼を見ると、私 は死の恐怖に襲われた。 私は男と付き合い始めた。男は私の身体が好きだから、変だとは 知りながら、私にあまり何も聞いてこなかったのだった。 男は、ある日、ホテルのベットでこう言った。自分は、独自に編 み出した抜刀術を少々、してる、と。 男はしかし、私を本質的には信じていなかった。私は男の眼が、 冷め切った笑いを含んでいるのを、時々見た。つまり、男は私を、 初めから信用してなかったのだった。 私は男と会うのをやめた。危険を感じたから。そして警察に連絡 した。殺人犯がいる、と。 その後警察は、男の家に行ったが、男は既に逃げていた。男は 警察に追われる身となった。だが、私は常に不安だった。私が警 察に男を売ったことを、男は知っているからだ。私は護身用のピス トルを身に付けることにした。 ある日、男から電話があった。男はあるホテルの一室にいるから、 といって私に来るように命じてきた。私は危険を顧みずに、行った。 ピストルに弾を三発つめておいた。 指定された部屋には鍵が掛かってなかった。緊張しながら入ると そこには誰もいなっかった。しばらく待っても、何の変化もないの で、何か私へのメッセージがあればと思い探したが、全く何も出て こなかった。それから私はそこで夜中まで待ったが、男は来なかっ たし連絡さえもなかった。そして恐らくもう二度と会えないだろう ことを知った。