第12回3000字小説バトル
Entry20

ひらがなかおす


 どろっとしたその世界は、色々なものが混ぜ合わさり、混沌とし

ていた。



 僕は仮名の【た行】です。いつ生まれたのかは解りませんし、親

というものも知りません。自分を【た行】だと意識したのが始めて

の記憶でした。

 親はいませんが、仲間は沢山います。同じような【行】もいれば、

ちょっと大きな【段】もいます。まだ子供で【行】にも【段】にも

なっていない者もいます。彼らは本当に小さいので、これから色々

な人と関わりあって、【行】になったり【段】になったりするので

しょう。僕もこれからどんな風に成長するのかは、解りません。

 僕は【た行】ですから、「とち」を持っていますので、色々な人

が遊びに来たり通り過ぎていったりします。僕はそういう人たちと

交流することで色々な経験を積んでいます。なんの為の経験なのか、

どうしてそういう気持ちになるのかは解りませんが、僕は交流する

ということが、楽しくて仕方がありません。

 この間などは、【か行】【さ行】【ま行】という3人が珍しく一

度に来て、僕らは一緒に「たくましく」なりました。

 でも本当に変わった人達もいて、【濁音】【半濁音】なんていう

人達なんかの場合には、僕はあんまり係わらない方が良いのだろう

とさえ思いました。【濁音】の場合には、だぢづでど〜と身体中が

痺れて、中々元に戻れませんでしたし、【半濁音】の場合には、ど

うしても触れることさえ出来ませんでした。勿論彼らが、他の人と

寄り添わなければ成長出来ないのだろうというのは解ります。でも

どうしても彼らを敬遠してしまうのというのは、僕だけじゃないよ

うです。



 ある日の事でした。珍しい事ですが、まだ子供の【ゆ】が僕のと

ころへやってきました。まだ子供ですから、自分の事をよく理解し

ていませんので、僕は暫く家に住まわせてやる事にしました。なん

だかこの娘を見ていると、可愛くて抱きしめてやりたくなってしま

います。彼女がこれからどういう風に大きくなっていくのか見てみ

たい。いや、僕が大きくなるまで育ててあげたい。そう思いました。

丸みをおびた身体には、何処か芯がピンと通っているようですし、

僕の気のせいかも知れませんが、ゆたゆたと心細げな彼女がいとお

しくなってしまったのでした。

 僕が【ゆ】を彼女とよんだのは、もちろん便宜上の事です。自我

が目覚めるまでは性別はありません。ただ単に僕の希望だったので

す。

 【ゆ】は、僕が面倒を見てもよいという答えたので、それから僕

達は一緒に暮らし始めました。



 僕は昼に少し仕事をしますので出かけてしまいますから、【ゆ】

はどうしても独りで遊ぶという事になってしまいます。たまに人が

通り過ぎますから、遊んで貰ったりはするようですが、やはり寂し

いのでしょう。

「【た行】さんってば、私と一緒に暮らすと云っておきながら、出

かけてしまうなんて、冷たいわ」

 【ゆ】はそういっては、大粒の涙をボロボロと流しますので、そ

ういう姿を見ると、どうしても自分が面倒を見るといった手前、申

し訳無く思ってしまいます。

「御免よ。御免よ。そんなつもりは全然無かったんだ」

 そういっては、彼女のゴキゲンをとるようになっていました。

 一緒に暮らし始めてはじめての夏に、僕達は海へ行きました。始

めて見る【ゆ】の水着姿が眩しくて、僕は顔を上げることも出来ま

せん。そんな僕をみて【ゆ】はいいました。

「【た行】さんってば、そんなに見たら恥ずかしいじゃないの」

 そういいながらも彼女は、僕に日焼け止めのクリームを塗らせま

した。なんだか【ゆ】は大人の僕を、少しからかっているようでも

ありました。

 【ゆ】の身体はもう子供とはいえなくなっていました。キメが細

かくて張りがあり、「ゆき」のような白さでした。ひょっとしたら、

