インディーズバトルマガジン QBOOKS

第9回3000字小説バトル
Entry12

よっちゃんのこと

作者 : 海坂他人
Website : 海坂の地下室
文字数 : 3000
 よっちゃんは親せきのお兄さんおじさんです。なぜ、お兄さんお
じさんかというと、見かけはおじさんだけど、お兄さんみたいなと
ころもあるからです。
 ぼくが行くと、よっちゃんはいつも、ちゃの間のこたつにすわっ
ています。本を読んでいたり、何かむずかしそうなことを書いてい
たりします。
 原こう用紙のような、はこのある紙に、えん筆で書いているので、
「作文を書いているの。」
ときくと、
「そやなあ、まあ淳ちゃんの作文みたいなもんや。」
とはずかしそうにわらいます。
 でも、ぼくが学校でもらう原こう用紙とは、だいぶちがっていて、
小さくて、はこはみどり色で、左すみには海坂用せんといんさつさ
れています。
 よっちゃんによると、これは海坂という人が使う原こう用紙とい
ういみだそうです。海坂というのは、よっちゃんが作文を書くとき
の名まえです。
「どうして、名まえをかえるの。」
ときくと、
「わしの作文は、よをはばかるからな。」
とこたえたので、ぼくが学校で作文をたくさん書くとほめられるの
によっちゃんは家でもかくれて書いているので、ふしぎに思って、
「よをはばかるってなあに。」
ときいたら、
「いけないこととか、わるいこととか、はずかしいことも書くから、
名まえをかえてかくれなあかん。」
というので、大へんだなあと思いました。
 でもこんなふうに自分の名まえのついた原こう用紙をつかえるの
は、作文の名人だけだといいます。よっちゃんは早く名人になりた
いけど、なかなかなれないので、自分で作っているので、
「わしのは、にせもんや。」
というけど、本ものそっくりのきれいな原こう用紙を、ぱそこんを
つかって自分で作れるのはやっぱりすごいです。
 ぼくも自分の用せんがほしいと思ったので、
「ぼくにも作って。」
とたのむと、
「おう、ええで。淳ちゃんの名まえ入れてなあ。色はどないする。」
と言いながら、すぐに作ってくれました。
 海坂用せんは、うらを一どつかったざらざらの紙なのに、淳也用
せんはまっ白い紙に空いろのせんで、とてもきれいなので、ぼくは
うれしくなりました。
「学校で、こんど作文のじかんにつかうんだ。」
と言ったら、よっちゃんは、
「いくらでも作ったるさかいな、ぎょうさん、書き。作文の名人に
なれるで。」
と言ったので、ぼくはがんばって書こうと思いました。よっちゃん
も毎日、一しょうけん命作文を書いているから、いつかきっと名人
になれるといいと思います。

