第6回3000字小説バトル
Entry15
どうもおかしい。お昼はいつも学食で日替わり定食とかをがんが ん食べる好子なのに、最近はずっとホットケーキにコーヒーとか、 だ。で、ため息をたくさん。 「うーん」なんて、黄昏れちゃって窓の外にしどけなく視線を漂わ せちゃってさ。似合わねんだよ、おい、どうした。 「あんたには、ちょっとねえ」 「え、あたしには言えないようなこと、か。まあ無理にとは言わな いけど」 あたしはフォークに巻き付けたツナスパゲッティを口に突っ込み ながら、上目遣いに好子を見た。好子は弱々しい笑みを浮かべる。 「そういうわけでもないんだけど。そうねえ」 そして「ねえ」と好子は口を開く。 「なに、うん?」 「あたし、ニンシンしちゃったみたいなの」 「……」 「そうなの、どうもね、おかしいのよ」 「認知はしないよ、あたし」 「あんたね」 好子はあたしをにらむ。なんだよ、この思いやりをわからんのか。 まあそんなもんか。本人にしてみれば。 それでも懲りずに「いいじゃん」と、あたしは言い放つ。「結婚 しなよ。ほら寸留さんは社会人なんだしさ。なんとでもなるんじゃ ないの? その気になれば」 「そういうわけにはいかないわよ」 「なんで」 「こんなの、いいわけないわ。そんなつもりじゃなかったんだから」 「そんなこと言ったってさ、だってそれが一番いいじゃないの」 「でも、まずい、まずいわよ、やっぱり、親、とか。彼だって立場 があるんだし」 あたしは黙る。そんなこと言われたって、あたし、なんて言って いいかわからない。だってさ、自分でやったことじゃないか。 「いいわよね、あんたは呑気で」と好子は言い出す。 「ええ?」 「あんたは……まだなのよね」 「ニンシン? うん、まだだよ、悪かったね」 「ちがうわよ。まだ、なんでしょ」 あたしは膨れっ面を作って好子を見返す。 「がんばるわねえ。まあ、あんたみたいなのが危なくなくていいの よね、ほんとは」 好子はくすっと笑った。ニンシンのことはちょっと忘れたみたい だった。 てなことを彼に話そうかどうかと迷った末に、やっぱり話すのは やめといた。好子はきっと嫌がるだろうから。まあ彼だって嫌がる。 「牽制か、ふん」てなことを言うんだろう、おそらく。 男なんてさ、とあたしは思う。なんだかんだ言ってさあ、やりた いだけなんじゃないの? そりゃ好きだとか何だとか言ってくれる 気持ちは本当だろうと思うけど、でもでも「だからいいじゃん」っ て感じがそこに付きまとってるんじゃないの? と、あたしは疑う のだ! だってだって、そんな感じじゃあないか。 「でもさ、気持ちいいんでしょ」 彼はあたしの乳首から唇を離すと、にやっと笑ってこっちを見上 げた。「いい声出しちゃってさ、おねえさん。聞かれちゃうよ、隣 に」 やめないでよ、急に、もう。 「どうしてかなあ」と、彼は体を起こす。「何をそんなに警戒して るの、あなたは」 彼は乳首を人さし指で軽くはじく。あたしは、その横顔を眺めな がら小さくため息をつく。 「だからさあ」 「なに」 「性交の基本的性質は生殖行為である」 「よし、それで?」 「子供、欲しい? 今、欲しい?」 「いや」 「そりゃ矛盾じゃないか、とあたしは思う。ね。矛盾した行為だと しか思えない。だからあ、やっぱりまだいけないんじゃないかと」 「ふーん」 彼は煙草に火をつけ、大きく吸い込む。 「まあいつも、堂堂巡りだな」 「うんだから、やめよう。だめ? どうしてもしたいの?」 「したい、って言ったら、不純だってあなたは言うんだろうな」 「……」 「ここまでは」と、彼はあたしの乳首を指で撫でて続ける。「こう いうのは気持ちがいいからしたいけど、入れるのだけはだめだって、 あなたは言ってる」 「まあ、そうだけど」 「わからん。