第4回3000字小説バトル
Entry2
窓の無い白い部屋に千春は何人もの人が見守る中、椅子に座って いた。向かいには女の人が座っていて千春に質問を始めた。 「あなたの家族構成を教えてください」 「母と弟と、あとおばあちゃんがいました」 「お父さんは?」 「私が小学校に入る前に両親は離婚しました」 「いじめに遭った事は?」 「小学校二年生の時と五年生の時、五年生の時のはひどくってその 後は友達を作りませんでした」 「男性と付き合った事は?」 「ありません」 「処女?」 「違います」 「初体験はいつ?」 「中学二年の時です」 「相手は?」 「お父さんの知り合いです」 「相手の方はおいくつ?」 「当時30ぐらいだったと思います」 「どうだった?」 「解らない事だらけで不安だったわ、クラスに好きな男の子がいた んだけど最中はその子の事まったく思い出さなくって、後で一人で 泣きました」 「御両親は知っているの?」 「父は知っています」 「あなたはまだ若いのに風俗で働きたいと思う事はそれに関係があ るの?」 「どうでしょう」 「将来は何になりたい?」 「偉くなりたくない」 千春が店を出ると雪が降っていた、今年の初雪は真っ暗な空から 静かにおりてきて街のネオンが当たる所まで来るとその姿を不意に あらわした。 「どうりで今日はお客さんが少ないと思った」 千春は今日の稼ぎを数えながら歩き出した。お札の数を数え終え 顔を上げるとそこに若者が座ってお酒を飲んでいるのが見えた。 「こんばんは」 千春はその若者の顔が好きだったので声をかけた。 「何しているの、寒いしこんな所にいたら死んでしまうわよ」 若者は千春を見ると顔を下に向けた。 「僕は死なないよ、僕はロボットなんだもの」 「でも、寒いでしょう、良かったら私が飲み物をごちそうするから 日が出るまでそこですごしましょうよ」 千春は無理矢理若者をたたせると近くの24時間のファミレスに 連れていった。 「あなたのお名前は?」 「キク」 「住んでる所は?」 「無い」 「毎日どこで寝てるの?」 「いろいろ、公園のベンチや自販機の影、駅の改札の外あそこはい いね風も防げるし」 「本当にロボットなの?」 「そうだよ」 「信じると思う?」 「かってだよ」 「顔、いいわね」 「僕は嫌いだよこの顔」 「家も無くて不安じゃないの?」 「僕はロボットだからそんな事思わないよ」 「寂しくも楽しくも無いの?」 「悲しくもうれしくもない」 「じゃあ何のために作られたの?」 「僕は何かのために作られたんじゃなくて、僕は作られるために生 まれてきたんだ」 「よく、わかんない」 「いいよ、別に」 「私の目どう思う?」 「大きい」 「私の口は?」 「少し話しすぎる」 「私の白くて長い手足は?」 「ステキだと思うよ」 「私の着ている洋服は?」 「少しうすぎすぎるかな」 「ねえ」 「なに」 千春は冷めたコーヒーを一口飲んでキクの顔を覗き込んだ。 「あなたは本当にロボットなの?」 場所は再び白い個室。千春は今日も同じような質問をされる事に 限界を感じていた。 「風俗をやっていて楽しい?」 「楽しいとかじゃないわ、でも偉くなるよりはましね」 「知らない人の前で裸になる事に関してはどう思っているの?」 「気持ちいいわよ、私スタイルいいでしょう?私それだけは自信が あるの、でも他で見せる所ってないでよう?」 「お母さんは好き?」 「解らない」 「お父さんは好き?」 「解らない」 「弟は?」 「解らない」 「この世で一番好きなものは?」 「特に無い」 「自分の事は好き?」 「別に」 「どうしたら好きになれると思う?」 「解らない」 「未来は明るいと思う?」 「うるさいな」 千春は女のメモをするボールペンを奪うと女の目に当てた。 「それ以上言うとこのペンをぶっさすわよ。もう飽きたわここから 出してちょうだい、ここに入る限り私はあなたの質問に答えなけれ ばならないの。だから私をここから出して」 キクは自販機の横に座っている。昨日の雪は積もらなかったよう だ、都会で雪なんて積もる事なんてめったに無い、この街は白い雪 で隠される事なんて無いのだいつだってアスファルトはむき出しだ しネオンが埋もれる事も無い。キクが寒さと空腹でうとうとしかけ ていると一人の男がビデオカメラを回しながら寄ってきた。不意に キクはカメラに向かって話し出した。 「僕はベジタリアンです」 男は静かにビデオを回した。 「僕は21歳です」 「僕は万引きをした事があります」 「僕は紅い花が好きです」 「僕は包茎です」 「僕は一日何本ものお酒を飲みます」 「僕は家がありません」 「僕はいつもここに居ます」 「僕は男の子です」 「僕はロッカーの中で産まれました」 キクはそのまましばらくレンズを見ていた。画面にはキクの顔が ただ映っている、なんか言いたそうにも見えるが本当は何も言う事 が無いのだ。男はそんなキクに飽きてしまったのかカメラを降ろし てどこかにいってしまった。キクだけがまたそこに残った。