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第2回3000字小説バトル
Entry13

進化

作者 : 磊落っく [らいらっく]
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文字数 : 2998
男のメス化、女のオス化が進行し、男が女で女が男になってしまう
という人種が急激に増加し始めた。それでもこの人種も生後約2〜
4年間は男は男であり、女は女である。つまり2歳から5歳までの
成長時期を境に性別の逆転現象が起きるのだ。
約150年程前から出てきたこの種の人間を、彼ら自身が人口の大
多数を占めることになった現在、自らを[進人類]と呼んでいる。
既存種よりも進んだ人類であるという事なのであろう。そして既存
の人類は[遅人類]と呼ばれている。そのうち彼ら[進人類]は、
自分達こそが最大にして最高の、天が与えた神の分身であると主張
し始めた。
そして、社会の法律や規律の対象としては人口の大多数を占める6
歳以上の人間について規定するという事になり法律等の変更もこの
30年程の間に一斉に行われた。
現在、立法の場の者はほとんどが[進人類]で占められている。
また彼らメス化した男性、オス化した女性共に成長すると生殖能力
を失ってしまう為に、生まれた赤ちゃんは逆転現象の兆候が現れる
とすぐに性器及び生殖に必要な部分を全て摘出し、将来家庭を持っ
たときにお互いがその摘出した生殖器を生殖装置にかけて子供を産
むという仕組みになっている。
国会では今年度の法律改正案の中に[遅人類]間の性交渉及び結婚
の禁止を盛り込むと発表した。旧態依然とした男は男としてだけの
女は女としてだけの気持ちしか分からないような両親のもとで育っ
た子供が果たしてしっかりと成長できるのか、というのが[進人類]
の意見である。勿論[遅人類]は猛反対をした。
「これは[遅人類]絶滅計画としか思えない。[進人類]といえど
も一人で両性の気持ちが分かるとはいえない!」
議会内でもこの法案だけが厚い火花を散らし議論の的となった。

討論番組会場
[遅人類]間の性交渉及び結婚の禁止法案否定派の意見では、この
旧来の家庭と現在の家庭における離婚率の推移をフリップにして見
せ、その差は誤差といっていいほどしかないと主張する。
肯定派はその意見を聞いて、だからこそその後の子供のためにも片
親だけで父母の両面の気持ちからのアドバイスの出来る親であるこ
とこそが重要だという。
否定派は言った。
「彼ら、いや私もですが[遅人類]の女性は我が子を受精から出産
の間自分のお腹の中で育ててゆくのです。我が子を身ごもりいたわ
る気持ち、そして出産の痛みは子供との絆、まさに人間という動物
としての親子を親子足らしめる要素なのです。」
会場は一瞬嵐のようなざわめきが広がった。
法案肯定派のグループは鋭い目をさらに尖らせて反論する。
「何を言っているのですか。その痛みこそが我々人類がはるか昔に
持っていた罪悪への報いだったのですよ。私達[進人類]にはその
痛みは無い。罪は消え、解放されたのだ。これを素晴らしいと言わ
ずに何といえばよいのだ。何が動物としてだ、下等動物じゃあある
まいし。」
するとまた否定派が違うフリップを見せる。社会から異端視された
中での家庭において離婚率はきわめて低いのだというデータを開示
した。
肯定派は離婚率は低くても子供は不遇の日々を送ることになるだろ
うと反論する。
討論は延々と続いたが、テーマごとの総括は決まって肯定派の[進
人類]がくくる。彼ら[進人類]は今や放送というメディアでも多
くの優先権、特権を握り、振り回しているのだ。

[遅人類]間の性交渉及び結婚の禁止法案はまもなく可決された。

[遅人類]とは生まれてから性別の逆転現象を体験しなかった人た
ちなので、過去の解釈では決して変わった成長を遂げた異端ではな
く自然のままの人間である。むしろ[進人類]こそが本当に進化し
た人類なのかと疑う声もある。

