第9回3000字小説バトル
Entry4
「やってらんねぇよ」 僕は、教科書を投げ出して言った。 「なんかおもしろいことねぇかな」 隣で参考書を相手にしてるヒロに返事を求めた。 「いつまでもそんなんしてたら、大学落ちるぞ」 ヒロはこっちには目もくれずに答えた。 「ようやってんな!」 振り返ると小麦色に焼けた耕平が立っていた。 「やけてんなぁ」 「今日も朝から練習」 耕平は小脇のサッカーボールをかかえていた。 「よくやるよこのくそ暑い中」 参考書をぱらぱらとめくりながらヒロがいった 「お前もよくやるよ」 耕平は、にやっと笑った ヒロも下をむいたまま、にやっと笑った 「飯でもいかねぇ?」 「俺ここ終わったら」 ヒロは顔も上げずに言った 「こんないい天気なのに、毎日、毎日、勉強してたら、身体腐っち まうぞ」 「ったく」 僕は荷物をまとめて、外へ出ようした 「わーったよ」 ヒロもしぶしぶ荷物をまとめ、席を立ち、僕についてきた。 外へ出ると、うるさいほどの蝉の声と、八月の太陽が、夏の終わり を惜しむように、精一杯の姿でそこにいた。 夏の終わりを惜しむかのように マックに着く頃には、もう汗はにじむ程度では、とどまらなかった 。 僕らは、いつもの席につくと、もくもくとハンバーガーをほおばっ た。 「なんかおもしろいことないかなぁぁ」 僕は、ぼんやり外へ目を向けた 「今はしょうがないだろ、来年遊べよ」 ヒロが言った 「俺は、、、べつになーんもやりたいことあるわけでもないんだよ なぁ」 「だったらやりたいこと見つけにいけよ。」 僕が大学に行きたい理由は、こいつらと同じ所にいたい。ただそれ だけだった。 「三人で同じ大学入れたらいいなぁ」 僕は続けた。 「その為にはがんばんなきゃね」 ヒロは、にやっと笑った。 「俺だけ落ちたらやだなぁ、、、」 僕は、なにげなく言ったが、まんざらでもなかった。 そして、僕らは、なにを話すわけでもなく、日が暮れるまでしゃべ り、笑い、ののしりあった。今という時が、いつまでもそこにあり つづけているかのように 「ただいま」 僕は玄関を入ると真っ直ぐに自分の部屋へ向かった 「、、、、そうだ、、耕平に金貸してたんだ、、、、、」 僕の思考はそのまま静かになっていった、、、、、 「?」 枕元で鳴っているのが自分の携帯だと気づくまで数秒かかった。 僕は目をつぶったまま携帯にでた。 電話の相手はヒロだった 「てめー今何時だとおもってんだよ」 「もう十時すぎてるよ」 「今日は予備校午後からだろ、寝かせろよ、」 「耕平がケガしたんだよ、」 「えっ?」 「とりあえず、俺、病院行くけど悠どうする?」 「病院ってそんなに悪いのかよ?」 「わかんないけど、いま、中央病院にいるらしい」 「わかった、またかける、ヒロもう向かってて」 「わかった」 僕は顔を洗うとすぐに家を飛び出した。 病院の入り口についた時にはTシャツはじっとりと汗ばんでいた。 自転車を止め入り口に自動ドアを通り抜けた。病院の中に入ると、 エアコンのせいで少し肌寒かった 「悠」 ふいに横から呼ばれた 「耕平は?」 「一ヶ月はサッカー出来ないらしい」 「一ヶ月?!セレクションは?」 「ギリギリかな」 「本人は?」 「いまくるよ」 長い廊下の向こうから、耕平が松葉杖をついているのが見えた。 耕平は、にやっと笑った 「やっちゃった、」 「おまえ、やっちゃったじゃねぇだろ。」 僕は半笑いになりながら言った。 「一ヶ月はサッカー無理らしい、、」 耕平はヤレヤレといった感じで続けた。 「セレクションは?」 ヒロは真面目な顔で聞いていた。 「うーん、微妙、、間に合うだろうけど、、それまで、練習できな いしなぁ、」 「こんなとこで話しててもなんだし、外でない?」 ヒロが促した。 病院の自動ドアが開くと、夏が僕らの中に流れ込んできた。 その、けたたましく鳴く蝉と、まぶしいくらいの太陽が、僕らを一 瞬無言にさせた 「暑いなぁ」 耕平が口火を切った。 「暑いなぁ」 ヒロがつづけた。 「お前ら予備校だろ、来てくれてさんきゅ。いけよ」 耕平は僕とヒロに気をつかったのだろうか。ヒロは時計に目をやっ た 「もうこんな時間!もう遅刻だよ、いそがなきゃ!」 ヒロは言った。僕はだまって、空を見上げた。 「ごめんな耕平、そんじゃ俺らいくよ!おだいじに」 ヒロは自転車ににまたがった。 「悠いくよ!」 僕は空を見上げたままつぶやいた。 「やめた、」 「えっ?」 ヒロは聞き返した。 僕は顔を落とし、二人の顔を、みながら、にやっと笑いながら続け た。 「やーめた」 「は?」 ヒロは怪訝そうに僕を見ていた。 「は?じゃねぇだろ、予備校行くのやめ」 僕は、さも当たり前の事のようにいってやった 「なんでだよ」 ヒロと耕平がほぼ同時に言った。 「だってさ、夏だぜ、毎日、毎日、勉強ばっかで、、それに。