第2回3000字小説バトル
Entry7
街にはハデなディスプレーと、ガンガンに流れるBGMが、クリ スマスムードを盛り上げている。 今年のクリスマスイブも、沙也加からの招待状に誘われて、彼女 の部屋の呼び鈴を押すことになった。 「いらっしゃい。沖田さん!」 笑顔の沙也加が、部屋の中にエスコートしてくれる。 やさしいしぐさが、男心をくすぐる。 クリスマスらしい赤のニットスーツが、身体の線を浮きあがらせ ている。大きな瞳と、ツヤツヤした唇、そして白い肌がいつも僕を そそる。沙也加は年をとらない永遠の女性なのだ。 「これ、プレゼント。僕が一番だった?」 クリスマス包装を椅子に置く。テーブルには十人分の料理が並ん でいた。 沙也加はワインを開けながら、上目づかいに僕を見て言った。 「あら? 知らなかったの? 今年は沖田さんと、青木さんだけな のよ。残念だわ。急に淋しくなって…」 ドキッとした。 「他の人は? 何かあった?」 「まあ、どうぞ一杯!」 沙也加はワイングラスにワインを注ぎ、空中で乾杯をした。 「メリークリスマス!」 ワイングラスを傾ける。まるで血のような赤ワインが、胃にしみ わたる。沙也加は、僕の持ってきたクリスマスプレゼントを開けな がら、話を続けた。 「佐藤さんは心不全で八月に亡くなったのよ。清水さんは癌で十月 に、水上さんは交通事故で十一月に…みんなまだ若いのに、急にど うしのかしらね?」 「知らなかったよ…僕は、会社倒産の後始末のために海外に出張し ていて、先週帰ったばかりだからね…みんな、残念なことをした…」 「このクリスマスイブのために帰ってきてくれたのでしょう? う れしいわ。わぁーすごい! とってもよく切れそうなノコギリだわ。 ありがとう!」 沙也加は大切そうに浴室の入り口に置いた。 玄関チャイムが鳴る。 「いらっしゃい! 青木さん!」 「やあ、メリークリスマス!」 部屋に上がった青木は、僕の顔を見ると安心した表情を見せた。 「沖田だけでも来てくれて助かったよ。今年は三人も死んでしまっ たんだ。沖田には連絡がつかないし…今年はひとりかと思って震え 上がっていたよ。会社が倒産したんだってな? 後始末は終わった のか?」 「とりあえず、迷惑を最小限度に押さえたよ」 「青木さんのプレゼントはこれ?」 沙也加は包みを開け始めた。 中には、牛刀が入っていた。 「ありがとう。きれいな牛刀ね。よく切れそうだわ。さあ、パーテ ィーを始めましょう」 僕たちは改めて乾杯をした。僕と青木はいつものように手が震え ていた。 ワインをガブ飲みして忘れようと思ったが、酔うこともできない。 青木と共謀して沙也加のグラスにどんどんと注いだ。沙也加はだん だんと、ろれつが回らなくなっていく。 これではいつもと同じだ。 酔った声で、沙也加が言った。 「もうこんな時間。そろそろかしら?」 ソファーに座っている沙也加の組んだ足から、黒いパンストにお おわれた、白いパンティーが見え隠れする。 僕と青木は目で合図をすると、沙也加を押さえ付けた。 「何するのよ! 嫌!」 全身で抵抗する沙也加の顔を殴った。 「騒ぐと殴るぞ!」 青木の言葉に、沙也加の大きな瞳から涙があふれた。 六年前は、五人で沙也加を強姦した。 大学を卒業する最後のクリスマスイブに、沙也加の部屋を提供し てもらい、ホームパーティーを企画した。男女十人が集まると沙也 加には嘘をつき、沙也加を強姦するパーティーを企画したのだ。当 日、沙也加は適当にごまかし、酒を飲ませ続けた。適度に酔い潰れ たところで、押さえ付けみんなで犯した。 沙也加は男に甘える女なのだが、特定の男をつくらないタイプだ った。