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第9回3000字小説バトル
Entry13

木の葉の狐守唄

作者 : 英 康作
Website : http://member.nifty.ne.jp/y-fukuda/
文字数 : 1527
どうして決心をしてくださらないのかしら。
私はいつでも「お受けします」と答える用意が出来ていると
いうのに。
そして、私たちの暮らしが急変するわけでもないのに・・・
でも、身分違いの恋ですもの、
・・・あまりにも身分の違う・・・・・・

そして私は、今日も連絡を入れる・・・
「あの・・・木の葉です」
「あら、木の葉ちゃん?」
「はるあきさんはいらっしゃいますか?」
「はるあきは、まだ仕事ですのよ。先にうちにいらっしゃい」
「では、お邪魔します」
「木の葉ちゃんは、連絡なんかしなくても、
気軽にいらしていいのよ」
はるあきさんのお母様は、そういって静かに笑ってくださる。
やさしく、やさしく、私がおびえない様に。

「ごめん下さい、木の葉です」
そうお母様にご挨拶をして、裏庭に面した縁側から、家に入る。
「いらっしゃい、木の葉ちゃん、
今日も一緒に、お食事を作りましょう」
にこにこと笑うお母様。なんて素敵な方なんでしょう。
お母様も、はるあきさんも、私のあこがれ・・・・・・
「はい、よろしくお願いします」
「・・・いつまであなたを待たせるのかしらねぇ、はるあきは」
「いつも遅いのですわね。お仕事が大変なのでしょう」
「・・・そうじゃないのよ。早くあなたを嫁にむかえたいのに」
私は、この話題になると決まって赤面して答える。
「はるあきさんは・・・きっと『ほかの人』を迎えるはずですわ」
「そうかしらねぇ。私は木の葉ちゃんが、一番お気に入りなんだし、
はるあきもそうだと思うのだけど」
・・・お母様、ありがとうございます。
「だって、はるあきさんは、とても力のある方ですから・・・
私なんて・・・・・・」
「でもねぇ、私は、いつも仕事で疲れきっているあの子をみると、
私がいなくなった時、木の葉ちゃんが、あの子を支えてくれたらと
思っているの」
「お母様、ありがとうございます。
こうして、お母様と呼ばせていただくだけで・・・」
「泣くのは、似合いませんよ、木の葉ちゃん。
せっかくの器量よしなのに」
「でも、お母様、はるあきさんは、きっと私より若くて可愛い
『人』をお迎えに・・・」
「そんなことは、私が許しません。安心なさい、木の葉ちゃん」
そう言って、お母様はまた、抱きしめてくださいますのね・・・
私が胸に抱かれて、ほろほろと、泣くことをご承知なのに。
「木の葉ちゃん、また、泣かせてしまったのね。ごめんなさいね」
「いいえ、いいえ、お母様のせいでは・・・」
木の葉はうれしいのです。
お母様にも、こんなに大切にしていただいて。
「気にしないで、お泣きなさいな。ええ、私がついていますとも」
「そのお言葉だけで、もう、木の葉は、木の葉は・・・・・・
充分、幸せです」
「それにしても、はるあきは、遅いのねぇ。家へ帰るのも、
あなたへの求婚も」
・・・・・・私は、ほろほろと泣いている・・・・・・
「木の葉は、時折、お側にいさせていただくだけでもよいのです」
「ほんとに、いじらしい・・・どうして、はるあきは・・・」
「仕方ありません・・・仕方ありません・・・
私は卑しい野狐の娘ですから・・・お母様のような・・・・・・
天狐様とは・・・身分が違います・・・」
「何をいいます。それを言うなら、はるあきは、妖力のない人間の
倅ですのよ。
あなたは、姿を変え、声を飛ばす術を使えるのですから。
安心なさい」
「でも、木の葉は、これが精一杯の術なのです。
・・・葛の葉様・・・」

「・・・おや、はるあきが戻ったようだよ。はるあきと呼ぶと、
機嫌が悪いから、『人の名』で呼びつけて、今日こそ
木の葉ちゃんのこと、決めさせますからね」
「・・・お母様・・・」
「これ、晴明、晴明。木の葉ちゃんがきていますよ。
『人の名』で呼んでいるのですから、返事をなさい。
『せいめい』、『あべのせいめい』」