第8回3000字小説バトル
Entry11
ちっちゃかったおっぱいにシリコンを入れたら、おっきくなった のはいいけど今度は感度が悪くなった。もまれても吸われても触ら れても、どんなに素敵なシチュエーションで性交しても、少しも気 持ちよくならない。気分が高揚しきらなくておっぱい以外のところ まで、気持ちよくならない。あたしが感じてないって相手にばれな いように、相手の動きや息使いに合わせてかんじるふりをしている うちに精神的に疲れ果ててしまうのだ。あたしの上やうしろや前や したではあはあって一生懸命にしている相手にたいして、入れてう ごかして気持ちよさそうにしているあいつに対して、かんじたふり をしながら殺意をいだいていたりするのだ。不平等だよ。 あいつはマザコンだから、あたしよりもきっと青森にいるママの 方がずっとずっと好きだから、あいつのママにあいつをとられたま まにしたくなくて、ちょっとでもママみたいになりたくて、ママみ たいになるってどうすればいいのかあたしなりに考えた結果が豊胸 手術だったのだ。赤ちゃんをうむとママはみんなおっぱいがおっき くなるでしょ?だから、おっぱいがおっきくなるとそれだけママに なれるんじゃないかなって。あいつのママよりママになって、あた しがあいつのママになるのだ。その結果がこれ。 むだに重いんだよ、これが。 すけべそうな女の医者だった。診察室をすんごくきれいにしてい て、白衣もとってもきれいで、医者なのに真っ赤なマニキュアをつ けてて、メイクも完璧で、もともときれいな顔をもっともっとずっ とずっときれいにしていて、大人で知的で清楚で可憐なんだけど、 くちびるだけがほかの生き物なのだ。診察室にはいると、くちびる があたしを見ていた。くちびるがあたしに話しかけて来て、くちび るがあたしに偉そうなことをいった。 「まだ若いんだから、むりして豊胸しなくても」と、くちびる。 「これからだって大きくなる可能性が」と、くちびる。 「お母さんに相談してみたら」と、くちびるをエッチに歪めなが らくちびるがあたしに。 あたしはママになりたいのだった。あいつのあたらしいママにな るためおっぱいをおっきくするのだった。そう正直にいったとした らくちびるはあたしをどうしただろう。くちびるはわらって、あた しをどうしただろう。くちびるはきっとわらうのだ。上品にわらい ながらちょっぴりひらいた唇の間に真っ赤な舌が虫みたいにちろち ろと。笑いながらあたしのまがった考えをあらためさせようとする のだ。あたしのまだひらべったかったおっぱいをくちびるで見なが ら、くちびるはこういうのだ。 ヌ☆ぢしりあいのカウンセラーを」 てきとうなことをいった。おかねはあるのだ。ずっとためてきた お年玉貯金とおばあちゃんからもらったきれいな指輪をうってつく ったあたしのお金。 おかねがあればたいがいのことはどうにかなっちゃう。 ママになりたい。すきな人のママになりたいってそんなに変なこ となのか。あなただってママから生まれたのだ。ママのおっぱいか らおっぱいをすったのだ。あたしはままになりたい、ただそれだけ のためにおっぱいをおっきくするのだ。あなただってママになりた くないの。素敵なママに。 お金と手術であたしはあいつのママになるの。 くちびるにおっぱいだけのもんすたー。はるの句です。 感度がわるくなったって気がついたのが五月だったからはるの句 なのだ。あいつに秘密で手術を受けて、退院してしばらくエッチは しちゃだめで、それにベッドのなかで初めて見せてあいつを驚かそ うとかくしにかくしてさらしを巻いて、そんなあたしのかげの努力 をまったく知らずにしようとしてくるあいつを押しとどめて、言葉 でどうにか我慢させて、そしてようやくおとずれた五月の七日、郊 外にあるラブホのまわらないベッドの上で、何の感動もなくいきな りむしゃぶりついてきたあいつのくちびるの感触のなさに驚いたの だ。だえきにどんどんびしょぬれていくあたしの乳首はあたしの乳 首じゃなかった。なんかべつのいきもの。くちびるの女医のくちび るみたいに。ろっ骨の上に皮膚で包まれたプリンがふたつ。 おいしそうになめているおとこ。 なんの反応もなくなめられ続けているあたしのおっぱい。 きもちよさそうにほおずりするおとこ。 にせもののおっぱいでも充分に気持ちいいらしい。 されるままのきもちよくならないおっぱい。 唾液にぬれていくおっぱいとたたない乳首。 あたしはママになれたのか、なれていたのか。 皮膚の下のシリコンがまだからだになじんでないからだと、そう 思って気持ちよくならなくてもしばらくそのままにしていたのだけ れどもさっぱり気持ちよくならないのだ。気持ちよくならないかわ りにあたしは演技のいろはを学んでしまった。あいつの顔の変化に 合わせてのぼりつめていって最後の最後でいったふりをする。いく ふりはこれまでもよくやっていたけれど、みがきのかかったあたし の演技を見てみろとあたしはかすかにけいれんするふりをする。 その後はおっぱいでたくさんの抱擁フルコース。あいつの頭の中 におっぱいがいっぱい。 気持ちよさそうにあたしのおっぱいを枕におっぱいの夢を見てい る男のなんという満足そうなねがお。 爪かみしながらあまったれた大人の男の声でヌ☆ぢママヌ:ぢとぽつり。 あたしはあなたのママなのよとおっぱいの上のあいつのかわいい あたまをやさしくなでなで。 あたしはこいつのママになれたってはじめのうちは思い込んでい たけれど、こいつの中であたしはあたしでママはママ、永遠にいれ かわることのない関係なのだった。あたしの生殖器はいつまでもあ いつをうけ入れるものであって、あいつを生み出したりできるもの ではない。たとえあたしがあいつのまえからとつぜんいなくなった としてもあいつはあいつのママの生殖器に再びもぐり込むだけでい つもの日常に戻れるのだ。 あたしの払った犠牲はどうしてくれる。 食欲と同じくらいに性欲のうらみもおそろしいのだよ。 いつまでも気持ちよくなることのないだろうおっぱいをぶら下げ てあたしはあいつに殺意を抱きながらこのまま年老いていくのだ。