イブの晩に集まった五人の男たちは、みんな沙也加に、振ら れた男たちだったのだ。 卒業の開放感も手伝っていた。 ところが、事態はとんでもない方向に進んでいった。沙也加を犯 した後、そのままベットに寝かし、僕たちはビールを飲んでいた。 ときどき沙也加を横目で見ては、自業自得だと納得しようとしてい た。卒業後の話に熱中していたとき、殺気を感じた。 沙也加が包丁を持って立っていたのだ。僕たちの目が包丁に集中 した。 「わたしは、あなたたちなんか嫌いなのよ。他の人の力を借りなく ちゃ何もできない男なんて、我慢できない。これがわたしの気持ち よ!」 沙也加は僕を見つめながら、手首に包丁を入れた。血液は勢い良 く、ドクンドクンと心臓の伸縮に合わせて天井に吹き出した。 「やっちまった!」 沙也加は崩れるように倒れこんだ。 破けたニットスーツの鮮やかな赤と、血の色が対照的だった。血 は空気に触れると鮮やかさを失っていく。 呆然としてはいられない。僕たちには未来がある。就職も決まっ ているし大学卒業ももうすぐだ。沙也加のために、全てを棒に振り たくはなかった。 死体を処理することにした。 できるだけ細かくして、ゴミといっしょに出すことにした。肉を 削ぎ落とし、筋をはがして、骨をノコギリで細かく切った。頭蓋骨 はカナズチで砕いた。脳味噌が飛びはねる。五人で一晩かかって解 体…部屋の掃除をして、それぞれ十一キロの肉を持って部屋を後に した。 その後、沙也加の親が捜索願を出したらしいが、事件は発覚しな かった。沙也加の住んでいたマンションは、老朽化のため半年後に 取り壊された。その時点で、あの事件は闇に葬られたと思っていた。 ところがその年のクリスマスイブの、ホームパーティーの招待状 が、僕たち五人に舞い込んだ。もちろん、沙也加からのものだった。 住所は取り壊されたマンション…五人で行ってみると、あのときの マンションが闇の中から出現した。イブの夜だけ異次元から現れる のだ。沙也加と共に… そしてパーティーが始まる。十時にみんなで、嫌がる沙也加を強 姦。そして沙也加の自殺。いまだに僕を見て手首を切る。死体処理 …十一キロの肉を持ってこの世に戻るのだ。あれから五年間、同じ 事を繰り返してきた。いままでは五人いたから、どうにか続けてこ れたが、今年は二人だ。 朝になっても、死体の処理は終わらなかった。高価な牛刀もノコ ギリも、切れなくなっていた。血と肉の匂いが汗と共に、身体にか らみつく。それでも二十五日の夕方にはどうにか処理し終わった。 でも、ひとり二十七・五キロの肉を処理しなくてはならない。大き な鞄に詰め込み、掃除をしてフラフラになりながら二人でマンショ ンを出た時には、二十六日の早朝になっていた。 青木がつぶやく。 「いつまで続くのかな?」 「沙也加が許すまでだろう…」 「身体大切にしろよな。俺ひとりになったらできないだろうから」 「お互いにな」 二人とも疲れ果てていた。 「じゃあ、来年…」 青木と別れて歩きだすと、車の急ブレーキの音が背中で聞こえた。 青木が車に跳ねられたのだ。急いで駆け付けたが、青木の首は百二 十度以上曲がり、息耐えていた。 朝日が眩しい。どうやって、どこまで歩いてきたかも覚えていな い。 とうとう、ひとりになってしまった。 来年も沙也加からの招待状はくるだろう。 避けられないことだ。ならば、とことん沙也加に付き合うしかな い。一度は惚れた女だ。 一年のうちに、慣れるしかない。 近くの公園で遊んでいる少女が見えた。 まずは、小さな子からだな… 僕は公園に向かって歩いていった。