通りすがりの【き】と遊んだせいかも知れません。

 家に帰ると赤く火照った肌の【ゆ】が少し身体が痛いということ

で、僕は彼女を水風呂へ入れて、赤くなった体をやさしく洗ってや

りました。【ゆ】の身体は思った通りやわらかで、すらっと伸びた

足と少し大きくなってきた胸や腰に水着の後が付いて、まるでまだ

水着を着ているようでした。

 それから暑い日が続いたその夏は、毎日水風呂に入っては、【ゆ

】の身体を洗ってやりました。そんなある日とうとう僕達は、【ち

ゅ】な関係になってしまいました。【ゆ】は特に小さな【ゅ】にな

って、僕は【ち】ばかりになって、いつもくっついておりました。



 それから何日か経って仕事から戻ると、【ゆ】が若い男達と3人

で話をしていました。僕に気付いた【ゆ】は「お帰り」といってそ

の男達と一緒に僕を迎えました。【ゆ】は彼らを【ら行】と【い段

】だと紹介し、飲み会が始まりました。

 【ゆ】は随分大きくはなりましたが、あまり飲めない方なのです

が、今日はなんだかピッチが早く、「酔っ払っちゃたよ」などと云

って着ている服を緩め、とうとう胸の谷間が見えてしまいました。

【ゆ】は「今日は泊まっていけばいい」などといった所へ、雷がな

ったと思ったら、大雨になってしまい。彼らも始めは遠慮していま

したが、「それじゃ雨も酷いようなんで…」といって、泊まること

になりました。

 どうせならという事で4人雑魚寝になりましたが、僕はなんだか

急に眠くなってしまい、起きていなければ何故か大変なことになっ

てしまうという思いがありましたが、とうとう解らなくなってしま

いました。

 明け方に目が醒めた僕の脇では、【ゆ】が【ま行】や【い段】と

一緒になって、捻れあって、みゅむ、にゅる、ちゅる、などとなっ

ていました。僕はというと声もたてられず、腕を動かす事も出来ず

に、彼らの様子を見つめるばかりです。とうとう彼女達は、じゅる

じゅるとか、むにゅ、むちゅとかになってきました。僕でさえした

ことがない体位で、3人がひとつになっていました。

 後で判った事ですが、【ま行】が【ゆ】を「もみもみ」すると、

僕が「ゆめ」の中に入ってしまって出られなくなったようです。

 僕は【ゆ】を叱りました。せっかく僕達二人だけの暮らしなのに、

他からやってきた者に【ゆ】は身体をゆるしてしまったのです。考

えてみれば仕方のない、本能みたいなものなのかも知れませんが、

僕はゆるせませんでした。

「もうお前なんか知らない。出て行け」

 そういうと【ゆ】は何も云わずに出ていってしまいました。

 それからというもの、僕は【ゆ】がいない生活がどんなに味気な

いものか痛切に感じました。【ゆ】に戻ってきて欲しいと願うよう

になりました。【ゆ】との甘い生活。二人一緒の陶酔感。忘れよう

とすればするほど、自分の我が侭な罪悪感が強くなりました。



「ただいま」

 【ゆ】の声が聞こえたと思って玄関を覗くと、あっけらかんとし

た態度で【ゆ】が立っていました。いや【ゆ】だと思ったのですが、

成長して【や行】になった【ゆ】でした。

「御免よ。もう何があっても放さないから一緒に暮らそう」

 僕がそういうと、彼女はにっこりと笑って答えました。

「これからはもう何をやってもいい? 怒ったりしない?」

「もうもうそんな事は絶対しない。誰と交流してもいいから、また

僕と一緒に暮らそう」



 それからの僕達はというと、色々な人達と交流する事になりまし

た。【や行】は相変らず交流では、【にちゃ】とか【むみょ】なん

て半分程捻れてくっついたりしていましたが、僕と二人だけの時は

【ちゅっ】なんて事になっています。












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