私は、女の子のおっぱいが大好きだ。 別にレズとかそういうわけではない。彼氏だってちゃんといる。 ただ、街で歩いているようなキャリアウーマンが、胸をプルプルさ せながらこっちに向かってくると、ちょっとドキドキしてしまう。 その程度だ。誤解しないでほしい。 そんな私は、短大を卒業すると、下北沢にあるかわいい下着屋に 勤め始めた。 毎日毎日、お店にはたくさんのかわいい女の子がやってくる。女 の子達が下着を手にとってキャピキャピ言っているのを近くで眺め ていると、心の底から笑顔がにじみ出てくる。下着屋の店員という 職業は私にとっては天職なのだ。 今日も仕事だ。開店と同時に、女の子達がポツポツとやって来る。 私はいつものように、ブラジャー売場の前でうろうろしている女の 子に声をかけた。 「ブラジャーをお探しですか?」 「ああ、はい」 「サイズは?」 「70のDですけ…」 モミモミモミモミ。 「キャー!なにするのよ!」 「いや、直接揉んだほうがわかりやすいもので。あなたは今70の Dとおっしゃいましたね。でもあなたの胸は、どう考えてもCカッ プです。だいたいねえ、自分でも気づいてるでしょ?あーあ、こん なにパット入れちゃって。見栄をはると胸の形も悪くなり…」 女の子は私の説明を最後まで聞かないうちにそそくさと店から出 て行ってしまった。 閉店後、私は店長にこっぴどく叱られた。 「あのさあ、前々から言いたいとは思っていたんだけどさあ、あん たああいう物の売り方、やめてくんない?」 「ああいう売り方ってなんですか?」 「そりゃあね、あんたが仕事熱心なのははわかるよ。それはいいん だけど、お客の胸をいきなり揉むのはやめてくれよ。そのせいで今 月ブラジャーの売上げがガタ落ちなんだよ」 「そんな!私はただ、きれいな女の子には胸まできれいになってほ しいだけです!それに胸の形は十人十色ですからその人に一番フィ ットした…」 「はいはいはいはい。もういいよ。あんたのその話は100 万回 は聞いてるからね。とにかく、これ以上あんたが客逃がしたら、即 刻クビにするからな!」 「そんなあ…」 その夜、私はなかなか寝つけなかった。 (私は悪いことをしているのだろうか?女の子達のニーズに合わせ るためにわざわざ胸を揉んで、その女の子にぴったりのブラジャー を選んであげることは、そんなに間違っていることなのだろうか… ?) 一晩中悩んだわりには、何の答えも出なかった。私は目の下に作 ってしまったクマをファンデーションで必死に隠して店に出た。 その日もまた、開店と同時に女の子達がポツポツと入ってきた。 女の子達がはしゃぐ様子を見て、私は必死に自分の感情を押さえて いた。 その時、不思議な客がやってきた。女の子ではない。おばさんだ。 そのおばさんは、ブラジャー売場の前に立ちつくしたまま、ぼーっ とした表情をしている。しかも、目の奥が時々異常に光る。私はそ のおばさんが妙に気になった。店長の方を盗み見ると、他の客の接 客をしていた。私はその隙をついておばさんに近づいた。 「お客様、ブラジャーをお探しですか?」 「…」 「お客様?」 「……」 「どうなさいました?お客様」 「ごめんなさい…私、もうブラジャーなんてつけられない体なんで す」 「え!?そんなことはございませんよ。当店は輸入物から一点物ま でを集めた、下着業界でも珍しい…」 「実は私…昔、乳ガンで乳房を両方とも取ったんです」 そう言うとおばさんは自分の胸に手を当てた。確かにそこにある べきものがない。 「だから、私はもうブラジャーなどつけられない体なんです。それ でも、ここみたいなかわいい下着屋さんを見ると、ついつい…」 おばさんは泣き崩れてしまった。私はなにも言えなかった。なに もしてあげられなかった。おばさんはまだ涙を流している。 その時、私の頭の中に名案が浮かんだ。 「お客様、ちょっと胸触ってみてもいいですか?」 「胸…ですか?構いませんけど、本当になにもありませんよ」 「そんなことありませんよ。触らせてください」 モミモミモミモミ。 「お客様。乳ガンだなんて諦めないでください。お客様の胸は、立 派なAカップです。」 「え!?ホントに?」 「本当ですよ。なんならこのピンクの80Aのブラジャーをつけて みてください!きっとフィットするはずです!」 「ホントに?じゃあ試着していいかしら?」 「もちろんです!どうぞ、いかがですか?」 「うわー。ホントぴったり!何年ぶりかしら?ブラジャーするのな んて!」 「本当…よくお似合いですよ」 「まあ、お世辞言っちゃって。なにも出ないわよ。でも、う〜ん、 そうねえ、このブラ1ついただくわ」 「ありがとうございます!」 おばさんは会計を済ませると、私の方を何度も何度も振り向き、 笑顔で手を振りながら店を去っていった。 「さようならー!また来てくださいね!」 私はおばさんが見えなくなるまでずっと手を振り続けた。 なぜか、涙がはらりはらりとこぼれ落ちて止まらなかった。