第4回3000字小説バトル
Entry1
僕は木下が嫌いだったんだ。 木下というのは、会社の同僚でありライバルだった。 木下は僕よりも優秀で女の子にだってもてるんだ。くやしかったん だ。何をやってもあいつに勝つことができない。あいつさえいなけ れば、僕は上司に毎日のように小言を言われないですむ筈だったん だ。 あいつさえいなくなれば・・・・・・。 勤務を終えて、女の子と話をしている木下を尻目に一目散にバス 停へ向かって歩き始めた。 まだ冬の寒さが風によって伝わってくる。 ふと気がつくと前から怪しい男がやって来る。帽子を深くかぶり、 サングラスをかけて、コートを羽織っていてどうみても普通の人に は思えなかった。私を凝視している。 コートの男は何かを考えてるようだった。 「はじめまして、こんにちは」男の太い声が響いた。 びっくりして挨拶をしたが、わけがわからない。 「あ、あのー、すいませんがどちらさまですか? 」 思い切って聞いてみることにした。 「私はボディーガードをしてる者です。失礼ですが、誰かに狙われ たりしてませんか? 私はどんな人でも完璧に守り切りますよ」 僕はびっくりしてその男を見ていた。 「どうですか? 絶対守ってみせますよ」 僕はやっとのことで「いえ、すいません、まにあってます」とだけ 男に言った。 「そうですか、それでは名刺を渡しておきますので御用のときはい つでもどうぞ」とだけ言って、名刺を渡し消えていった。 なんだったんだ? へんな商売もあるもんだ。でも、僕には関係 の無いことだ。僕はくしゃみをしながらバス停に向かった。 次の日、やはり風邪をひいてしまった。運悪く薬を切らしていた。 弱った体で薬局に向かった。 「せっかくの日曜日なのについてないなー」 愚痴をこぼしながら歩いていたら、喫茶店でかわいい女の子と話を している木下を発見した。木下の家はたしかこの辺では無い筈だ。 わざわざ女の子のために、そして知ってる人にばれないようにこん なとこにいるんだな? 僕はそう考えた。くやしかった! なぜ木下ばかり僕より幸せになるんだ?なんであいつに勝てない んだ? 嫉妬心を燃やしていたら、ふと、怪しい男が近づいてきた。 「はじめまして、私は殺し屋です。失礼ですが、誰かを殺したいっ て思ってませんか? 私はどんな人物でも完璧に殺しますよ」 僕はびっくりしてその男を見ていた。「どうですか?絶対殺してみ せますよ」 なんなんだ? 近頃何故こんなやつらとばかり会うのだ? ボデ ィーガードといいこの殺し屋といい・・・・・・ん? まてよ。 絶対に人を殺す殺し屋と、絶対に人を守るボディーガードか・・・ ・・・。もしかしたら、うまくいくかもしれないぞ! 僕は殺し屋に向かって聞いてみた。「絶対にどんなやつでも殺せる んですか?」 「はい。一ヶ月以内だったら必ず」「いくらですか? 」 「一千万です」「そいつは高いよ! 」 「安いですよ! 絶対にあなたには迷惑かけませんよ」 僕はついに決心して言ったんだ。 「絶対ですね? もし、あの男を殺せたら一千万払う! しかし、 もしできなかったら代わりに僕に一千万くれるか? 」と言って、 木下を指差した。 「いいでしょう。私は今まで一度だってミスしたことはありません よ。あの男ですね」 「あの男は木下ゆう・・・」言いかけて、男に口をふさがれた。 「説明は要りません。感情を入れたくないし、自分で調べるよ。で は一ヶ月後に! 」 と言って店の中に入ろうとしていた。「あ、あとねーもしお金払わ なかった時は殺しますからね」男は笑いながら去っていった。背筋 がぞっとした。 僕は急いで作戦を実行した。公衆電話に走り、名刺の番号に電話 した。 「K会社の木下祐二という男を一ヶ月間守ってくれ! 報酬は一千 万だ! しかし、もし失敗したら代わりに僕に一千万をよこすって いうのでどうですか? 」 電話ごしにあのボディーガードの声が響いた。 「いいですよ。私は今まで一度だってミスをしたことはありません から」 電話を切ると僕は急に安堵した。これでもう安心だ! もし、木 下が殺されたら、ボディーガードは守れなかったということになる から、一千万もらって殺し屋に渡せばよい。 もし、木下が何とも無かったら、殺し屋は失敗したということにな るから、一千万もらってボディーガードに渡せばよい。僕はまった く損をしないではないか!! ふふふ、どうなるのか楽しみだ! 次の日、会社で木下は女の子に囲まれていた。女の子の一人が木 下にしゃべっていた。 「木下さん、昨日女の子連れて歩いてるとこ見ましたよー、彼女な んですか? 」 そんな話できゃーきゃー盛り上がっている。木下は驚いた顔をして、 「え? 昨日? ち、ちがうよー知らないよー」などと言ってごま かそうとしていた。僕以外にも木下を見た人がいたのか、それにし ても嘘付くなんてなんてやつだ! ふん、まあいいさ。 そのうち自分が殺されるかもしれないのにいい気なもんだ。僕は木 下を無視してデスクに着いた。木下達はまだ話をしていて、ときど き「えーー! そうだったんですかー? 」 「すごーーい! みたーーい」という、女の子の黄色い声だけが聞 こえてきた。どうやら木下は女の子をうまく騙せたようだ。僕はじ っと我慢することにした。 そして、あれから一ヶ月後、木下は会社に来なかった。 まさかと思って仮病を使って家に帰った。すると郵便受けに二枚の 封筒が入っていた。 1つめは殺し屋からだった。 「任務遂行、現金用意サレタシ」 という請求書であった。ということはやはり木下は殺されたのか? ボディーガードは失敗したのか?そんなこと考えながらもう一枚の 封筒を開けた。ボディーガードからだった。 「任務遂行、一千万用意サレタシ」 という請求書であった。どういうことなんだ? 木下は生きてるの か?死んでるのか? 殺し屋は殺したと言うし、ボディーガードは守ったと言う。そんな ことあるはずない! とりあえず、落ち着くためにテレビをつけることにした。そしてそ こには・・・・・・。 「本日未明、K市で木下裕一さん(26)が何者かに殺されている ところを発見されました。第一発見者であり、双子の兄でもある木 下祐二さんの証言では、最近、黒い帽子、サングラスをかけ、コー ト姿の不審な人物が祐二さんの周りをうろうろしていたとの情報で す。引き続き警察では・・・・・・」 ここから先はもう僕の耳には入らなかった。 二枚の請求書だけが残った。