 よっちゃんが毎日、家にばかりいるのは、仕ごとがないからです。
よっちゃんは今二八さいで、
「同きゅう生がおやじになる世の中やからね、かなわんわ。」
と笑っているけれど、仕ごとがないからおくさんもできないので、
おじさんになれなくてお兄さんのままなのです。
 よっちゃんは子どものころはとてもあたまがよかったそうです。
ばあちゃんによると、
「大学にげんえきで入って、それでもたりなくて、大学いんまで行
ったんや、なんぼできたか、わからん。淳もべん強見てもろたらど
うや。」
というので、よっちゃんに、
「ほんとうなの。」
ときいたら、
「はたちすぎたらただの人。学校のべん強なんか、あほらし。てき
とうにつきおうといたら、たくさんや。」
と言うので、ぼくはとてもあん心しました。
 こんなことを言うくせに、よっちゃんはじつは学校の先生をやっ
ています。高校で、かがくを教えているそうです。だからぜんぜん
仕ごとがないわけじゃないけど、やっぱりまだ本ものの先生になれ
ないので、ほとんど毎日家にいます。
 いつかぼくがあそびに行ったら、こたつの上にきょうか書とノー
トを広げていたから、
「べん強してるの。」
ときいたら、
「ネタしこみですがな、おざしきの。」
と言いました。先生がべん強しているのはなんだかへんで、それは
先生はぼくたちにべん強させる人だからで、
「先生なのにべん強してるの。」
とぼくがきいたら、
「大へんなんやで、わからんやつを、わかるようにするのは。淳ち
ゃんの学校の先生かてな、どないしてみんなにわからせようか、日
々くしんしてはるのやで。」
と言うけど、ぼくはそれでもこのごろさんすうの文しょう題ができ
ません。
「でもやっぱりわからない人もいるよ。」
と言ったら、
「そらしゃあない。人間には、むきふむきいうもんがあるよってな。」
「でも、このあいだ、ちょう会で校長先生が、ど力すれば人は何で
もできるようになれる、言うてはったで。」
「そらむちゃや。まちごうとる。今は、だれでもど力さえすれば同
じようになれる、思てるのがまちがいのもとや。」
 そうすると、よっちゃんは今まで三かいも先生のしけんにしっぱ
いしているから、きっと先生にはむいていないのだと思いました。
でもよっちゃんはやさしいし、おもしろいので、いい先生になれる
と思うので、人間のむきふむきはむずかしいです。

 今日のこくごの時かんは作文で、「みじかな人のことをいきいき
と書きましょう」というところをやりました。
 ぼくはよっちゃんに作ってもらった淳也用せんをランドセルから
出してきて、書きはじめました。よっちゃんのことを、書きました。
 ところが、一まい書いたところで先生が回ってきて、
「なんですか、そのへんな紙は。」
と言うので、
「原こう用紙です。ぼくせん用の。」
とこたえたら、
「ちゃんと決められた原こう用紙に書かなくてはいけません。」
と、みんなと同じ新しい原こう用紙をわたされて、書きなおすよう
に言われました。
「だから一まいあまったのね、ほんとに、よけいなことするから。」
と、おこられてしまいました。
 はじめから同じことをうつしたので、休みじかんになってもおわ
らなくて、ほうか後もひとりで書いていました。
 そこへけいた君としんご君が来て、
「へんなの、にせ作文用紙。」
とわる口を言って、淳也用せんをとられてしまいました。
「返せよ。」
と言っても返してくれなくて、さい後にはひこうきにしてまどの外
へとばされたので、ぼくはとてもくやしかったです。
 かえりによっちゃんの家によったら、
「今日はずい分おそいんやな。」
とふしぎがられたので、じじょうを話したら、
「よし、わしにまかしとき。その二人は、けいた君と、しんご君か。」
 こう言いながら、よっちゃんはすぐにパソコンで、けいた用せん
と、しんご用せんを作ってくれたので、ぼくはおどろきました。
「そういうやつこそ、心の中ではうらやましく思ってるもんや。明
日これを学校へ持っていって、こっそり二人のつくえに乗せておい
てみ。」
 あの二人にこれをやるのはもったいないような気もしたけど、き
っとよろこぶだろうと思いました。
 よく朝、よっちゃんの言ったとおりに、休みじかんに、二人の目
をぬすんで、そっとつくえの上において、ようすを見ていました。
二人は、おどろいたようにぼくの方を見て、それから、先生のとこ
ろへ行きました。
 ぼくは先生によばれて、こんどはげんこつを、されてしまいまし
た。
「べん強にかん係ないものを、学校に持ってきてはいけません。そ
の上、ほかの人にめいわくをかけるなど、もってのほかです。」
とどなられて、頭のてっぺんにげんこつがおちてきて、その中にえ
ん筆があったので、頭にあながあいたかと思いました。
 よっちゃんは、
「そういうくやしいことが、ええ作文の材りょうになる。」
と言ったけど、もともとよけいなことをしなければ痛い目にもあわ
ないので、その方がましだと思います。