インディーズバトルマガジン QBOOKS

第9回3000字小説バトル
Entry22

シェル

作者 : 小径
Website :
文字数 : 2716
  朝起きた。歯を磨(デンター)き、階下に降り、家族(5人)
と食事(ぎすぎすした空気の中)をして、トイレ(TOTO)を済まし、
スーツ(ノーブランド)を着込み、靴(タニノ・クリスティ)を履
いて玄関口に立ち、思い出した。と、妻が。放り投げた。曲線を描
いて落下する。
 渡された。妻は疎ましげに「忘れ物」といった。
ショットガンDa。
「ショットガンじゃないか!?」
目を細めた。侮辱するかのように、
「ばか?何いってんの」
「いや! ショットガン!」
「寝ぼけてるの? 鞄でしょ」
…鞄? 
 受け取ったショットガンを眺め回した。黒光りする銃体と長い砲
身が、異常なほどの重量で俺に凭れかかってくる。弾が入っている。
取り出す。単榴弾だ。
「違くて。いや、書類とか入る奴で…」
 妻は消えていた。溜息を吐き時計を見た。時間が迫っていた。仕
方なく、駅へと向かう。
 商店街(閑古鳥)を抜け、駅前(ビルのみ盛況)の建物を越えて、
駅口を(定期券)くぐり、ホームへ…
 信じられないことだが。
 ホーム構内では、辺りの人間、学生も会社員も公務員も明らかな
犯罪者も、一様にショットガンを持っている。混乱する頭にも電車
はすぐに来た。流れと共に、乗り込む。
「ねえ。鞄変えたんだ? かわいい〜」
「へへ、いいでしょう?」
 そんな会話も聞こえてきた。ピンク色のショットガンに可愛げな
キーホルダーを着けているOLの会話か。 グリップを握った。電車
内でぶっ放したい衝動に襲われた。が、それはあっけないほど、あっ
さりと自制心の前に消えうせる。溜息が漏れた。
 やるせない気分の中、座席に座り損ね、ドア付近でショットガン
に凭れ掛かかり、 何かから逃れるように流れる景色を見て、時間
を過ごした。
 駅(元駒井)で、降りた。並の喧騒。足早に駅を去る。会社に着
くなり、
「係長。いい鞄ですね」
「いや、ショットガンだろ?   お、お前もか!」
 部下の平賀も、ショットガンを後生大事に構えていた。が、
「へ? だって、鞄がないと仕事ができないじゃないですか?」
「そ、それじゃ、何も入らないだろう。鞄て言うのは、もの入れる
…」
 ショットガンを指差して言ってやる。平賀は、怪訝に応じた。
「………さっきから、なに言ってるんですか? 変ですよ」
「変? 俺が?」
 刹那。
 ばぎゃぁああん。と、爆裂音が響き渡り、天井の蛍光灯が消し飛
ぶ。
 白色の砕片や粉末が中空を漂う。急いで、下に目を向ければ、シ
ョットガンの黒い銃口が、他の蛍光灯の光に照らされて、不気味な
鈍さで輝いていた。
「はい。承りました。弊社に5時・・・ですね。はい、はい」
「な、何なんだ?」
電話か。鹿島真弓が。電話の受け答えながら、今しがた鉛の散弾を
噴き上げた、長身の散弾銃を構えていた。
平賀が口笛を吹いた。高いド♯。心から感心したように、感嘆の声
をあがる。
「さすが、社長の娘ですね。鞄も違うなぁ!」
「そうじゃないだろ」
 呆然とした呟きには、誰も耳を貸さない。慣れたことなのか(そ
んな事があるはずが無いが)誰騒ぐ事無く、適当に自らの仕事に励
んでいる。
 学生(闘争と逃走の青春)の頃、ショットガンが欲しくて欲しく
てたまらなかったことを思い出した。無論、ミサイルでも洋弓でも