高校 最後の夏だってのに、夏休みらしいことなーんもしちゃねぇしな」 「まぁ、、そりゃそうだけど、、」 ヒロは渋々認めているようだった。 「海いこ」 僕は下を向きながらつぶやいた。 「えっ?」 ふたりは、ひょうしぬけた顔を僕に向けた。 「今から?」 「あたりまえだろ」 言ってしまってから、僕はえらいこと言ったかな、、と一瞬ひるん だ。 「どうやって?」 やつぎばやに耕平が聞いてきた。 僕は自転車のサドルをたたいた。 ヒロはあいかわらず、ひょうしぬけた顔を向けている。 「乗れよ」 僕は自転車にまたがって、後ろに乗るよう耕平に目配せした。 耕平は、にやっと笑い、松葉杖をまとめ、僕の自転車の後ろに乗っ た。 「いくかぁぁぁ」 耕平は声高らかに言った。 それが合図になって僕はフラフラと自転車をこぎ始めた。 「ちょっちょっとまってよ」 ヒロは泣きそうな顔をしていた。 「なんだぁその顔!おいてくぞ!」 耕平はヒロのその顔をみて笑っていた。 「、、、、、」 しばらく無言だったヒロが口を開いた 「わぁぁったよ!」 なげやりに言うとにやっと笑い、自転車にまたがり、僕らの後をつ いてきた。 きっと僕らに流れ込んだ夏が、僕らをそうさせたに違いない。 ヒロはやれやれといった感じで、にやっと笑った。 「よーしがんばるかぁ!!」 ヒロは立ちこぎで僕らに追いついてきた。 僕と耕平はそのヒロの姿に、にやっと笑った。 「なぁ悠、海までどんくらいかかんの?」 耕平が後ろから聞いてきた。 「わっかんねぇ、真っ直ぐ行ったら着くことは確か、、」 「のんびりいこーぜ。しんどいだろ」 「おう!」 すごい時間がたったように感じた気がした。ただひたすらに、ペダ ルを踏み続けた。 「悠、だいじょうぶか?」 前触れなく耕平が声をかけてきた。 「あぁもうすぐつくと思う。」 僕はもう最小限の会話で済ませたいと思うほど疲れていた。 「まぁだぁ?」 ヒロは泣きそうな顔をして自転車をこいでいた。 「なんだぁーその顔ー」 その様子を見て耕平が笑った。 「ヒローみえねぇぞーこっち来てやれよ」 僕はヒロに言った。 「、、もう、、笑えねぇよ、、」 僕はそのヒロの声の調子で思わず笑ってしまった。 「もう5時だよぉぉぉ5時間以上はしってるよぉぉ」 ヒロの声を後ろに聞きながら、このなにげないやりとりが、とても あたたかく、ずっとつづけばいいのに、、、とふと思った。空は少 しずつ赤くなりはじめていた。 「もうすぐだぞ!」 僕はヒロと耕平に言うと同時に自分自身にも言っていた。 「、、、、、」 ヒロはもはや返事をする余力すら残ってないらしい。 「よっしゃあとひとがんばり! 漠然とそこにある海だけが、僕らを引きつけ、僕の足とペダルを強 く結びつけているのだけはたしかだった。 そしてまた僕らはひたすらに夏の中を走りつづけた。 「この坂登りきったら海だぞ!!!」 僕は声をあげた。 「うへぇーこの坂のぼんのかよぉ、、、」 ヒロが言った 「ここのぼったらもう海だぞ!」 僕はヒロに言った 「だいじょぶか?」 耕平が後ろから声をかけてきた。 「だいじょぶなわきゃねーだろ!!」 僕はそう言うが早いか、いきおいよく立ちこぎで、最後のスパート をかけた。 そんな僕らの横をヒロが、いきおいよく、抜きさった。ヒロは横目 で僕を見て、にやっと笑った。 「おまえ、、、」 僕も耕平もにやっと笑った。 「耕平!つかまっとけよ!」 僕はヒロに負けまいと、必死にペダルを踏んだ。 「負けるな!!」 耕平は身を乗り出して言った そして僕らは一気に坂を登りきった。 その瞬間すべての音と時間、、なにもかもが止まったように感じた。 腹一杯に夕日を飲み込んだ、海がそこにいた。 いままで生きてきて見たことのない色があった。 僕らは声がでなかった。 ほんの一瞬だったのだろうが、僕らには、とても長い一瞬だった。 「ついた」 僕は口火をきった。 「ついたな」 「、、、」 僕らは自転車から飛び降り砂浜に大の字に寝転がった。 「きれいだな、、、」 僕もヒロもだまっていたが、心のなかではその言葉を何度も復唱し なんどもうなずいていた、、、。 僕が起きあがり足を投げ出して座ると、二人もそれに続いた。 「なぁ」 ヒロが口を開いた、そして僕らの返事を待たずにつづけた。 「空ってこんなきれいだったっけ」 「毎日、頭の上こんなきれいなもんがあったんだな」 そして僕らはそのまま、何時間もそこで笑い、ののしりあい、今を 惜しむかのようにはしゃぎつづけた。 何十年もたって、今日の事を思い出し、なつかしがったりするのも いいかもしれない、だけど僕は、今のこの一瞬のこの気持ちを、大 切にしたかった。こんな小さな、がらくたみたいな思い出でも、僕 が、今ここに生きているってゆうなによりの証拠だから。 「なぁ、俺、今、最高の気分だよ。」 二人がその言葉にうなずくのが伝わってきた