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第5回3000字小説バトル
Entry23

中学生は……

作者 : あきら
Website :
文字数 : 2991
「学校の怪談って、小学生かってーの」
「”てーの”じゃないわよ! 文句があるならなんか考えてよ」
 七月上旬。祐次と洋子の学級新聞作成会議。一学期は修学旅行、
運動会と大きなイベントがあった。それだけでなんとかなると考え
ていた二人だったが、実際に書いてみるとどうにもスペースが余っ
てしまう。付け足すにももうネタがない。祐次は「写真をもっと増
やせばいい」と言ったが、洋子が首を縦に振らなかった。
「なら、写真を大きくしよう。それならいいだろ」
「ダメ。なんかイヤ」
「……俺は怪談話が嫌」
「別に怖い話じゃなくてもいいよ。恋愛……とかは?」
「恋愛? まだ怪談話の方がいいな」
「じゃあ、怖い話でいいじゃない。んじゃ、なにかと噂の理科室か
らレッツゴー!」
「おい、無視すんなよ。おい。なにかと噂の理科室ってなんだよ。
おい。もう暗いから明日にしよーぜ。おい、聞いてんのか。なぁ、
おい」
「”おいおい”うるさい! 噂は噂! 暗いから怪談! わかった
!?」
「わかんねーよ! 噂は噂ってなに!」
「黙ってついて来い!」
「べ、別についてくけどさ……科学部いるんじゃねーの」
 
「まじめにやろーぜ……。科学部……」
 理科室。祐次たちの中学校は新校舎と旧校舎があり、理科室は後
者にあった。新校舎から離れたところにある旧校舎は昼間でも薄暗
く、歩くたびにミシミシと床が鳴る。かび臭く、ホコリだらけ。ま
だ六時なのに誰もいないのはしょうがないかもしれない。
「骸骨が動くっていう噂だけど……ないわね。骸骨」
「理科室にそんなもん最初からないじゃん」
「ないから噂なの。でも、噂は嘘でしたじゃ記事にならないなぁ」
「まぁ、いいじゃない。……ごめん、俺、トイレ行きたい」
「あー もう、早くしてね」
「おう、ビックリさせてやる」
 我慢していたのか、祐次は小走りで理科室を出て行った。
「ビックリって、トイレがいくら早くても誰も驚かないわよ」
 
 祐次がトイレに行ってから五分。洋子は教卓に腰掛け、ボーと天
井を見ていた。
(はぁ……祐次って怖い話とか苦手だと思ってたんだけど……平気
なのかな……。恋のつり橋理論、ダメっぽいなぁ、チャンスだと思
ったのに……。一緒に勉強できたら……楽しいだろうな)
 
 トイレに行ってから十五分。外はもう真っ暗だった。
(もしかして、骸骨に襲われてるんじゃ……。ハァー……なに考え
てんだろ。あるわけないじゃん、そんなこと。早く帰ってきてよ…
…バカ)
「ギャー!!!」
 トイレの方から悲鳴が聞こえた。悲鳴の主は祐次しかいない。
(まさか……まさかねぇ……)
 その時だった。カタカタとどこからか奇妙な音が聞こえてきた。
 カタカタカタカタ。廊下からか、理科室内からか。
 カタカタカタカタ。廊下、しかも、トイレの方からだった。
 カタカタカ―――。音は止んだ。が、洋子はトイレへ走っていた。
 