要求を何でも呑む政治家でも構わなかったが。
と、鹿島がこちらを向いた。ストレートロングの髪に、白粉がこび
りついていた。何か言おうとして、
「かか……」
「ん?」
 鹿島の言葉を聞こうと振り返った。
 刹那に。
 他の場所でショットガンが炸裂した。爆発音とガラスが砕ける音
と共に、今度は何があったか、断末魔の絶叫が響いた。悲鳴が伝染
する。他のショットガンも次々と咆哮を上げ、天井を砕く。ガラス
に皹が入る。穴だらけの書類が宙を舞う。血が飛び散る。一瞬で、
会社は戦場となった。「なんだよおお」体を屈めて、流れ弾を避け
る。
 同じように、机の陰に体を隠している鹿島。ぽろぽろと落ちてく
る砕片が、頭を白くするが、動ずる事無く、先程言いかけた言葉を
繋いだ。爆発音の飛び交う中、声を張り上げるわけでもなく、
 「係長。部長がお呼びです!」
 「あ、ああ。ああ!」
思い出した。今日は、部長に契約書を渡す日であった。匍匐前進で、
弾の飛び交う中、部長室に向かい、ドアを開け……。忘れてきたこ
とを思い出した。
 「鞄の中に入れっぱなしだ……」
 「東君。待っていたよ」
 思い出した。自分の名前は東だった。それにしても、此処はこん
な部屋だったか?暗い中、幻光で照らされた人型のシルエットが、
声をだしている。のか?ようだ。 
掠めた疑問を打ち消した。
 ドアを閉めなおすと、人型は何一つ動作することなく、淡々と述
べた。
「さっそく、契約書を渡したまえ」
「す、すいません。ちょっと、……その、鞄に入れたままなんですっ
。」
語尾がかすれる。体が汗ばむ。シルエットは、怪訝な雰囲気をにお
わした。
「忘れた?鞄はしっかり持ってるじゃないか。もっとましな言い訳
をしたらどうだ」
 言われて、手にしっかりショットガンを持っていることに気が付
いた。狼狽し、振り回しながら、
「だ、だってこれは、ショットガンじゃないですか! 鞄じゃない
!」
 淡々と。
「鞄だろう。頭でもおかしくなったんじゃないか?」
 なんだかおかしくなってきた。狂ったように笑いながら壊れてし
まいたくなってきた。
 いわれてみれば、鞄をショットガンというなんてばかげている。
自分ひとりが馬鹿げているのだ。、世界全てが馬鹿げていることな
ど、ありえない。
 そうだ。誰もこれをショットガンなどとは思っていないんだ。な、
俺だけ、馬鹿げているんだ。ショットガンと鞄。取り違えようが
ないじゃねえか! 
 「あ、思い出した」
 それで運動も止めたんだった。人型は、なんだって? と言った。
 不敵に、早口で告げる。告げてやる。
「部長」
急ぎ、グリップを引き、弾を薬室に送り込む。
「鞄には、鞄の使い方があるんですよね」
 ドアが爆発した。外から大量の人間が入ってきた。即座に俺を包
囲した。ドイツもこいつも、殺意と敵意を漲らし、俺に、”鞄”を
向けている! そのなかには、娘(うるせえ)も妻(不倫歴長)も
婆さんも爺(禿)さんもお隣さん(おせっかい)も、電車内で話し
ていたOLもいた! 学生もいた! 犯罪者風の(ムショに逆戻りし
やがれ)男も! 寿司詰めになった室内で、俺は笑った。狂ったよ
うに哄笑を上げた。
 狂いながら、弾の装填された散弾銃を人型に向けた。 トリガー
を握り締めた! 己への反動と同じくして、人型がぶっ飛ぶ。同時
に、体が砕けちるのを感じた。それでも馬鹿笑いが止まらない。
砕けた背骨でゆっくりと旋回する。背後の連中にショットガンを見
舞ってやった。