避妊の問題じゃないっていうんだろう? だけどさあ、 やりたいってのをやっちゃいけないってほどの理屈なのか? それ」 ああほら、男はやりたい、そればっかりだよ。あたしは別にそん なさ、ちょっと触れあってさえいればそれでいいのに。そう、ちょ っとね、やさしく触ってくれるだけで。あ、ああうん、そう、 ああなんか、すごく気持ち……。 こんなにちゃんと準備が出来てるのに、と、彼はささやいた。あ あちくしょう。あたしはぎゅっと目をつぶる。おねえさんはさ、こ わいんだろう、ただ。あたしは首を横に振る。そうじゃないよ、だ ってさ、もしもってことがあるじゃない。 視線を感じて、あたしは目を開けた。彼の顔がすぐそばにあった。 「それで結婚でもしたら、さあどうぞっていうわけか」 「え」 「そういうことだろう。そういうお膳立てができてこそ許されるこ とだっていうんだろう。だけどさ」 彼はあたしの熱い芯を指で激しくこすった。うう。 「これはどうなっちゃってるんだよ。これ、さ。この迸っちゃって るやつ。こんな音まで出しちゃってさ、これは黙殺しちゃうの? 無意味なの? そう言い切れるの?」 馬鹿馬鹿しいことを、と思いながらあたしは彼の顔を見つめる。 だけどその、言葉の調子に反して静かな表情を見ているうちに、な んだか悲しくなってきた。どうしてか涙が出てきちゃったりして。 「ああ、ごめん」 彼は低い声で言うと、体を横たえた。「無理にってつもりじゃな いんだよ。そんなのはさ、嫌だから。でも」 「したいんだ」 「うん。したい」 「でもそれ、誰でもいいっていうんじゃないの? 男の人ってさ、 別に女ならとにかくっていうのがあるんでしょ」 「別だよ。そういうしたいってのとは別だよ。そう思うけど。うん まあ、いいよ。納得できないうちは仕方ないさ。ごめん」 彼は微笑むと、あたしの髪をそっと撫でた。 「どうして」とあたしは彼に訊く。「どうして、そんなにしたいん だろう」 「好きだから、たぶん」 女なんてさ、とあたしは思う。いろいろ小難しいことをもっとも らしく言ったりしても、結局気持ちに負けちゃうんだよ。気持ちっ て誰の? 男の? 自分の? まあ、どっちにもさ。なんだよ、だ らしない。 あたしはやった。やりました。なんだ文句あるかってとこだ。あ あ痛かった。血も出たよ、おかげさんでね。大声も出しちゃった。 だってほんと、痛いんだもん。こんなに痛い思いしたんだ、早いと こ気持ちよくなってもらわないと困るよ、まったく。 こうなったらとことんしてやる! 死ぬまでたくさん、気持ちい いこと! 誰よりも! 気が違うぐらい! 彼ったら満足げにすやすやと眠っちゃってさ。まったくもう、ち ゃんとスキンとか用意してるんだから。でもまあいいや。言ってく れたから。出来ちゃってもさ、それもまた、いいような気がする、 なんて。 なんてなんて甘い感触にちょいと浸ってたらば、電話が鳴った。 なんだ、誰だ、朝っぱらから。 「おっはよー。好子ちゃん、ど、えーすっ」 「……」 「あ、寝てたあ? あは、ごめん」 「なに、どうした」 「いやっさあ、来た来たっ、今朝無事っ。ああ、よかったあ、もう 一時はどうなるかと」 「ああ……そう、それはよかっ……」 「なあにい? どうしたのお? ねえっ、なんか元気ないじゃん」 「う、ん。ああいやべつに……」 「あっ、やだあ、いるんでしょ、そこにっ、あっ、お邪魔さまっ、 もう、朝っから、あははは」 「え、ああ、その……」 「ごっめんねえ、じゃあよろしくっ、彼にっ、ふふふふふ」 ああうん、そうなのよ。え、またって思うのに。ああん、あたし ったら、すぐこんなに。もう! もう!