 トイレの前。ガムかなにかがこびりついているドア。下唇をキュ
ッと噛みドアを開ける。
「祐次!」
 叫ぶと同時に辺りを見まわす。汚れた床とその上のホコリ。左側
に小便器が五つ、右側に個室が三つ。戸は全部開いている。
(私のせいだ。祐次がいなくなったのは私のせいだ……)
 自分を責める洋子の目に個室が目にとまった。手前の個室に近づ
く。ドアの陰を調べる。誰もいない。真ん中の個室も同じだった。
 奥の個室。ドアの陰。祐次はいない。あったのは祐次の学生服だ
けだった。背中に悪寒が走る。頭の中まで寒くなる。震える手で学
生服をつかんだ。涙が止めど無く流れる。流れ落ちる涙を手で拭い
た。祐次の制服を抱きしめた。制服に頭を埋める。心の声がいつも
よりも大きく聞こえた。
(どうなってるのよ……。祐次、なにがあったの……)
 カタカタカタカタ。またあの音が聞こえた。祐次が消えた時に聞
こえた音。洋子は制服を抱きしめ立ちあがった。
(この音の正体がわかったら、なにかわかるかもしれない……)
 骸骨。くすんだ白の骸骨が目の前にいた。
「ぐああああ!!!」
 骸骨は両手を広げ洋子に飛びかかる。洋子は間一髪でドアを閉め、
鍵をかけた。洋子は体を小さくし、隅で震えていた。悲鳴も上げら
れない。外ではまだカタカタと音がする。
(どうなるのかな、私。……ん?)
「ぐああああ!!!」
 大きな叫び声。だが、洋子には白々しく聞こえていた。
(なんで学生服だけ残ってるの? これって……)
「祐次! いい加減にして!」
「あれっ ばれた」
 ひょいっと祐次の顔が上から現れた。暗くて見えないが、どんな
顔をしているかはすぐに想像できた。にやにやしながら、してやっ
たりと微笑んでいる。
「ばれたじゃないわ! 人がどれだけ心配したかわかってるの!」
 洋子の目に涙があふれた。祐次はやりすぎたなと反省し
「ごめん……」
 口を尖らせて、眉間にしわをよせる。祐次はこんな顔をしてるに
違いない。この顔は本当に反省している時だけ見せる顔だった。
「人の気持ちを考えなさいよ!」
「マジで反省してるって……なんか奢るからさー」
「そんなんで許すと思うの!」
「ホントに反省してるって!」
「……まぁ いいわ。とりあえず覗くのやめてくれる?」
「覗くだなんて人聞きが悪い」
「覗いてんじゃない! 早くここから離れてよ。まだなんかあるん
でしょ!」
「もうないって」
「信用できない。離れて」
「あっ」
 洋子の頭上の首が落下した。額に当り洋子はその場で気絶した。

「俺は女子トイレにいたんだ。変態って言うなよ。あんなトイレ、
誰も使わないだろ。そこで「ギャー」って叫べばさ、男子トイレで
なんかあったと思うじゃん。……カタカタ? あー アレね、携帯
を床に置いただけ。骸骨は、なんか知らないけど女子トイレにあっ
たんだよ。それでね「ああ、これは使えるな」と思ってさ。なー 
もう、怒るなよ。骸骨の首落したのは事故なんだって。そりゃ、最
初は落す気あったけどさ……」
 洋子は七時過ぎに教室の椅子の上で気がついた。それから十数分。
祐次は言い訳し続け、二十分を過ぎる頃にやっと誠意が伝わったの
か洋子の表情も少し和らいできた。
「なんでもするから、許してくれよ。な?」
「なんでも……ホント?」
「ああ」
「じゃあさ…………勉強教えてよ……」
「あっ そんなんでいいの?」
「う、うん。でも、どうゆうことだかわかったの?」
「受験生だからだろ」
「……うん……まぁね……」
「……それで納得しちゃうんだ」
「?」
「もっと意味深だと思ってた……」
「……どういう意味」
「別に……。とにかく勉強を教えればいいんだろ」
「ねぇ、どういう意味……」
「”無視”って言葉知ってるか?」
「だから、どういう意味……」
「知らないみたいだな……。”ベーゼ”は」
「だから、どういう意味なのって聞いてるでしょ」
「ベーゼのことだよな」
 祐次は洋子にキスをした。互いの唇の温もりも柔らかさもわから
ない、空気のようなキスだった。
「ベーゼも知らないのか? しょうがないな、夏休みはないと思え
よ」
「……ねぇ、どういう意味……」
「……どうしても言わせたいみたいだね……。しょうがないな……
ゼ――」
「下手な冗談は言わないでね」
「……いいじゃん、駄洒落でも」
「絶対ダメ、なんでもするんでしょ。言ってよ」
「……ぜーべ」
「バカ……」 
 祐次は洋子を抱きしめた。洋子はなされるまま胸に飛び込んだ。
再び唇が一つになった時、祐次は口の中で何度も「好きだ」と叫び
続けた。