第4回3000字小説バトル
Entry23
外は雨。 寂れた漁村の公民館。 立ち見をする人、多数。 ステージの上に男一人。 ヤァヤァ、可哀相なお客様。この素人魔術師のマジックショーに ようこそおいでくださいました。……そんな、金返せだなんて言わ ないでよ。そう馬鹿にしたもんじゃないよ、私のマジックは。この 怪しげな仮面だってマントだってなかなか立派なものだろう。それ に、いままで一度も文句を言われたことが無いんだよ。 ……ハハハ、いやぁー、参ったね、お客さん。お客さんの鋭さに は参ったよ。どうして、今日が初舞台ってわかったんだい? …… エッ、手が震えてる?……ああ、本当だ、手が震えちゃってるね。 ハハハハ。でも、初舞台だからってわけじゃないんだよ。こんなに 沢山の美女を見たのは初めてだからね。ハハハハハ。……お世辞? そんなんじゃないよ、社交辞令さ。アハアハ。マァマァ、ちょっと 観ててよ、絶対に文句は言わせないからサ。 ポンポン。ン? 早く持ってきておくれ。ポンポン。アー、そう かそうか、素人魔術師に助手はいないんだった。いくら手をたたい ても綺麗なお姉ちゃんがでてくるはずないね、ハハハ。 サァテサァテ、ここにあるのは皆様おなじみのギロチンだ。穴に 入れた大根を、紐を引くだけでスパッと切れちゃうとんでもなく恐 ろしいしろもんだよ。サァ、これの新しい犠牲になってくれる…… そこのアナタ! いかがです? ……ウーン、嫌だって言われると 困っちゃうんだよね。エエト……じゃあそこの綺麗なアナタ。そう そう、あなたですよ。……エー、あなたも嫌なの!? ウーン……。 これはこれは本当に困った……ウーン。皆さんなにを怖がってるん だい? エッ、素人だから失敗するかもしれない。フーン。ナァニ、 コレでも魔術師の端くれ……。……………………キット……多分… …大丈夫さ……ナァニ、片手だけでも十分暮らしていけるよ。今は 世の中”ばりあふりー”だからね。ハハ……。 ……ン、なに! ヨーシ、ならやってやろうじゃないか。今言っ た奴でてこい。ギロチンの紐を引いてくれ! ……フフ、さっきまでの威勢はどこに行ったんだい? ……ハハ、 心配することなんかなんにもないよ。失敗を恐れちゃなんにもでき ないんだから。フフフ……。サァ、ひと思いにやってくれ。コレで もちょっぴり怖いんだから。……なにをしてるんだい、早く引いて くれよ。サァサァ。……ウーン、じゃ、1、2の3でいいかい? ……いいね。それじゃいくよ。心の準備はできたかい? よーし、 できてるようだね。でもちょっと待っててね。実は私の準備ができ てないんだ。ハハハ、冗談だよ、冗談。アハハハハ。じゃあいくよ。 1……2……のォォ……3! アアアアア! 大失敗だぁー!! 手がぁー、手がぁー!!! って、オイオイ、なにを笑ってるんだい。私の右手が無くなったん だよ。ナニナニ”血が青いじゃないか”だって、血が青いと右手が 無くなっても平気だと思ってるのか!? ハハハハハ、黙らないでくれよ、困っちゃうじゃないか。人間は 血が赤いものだよ、青いはずないだろ。ハハハ。フフン、なかなか の出来だろ、その手。青い血がドバドバ出るところなんか苦労して ね。フフ。ヨシ、じゃあ、大出血の大サービスだ。今度はこの首を 切ってもらおうじゃないか。ネェ、もう一回手伝ってくれるかい? ……ン、フンフン。当然の質問だね。ゲンコツぐらいの穴に首が 入るはずないからね。フフ、やっとマジックらしくなってきたね。 サァテサァテ、ここからやっとマジックショーの始まりだ。サァサ、 この小さな穴に私の大きな頭が入りましたら大きな拍手をお願いし ます。 ……ヨッ、この重いギロチンを頭の上に掲げまして、ヨ、ヨ、ヨ、 ヨ、ヨッと一回転。さらにも一つ一回転。も一つおまけにもう一回。 ジャーン! 皆様盛大な拍手をお願いします! ……ヘヘヘヘ、拍手喝采てのはいいね。ヘヘ、どうだい、すごい だろ。私が素人に見えるかい? ……エッ、”調子に乗るのはまだ 早い”って、ハハハハハ、厳しいねぇ、社会は。フン、じゃあ一発 やってやろうじゃないか。 ……ンー、ヨイショっと、ギロチンを机の上に置いてね。サァ、 準備完了だ。あとは紐を引くだけだ。じゃあ、頼むよ。ウンウン、 もう1、2の3はいらないね。ン、合図はしたほうがいいの。ウン、 わかった。スットーンとやってくれよ、スットーンとね。ヨーシ、 それじゃあ……やってくれ! ハ 男が紐を引くと素人魔術師の首がコロンと転がった。その首は鮮 やかな切断面を下にして客を眺めるようにして止まり、胴体の切断 面からは、首を追いかけるように、目の覚めるような青い血が噴き 出した。 娯楽の少ない漁村の村民達は真っ青になり、気を失いかける客も いた。だが、魔術師の胴体から自分達の顔色よりも青い血が飛び出 す様をしばらく眺めると、全ての客の口から「フー」や「ハー」と いう安堵する声がもれた。次第にその声はパチパチと大きな音に変 わり、素人魔術師を褒め称える歓喜の声へと変わっていった。 「すごいぞー!」「よっ、天才魔術師!」と会場の興奮は最高潮に 達していたが、可笑しなことに、いまや天才魔術師の素人魔術師は ピクリとも動かない。青い血だけは延々と流れつづけ、愉快に笑い だすはずの首を青い血で染め続けた。さらに可笑しなことに、青い 血に交じりながらタラタラと赤い血が流れてきたのだ。 その血を見た客は興奮の絶頂から恐怖の底へとたたき落とされ、 気弱な客はバタンバタンと失神し、そうじゃない客も気が触れたか のような悲鳴を上げた。失神もせず悲鳴も上げなかった客はステー ジの上に上がり、素人魔術師の安否を確かめた。恐る恐る腕を伸ば し、素人魔術師の体に触れようとしたその時だった。素人魔術師の 体が大きく揺れ、大きな声で笑い出したのである。 ハッハッハ! 驚いたかぁ! アッハッハッハッハ! この素人 魔術師一世一代の大魔術! これから始まる大魔術師の伝説の第一 歩を!ハッハッハ! クゥー、たまらん。思えばとても長かった。生まれもっての障害 を、一寸法師と馬鹿にされ、今のために、今だけのために生きてき たこの30年! サァ、褒め称えよ。大魔術師の誕生に歓喜せよ! アッハッハッハ! ……ン、拍手はどうした? ン、ハハア、そうか。俺の顔が見え てなかったな。さぁ、これでどうだ。 ……なにィ、どうして、また悲鳴を上げるんだ!? ……アア、 これか、フフン、驚いたか。青い血の後に赤い血を流すなんて普通 考えつかないだろ、ヘヘヘ。もちろん頭に付いてるのは赤い血糊さ。 なめてみるかい? 見た目は血そのものでも、味はなんとストロベ リーだ。アハハ、冗談だよ。冗談。ハハハハ……ハ? …………… ………………アー! ギャー!!! 客の悲鳴を聞きながら、素人魔術師はヒュルリとマントを脱ぎ捨 て、生まれつきの小さな体をあらわにした。足は竹馬に似た義足を はき、手にはかなり精巧な義手を持っていた。素人魔術師はその手 をポイッと投げ捨て、小さな手で頭に触れた。そこには血糊でべっ たりとした髪の感触はなく、なにかヌルリとした気味の悪い感触が した。それはまさに、本当の血で汚れた頭蓋骨の手触りだった。 外は雨。 寂れた漁村の公民館。 立ち見をする人、無し。 ステージの上に、首一つ、手二つ、足二本。 ただ気持ち悪いだけだった。