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第5回3000字小説バトル
Entry2

MARIA

作者 : Yutaka Izumihara
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文字数 :
Sunday

冬のボンダイビーチは静かだ。
小さい女の子の手を引く厚手のコートを着た男。頭髪のない痩せこ
けた犬がシーウィードを食っている。
『あまりそっちにいちゃだめ』
女の子が男の手を引き寄せながら諭す。
『大丈夫だよ。マリアは心配性だな』
『だめだっていったらだめなの』
男ははいはいと苦笑しながら、波打ち際から離れた。
『PEE(おちっこ)。』
『ばか、トイレまで我慢できるか』
男はあわててマリアをおんぶし、ビーチ沿いのトイレへと駆け込ん
だ。

Monday

『祐介。これが最後の仕事だ。永住権も一週間後にはおりる。お前
は自由だ』
しわがれた声が、受話器越しで懇願するように言う。
『チャイニーズのときもそう言わなかったっけ。』
男は韓国製の煙草THISを吹かして、
『五本ですよ』と首を振りながら言った。
『わかった。いつもどうりに届ける。なぁ、祐介、オンナでもいる
のか』
男は一瞬考えて、
『大丈夫ですよ。2才ですから』と言って煙草の火をもみ消した。
しわがれた男の笑い声が響いた。

Tuesday

ニュートラルベイのジャパレス。1階が駐車場で、2階がレストラ
ン、3階が高級クラブになっている。
男はカウンターでカクテルを作っていた。
『金(キム)。中にCCもって行ってくれ、ロックで』
マスターが、いらしゃいませ、と笑顔で馴染みを向かえ、リザーブ
シートに案内する。
男は棚からCCを下ろし、グラスとつまみを用意して、南極から輸入
された氷をアイスピックで砕いた。音もなく粉々になる。
『兄ちゃん、新顔だな』ボスの向かいに腰掛けたサングラスの男が
しわがれた声で言う。
『よろしくお願いします』
男はCCをグラスに注ぎながら厳しい視線を感じていた。ほんものだ、
男は思った。
ロックを小さいテーブルに置こうとしたとき、ボスが声をかけた。
『お前なら何を切る』
男は躊躇することなく、
『左から二つ目のハイが邪魔になるでしょう』と言った。
『勇気あるな』
ボスがキューバ産の葉巻を取り出した。男は黙って火を付けた。

Wednesday

『マリア頼めるかな』
アイリッシュ訛りで話す男がもうしわけなさそうに言った。
『いろいろと大変なんだ。別れたかみさんには毎月仕送りで、母親
が倒れて、病院にも行かなくっちゃならなし、それに、』
『いいよ』
男は小雨の降る海を眺めながらぶっきら棒に応えた。波が荒れてい
る。サーフィンはできないな、男は思った。マリアは男のベットに
潜り込み、伸びをした。
『悪いねぇ。いつも』
『いいよ』
皺の刻まれた顔が歳より老けて見える。男はアイリッシュ訛りの男
を見送った。
マリアが、ここに来て一緒に座れとベッドを叩く。
男はゆっくりとベットに腰を下ろし、マリアにキスをした。

Thursday

男は韓国人街ケンプシーにいた。
コートから煙草をとりだし、火をつけながら誰も後をつけていない
か確認して雑貨屋に入った。愛想の悪い店員に案内され裏口へと入
る。
『アニョハセヨ』男は眼鏡をかけた老人に挨拶した。
『軍から安く手に入れた』老人は東亜一報に目を向けたまま動こう
としない。男は肯いて、老人の傍らを通り、薄汚い壁の角を押した。
壁の裏は武器庫になっている。男はK、Mシリーズには見向きもせ
ず、小型のハンドガンとコルトを手にした。男は感触を確かめるよ
うに殻撃ちした後、ブリットを詰め、コートの裏にしまった。

Friday

男はエスプレッソコーヒーをたてながらどうっやって言い訳しよう
か悩んでいた。
遊園地に連れて行くとマリアに約束していたことをてっきり忘れて
いた。
男はカップにコーヒーを注ぎ、大きく深呼吸して、受話器をとり、
アイリィシュ訛りの男に電話した。マリアの泣き叫ぶ声が受話器に
響く。男は悲痛な表情を浮かべてコーヒーを啜った。
それから男は店に電話し、風邪で休むと知らせた。

Saturday

AM 4:30

男は、1970年代のダットサンに乗り、ニュートラルベイに向か
った。ハーバーブリッジを渡っているとき、後部座席でオンナの声
がした。
『マリア』
男はマリアの笑顔をバックミラー越しに見た。
今更、引き返せない。男はハンドルを殴った。うかつだった。誰も
盗む奴はいないとドアロックしていなかった自分を恥じた。
男は車を店の前に止めた。人通りはほとんどない。
『マリア、五分間、俺が戻るまで車から動くな。明日は絶対遊園地
に連れて行く。分かったな』男はふくれるマリアにキスをして、回
りを確認してから店に近づいた。
男は裏口の非常階段を静かに上り、三階の明かりを確認してから、
合鍵でレストランのドアを開けた。男は静かに階段を上っていく。
クラブを通り、
『金(キム)?』売り上げの計算をしていたマスターの額をアイス
ピックで突き刺した。慌てるボディーガードにハンドガンで三発食
らわし、ドアを蹴り開け、麻雀卓を背にした男の後頭部に一発、向
かって右の男を二発で仕留めた。
『何が望みだ?』ボスが男を睨み据え尋ねる。
『左のハイを捨てなかったのはあなたのミスです』
左に座っているサングラスの男がボスのこめかみを射抜いた。ボス
の脳が飛び散る。
男がサングラスの男に言う。
『これであなたがボスです』
『約束した永住権だ』しわがれた声が言った。
『PEE(おちっこ)』そのときマリアがよちよち現れた。
『くるなといったろ』男はマリアに現場を見せないように、テーブ
ルカバーで被おうとした。しわがれた声が男の背に照準を合わせる。
ゆっくりと引き金を引いた。
『オンナには気をつけろ』
5発の弾丸が男を射抜く。男は前のめりに倒れた。そしてマリアに
近づき、
『ここでしろ。俺が見えないようにしてやる』と震える体で被った。
『終わったか?』肯くマリアの頭をなぜ、非常階段から出て行くし
わがれた男にコルトを向けた。しわがれた男が階段を転げ落ちる。
男は見つめるマリアに、
『ひとりでPEE(おちっこ)できるようになれ』と囁いた。
『遊園地は?』マリアが泣きながら言った。