やがて学校などでは多くの大人が予想していたことが起きた。
「やーい、男の成りそこないと女の成りそこないのこどもぉ!」
「なんだお前、お父さんのおっぱいもらってるんだろ。」
[遅人類]の子供達は、その絶対数が激減していることもあり、ま
わりの子供達から冷やかされいじめられた。そして確かにこの子供
達は不遇の人生を送ることになった。私立の学校によってはこうい
った子供を受け入れないところまで現れはじめた。
しかし、この[遅人類]の子供達はみんな[遅人類]として成長を
遂げ、普通の[進人類]カップルから生まれる子供達に比べ畸形率
や健康障害出現率がとても低く、かなりの賢さや運動能力も身に付
ける。こういったことが顕著になるとなおさら社会は[遅人類]に
対する締め付けをきつくした。
そしてここに不遇の人生を送り、両親を不慮の事故で無くした一人
の青年がいた。青年には特に名前は無かったが、仲間内からは[P
M]と呼ばれている。いつも夜中に行動を始めるというのが彼のパ
ターンで、仲間からの信頼は厚く、彼の目は暗闇の中の炎のような
温かさと存在感を持っている。とても言動に説得力があり[遅人類]
に平和(Peace)を作り出し(Make)てくれる希望の存在
しても扱われている。彼は両手両足、脳みそに心臓、肺、肝臓、腎
臓、その他元来の人間としてもっているもののうちの多くと強烈な
統率力を持っていた。
[遅人類]がここまで差別をされ、制度や多数派による慣習に縛ら
れた社会に一石、いや一発投じてやらなければならないと説き、彼
はさらに多くの同士を説得した。
彼らは全国で一斉にある建物を爆破する計画を練り始める。
「ただ一つを残してもいけない、全ての施設をくまなく調べ上げ、
占拠しなくてはならん。相手の出方次第では全てを焼き尽くすこと
になる。それをやらなくちゃ僕達の未来は今よりさらに絶望的にな
ってしまうだろう。今こそ僕達の本当の世界を作り上げようじゃな
いか。やつらの急所に一発食らわしてやれ。」
集まった[遅人類]の2世、中には3世の小さな子までいた、は固
い結束を確かなものと見とめ各地へ散った。

生殖器及び関連器官保存・再生センター。
そこにはおびただしい数の男女生殖器が保存されている。
オス化した女性と、メス化した男性が幼児期に摘出した生殖器。
今この国を支配する人々はこのセンターなしに子孫の繁栄は永久に
不能なのだった。そしてさっき散っていった[遅人類]の若者達は
真っ暗なそのセンターに忍び込み、各センターを占拠した。
それと同時に、[遅人類]によるセンター占拠宣言がなされた。
[進人類]と[遅人類]の間にこのような軋轢があるとは思ってい
なかった高圧的な[進人類]たちは、彼らが何に不満があるのかと
困惑していた。
彼らは[遅人類]たちのこれまで味わってきた苦い経験を聞かされ
た。そして[遅人類]がこれからしようとしている計画を聞き、主
導権も何もかも握られた[進人類]たちは仕方なく[遅人類]たち
に自分達と同じ権利を与えた。
[遅人類]の幸福と[進人類]の降伏のしるしとして占拠した者た
ちは手当たり次第にそこにある男女生殖器を生殖装置にかけランダ
ムな性交渉をさせていった。
中には[進人類]同士でありながら敵対する者同士の性交渉になっ
ていたり、期せずして相思相愛の者同士の性交渉になっているもの
もあった。そして[遅人類]の中には友好のしるしだとして[進人
類]の性器と性交する者もいた。
[PM]は[遅人類]の勝ち取った権利に喜んでいたが少し悲しん
でもいた。彼には生殖能力はなかった。

時代を作り上げるものはそれが終わると姿を消した。

そして新しい世紀が始まった。