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第5回3000字小説バトル
Entry9

ファラオの呪い

作者 : 小林ミヅノ [コバヤシミヅノ]
Website : http://www3.ocn.ne.jp/~wet/index.htm
文字数 : 1200
 僕はこれまでの人生で人のために何かをしたことはない。人のた
めに何かをするというのは原則としてありえない、というのが僕の
考えだ。もし君が恵まれないアフリカの人達に募金したとしても、
それは自分のためにしたことだ。飢えた人達を救うと思うことで自
分自身が充たされているのだ。たとえ子供の身代わりにトラックに
はねられたとしても、子供を見殺しにする罪悪感に耐えるよりも潔
く死ぬことのほうがたやすかったのだ。人のために何かをすること
はない。君が自分自身のためにしたことが、結果的に人の役に立つ
だけだ。こういう考えを認識しておかないとつまらない後悔を繰り
返すことになる。「あなたのためにしてあげたのに」なんていう意
味の無い愚痴をこぼすことになる。
 しかし僕のこうした物の見方が原因でしばらくうまくいっていた
ガールフレンドとケンカするはめになってしまった。
「あなたのためにしてあげたのに」と言って彼女は電話を切った。
二日前のことだ。
 僕はあれこれ考えるのが面倒臭くなって、「ファラオの呪い」と
いうドキュメント映画をレンタルビデオで借りてきて一人で見てい
た。僕達はよく映画を見た。僕はオリバー・ストーンが気に入って
いて、彼女は「ボディ・ガード」が大好きだった。テレビの画面に
はピラミッドが映し出されていた。主演の男優と比べるとそれはと
ても大きく見えた。たかが墓のためにこんなものを作るなんてバカ
な話だ。

 ピラミッド?

 その時僕の頭にある考えが浮かんだ。最初それはひどくぼんやり
していて何を意味しているのかよくわからなかった。主役の考古学
者が王の棺を開けたところで初めて考えがまとまった。それはこう
いうことだ。
 ピラミッドは王のために作られたのではなかったか?
 僕はそのことについてしばらく考えてみた。レンガを一つずつ積
み上げて行った人達は、進んでそうしたわけではないだろう。拒否
すれば罰せられたに違いない。だとすれば生き延びるために行った、
自分のためにそうしたと考えることができる。しかしそんな僕の考
えをふきとばすのに十分なほど、ピラミッドはあまりにも大きかっ
た。ピラミッドと比べて僕はあまりにも小さく感じられた。

「ごめん、僕が間違ってた」僕はその映画が終わるとすぐに彼女に
電話をかけた。
「どうしたの? あなたが素直にあやまるなんて珍しいわね」
「ピラミッドのおかげだよ」
「ピラミッド?」
「いや、なんでもない」