にゃお、とトラは暫し長い欠伸をひとつ。 縁側の日向で心地よく、尻尾を振りながら寝ている。 「あれは珍動物に違いない」 「ややとも尻尾を引き摺っておるからなぁ」 ヒソヒソ、何事かの相談がどうやらクヌギの木から聞こえます。 どんぐり眼(マナコ)のどんぐりオバケ。 クヌギの木の葉の合間から、点々とぎょろり目玉が辺りの散策を し て、きょろきょろ、クスリ、にらめっこ、幾つかの実がクヌギか ら 落ちました。 と、そのままころころ転がり落葉から飛び出て、どうやらどんぐ り オバケ達は祭りの支度を始めたようです。 トラはそれに気づかず、仰向けに腹をだして気持ちよさそうに寝 て いるのですが、襖からブリキの王様が歩いていらっしゃって、 「パリはどこぞの道から行けばよいかのぉ」 えっへんえっへんのブリキの王様は戦争に勝ちまして、えっへん の イスタンブールへの凱旋路をえばった貫禄で縁側のトラにお尋ね なさったのですが、トラはちっとも気づかないようです。 すると突然、お部屋の方からドシンと物音がします。心地よく秋 刀 魚の夢を見ていたトラは億劫に薄めを開けて一応、様子を見やっ た のですが、すぐに又、無関心に眠りについてしまいました。 いたりあの小さな詩人が畳の上にうつ伏せに倒れているようです。 どうやら天井の梁の隙間から、抜け落ちたようで 「馬鹿じゃィ、つきおとす奴があるか」 と、梁に向かって大声でお怒りになさっています。 その横を一匹、二匹三匹のネジまき猿がきぃきぃ、 ああ、なんて事でしょう、いたりあの詩人を跳ね飛ばし、走り回 っ て、その後をお犬の保安官が笛を鳴らしながら懸命に追いかける の ですが、とうとう障子を破いて、お庭に遁走をし、転落してしま っ たようです。 「やい、やい おりて来い、祭りだ祭りだ」 いたりあの小さい詩人はすぐに立ち上がり天井の方へ喚めきます、 すると梁の隙間から声が出て 「やい、飯はあるんか」 「やい、日がよう照るなら出てもよいぞ」 ひくい声 わらい声 ころころどんぐり、祭りだ せっせっこ そんな、いたりあの詩人を横目にお庭では、どんぐりオバケ達は ころころ踊りながら祭りの準備を一生懸命にやっていました。 やがて、クヌギの枝からねじりハチマキ姿の雀等が神輿を担いで わっしゃい、わっしょい、と陽々駆けつけて来ます。 祭りの支度はそろそろ終わるようです。 一方、癇癪をうって跳ね回る、いたりあの小さい詩人に ブリキの王様が不幸にもぶち当たったようでした。 「猫が邪魔じゃあぁ」 と、ひそひそ梁の隙間の声 「猫は寝とるぞぉー」 と、いたりあの小さい詩人が言うと やれやれぞろぞろ、奇妙なものらが梁の隙間からやっと降りてく る 「ブリキは重いぞー・・」 いたりあの小さい詩人はか細く声を出します。 ちゅんちゅん わっしょい ちゅんちゅん わっしゃい 祭りが始まったようです。 酔いどれみどれ酔いつぶれ酔い酔いみどれ酔いしれつ お庭に輪になって奇妙なものらが踊り出すと、その真ん中で いたりあの小さな詩人が大好きなげぇての詩を歌います。 そのリズムにあわせ瓦ががたがた笑いこけ、草等をトラポリンか わ りにして、どんぐりオバケとネジまき猿や犬の保安官が交互に飛 び 跳ね、飲みすぎたのでしょうか、クヌギがくねくね座り伏し、 しまいには、普段、トラに苛められて外に出てこない鼠の家族ら が 一団で出て来て阿波踊り、やがて雀と一緒にわっしゃい、ワルツ を 踊り、愉快で堪らなくなった、お家様が高らかに笑い出しました。 ちゅんちゅん お祈りなされ今日の日に わっしょい ちゅんちゅん 酔う酔うみだら酔いみどれ 「おーい、小僧が帰ってきおった」 仰天、わっしゃい驚いた祭りの者達は出鱈目に慌てふためき 畳や本の項に隠れ込んで、雀はバタバタと神輿を担いで飛んでゆ き あまりにもビックリしたのか鼠は猿と一緒に猫に乗り、猿がきぃ と 鳴くと、鼠は飛ぶように逃げてゆきます。 転んでころころとどんぐりオバケ達は動かなくなり、 ブリキの王様もコテと横たわりました 「やや、なんだ 母ちゃんに怒られる」 小僧っこは、ややのんびりな悲鳴をあげると 猫の首を掴み上げました。 ぎゅむ、と トラ うねる。