近くの神社でお祭り騒ぎ
暗い道
そこを抜ければほら、人だかり
楽しそうな笑い声
うれしそうなはしゃぎ声
風が色々運んで来る
今日は縁日…
「ねぇ、いっしょに見て回らない?」
鳥居をくぐったところで、急に声をかけられた。
「えっ?」
声のする方、参道から少し離れたところに目を向けると、そこに
は狐のお面をかぶった、ゆかた姿の子供がいた。
「ねぇ、いっしょに遊ぼうよ」
ほんわかとした声。恐らく女の子。
もちろん僕はこう答える。
「うん、いいよ」
今日は縁日
近くの神社でお祭り騒ぎ
長い階段
そこを抜ければほら、お店の行列
たこ焼き、わたあめ、りんごあめ
射的にくじ引き、金魚すくい
はしゃぎまわる子供達
子供に戻る、大人達
今日は縁日…
「ねえ、キミ、いくつ?」
狐のお面がきいてくる。
「十才」
ぶっきらぼうに答える僕。
「じゃあ、私の方がお姉ちゃんだね」
「あたし、一人っ子だから弟がほしかったの」
「あ、そういえば名前、まだ言ってなかったね。私、はる」
「僕は、ゆうた」
「ゆうた、君…。ゆうたって呼んでいい?」
「いいよ」
「やった!」
うれしそうにはしゃぐ、はる。
そして、僕の手を取り、
「さ、いこう!」
今日は縁日
近くの神社でお祭り騒ぎ
楽しい出店
そこを抜ければほら、また暗闇
楽しそうな賑わいも、
眩いばかりの提灯も、
そこまで届かぬ境内裏
今日は縁日…
僕とはるは、色々と見て回った。
二人ともお金が無かったので見るだけだったが。
金魚すくい、射的、お化け屋敷、
ヨ−ヨ−すくいに、くじ引き、ポップコ−ン、わたあめ。
でも、見てるだけでも十分楽しかった。
「おもしろいね!」
はるが、その一つ一つに歓声を上げている。
「うん」
僕もつられて笑顔になる。
時間が過ぎていく。
楽しい時間。
過ぎるのは、あっという間。
そして、お店もはなれていき、僕達二人は境内裏にたどり着いた。
薄暗い境内裏。さっきまでいた所とは、まるで別の世界。
賑わいも、ざわめきも、風に乗ってわずかに聞こえてくるだけ。
そんな境内裏。
「はる、なんで狐のお面をつけてるの?」
静かなのはきらいじゃないけど、女の子と二人でいるのはドキド
キする。
何かしゃべっていなくちゃ、ドキドキがばれてしまいそうになっ
た。
「…」
狐のお面が僕の顔をずっと見ている。
「…、でも、ゆうたもつけてるよ、ロボットのお面」
「え?」
あわてて顔に手を持っていくと、そこには確かにプラスチックの
感触。
「あれ?なんで、僕もつけてるんだ?」
「気にしちゃだめだよ。だって今日は縁日なんだから」
「そうだね」
不思議だったけど、僕はそれ以上考えるのを止めた。だって、お
面をつけていた方が真っ赤になった僕の顔を見られなくてすむし、
何よりその方が自然だと感じたからだ。
「あ、ゆうた、誰か来た」
お店がある方から、何人かやって来る。
小さな影。子供。
「お、仲間がいたぞ」
その子供達も、僕達を見つけて駆け寄ってきた。
「おれ、あきとってんだ」
「ぼく、たかし」
「あたし、ゆめこ」
……。次々とやって来て、自己紹介をする。
みんな、お面をつけていた。
ぶた、ヒ−ロ−、たぬき、ねこ、いぬ…。
同じお面は一つもない。
「せっかくだから、かくれんぼしようぜ」
ヒ−ロ−のお面が言う。
「えーっ!こんな暗いのに?」
「せっかくこれだけいるんだし、面白いって」
「でも、なんかこわいな」
「いいじゃない、やりましょうよ」
「でも…」
「じゃあ…」
わいわいざわざわ、みんなでおしゃべり。
僕も、はるもそれに加わっている。
…。
……。
………。
やがて、どこからとも無く、僕を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あ、いかなくっちゃ」
ふと、誰かがそう言う。
それにつられて、みんなもしぶしぶながらに、
「そうだな、もうかえるか」
「またあそぼうね」
「えーもっとあそびたかったのに」
「またあそべるって」
「うん、じゃあ、またね」
一人、二人と夜に消えていく。
そして最後まで残っていた僕と、はる。
「ゆうた、行こ?」
ちょっと泣いているような、震えた声。
「でも…」
行く…。
どこに?
行く場所…。
帰る場所…。
帰る?
帰る家?
そう言えば、僕はどこから来たんだっけ…?
「はるも、いっしょについていってあげるから」
「いっしょに?」
どこに?
いっしょに?
はるが僕の手をにぎる。
「さあ、こっちよ…」
ふとはるの顔を見ると、もうお面は無くなっていた。
お面の下の顔。それは、写真でしか見たことの無い、僕の生まれ
るほんの少し前に死んでしまった、お姉ちゃんの顔。
「お姉ちゃん…?」
不思議だった。どうしてお姉ちゃんがここにいるのだろう。
「どうして…?」
「ゆうた。ゆうたも、もうここにいちゃだめなの」
ここにいちゃだめ?
ここって…?
「さぁ…」
徐々に消えてゆく、お姉ちゃんの姿…。
そして、徐々に消えていく、僕…。
今日は縁日
近くの神社でお祭り騒ぎ
楽しい時間
そこを抜ければほら、もう終点
楽しかったあの時も、
楽しかったあの場所も、
そこにあるのは思いでだけ
今日は縁日
近くの神社はお祭り騒ぎ
一年一度のお祭り騒ぎ
だけど悲しいお祭り騒ぎ
戻らぬ時間
そこを抜ければほら、懐かしい世界
誰かが君を呼んでるよ
誰かが君を見ているよ
あの日あの時渡った岸が
また目の前に現れる
今日は縁日………