西暦25XX年、我々は地球を捨てた。
今我々は、宇宙船の中で地球再生のプロジェクトを行っている。
故郷を捨てて500年、いまだに地球再生のめどはたたず、地球が死
滅した原因はいまもって不明である。ある日人間以外の動植物が突
然生命活動を停止し、人はその途端むごたらしい様を曝け出した。
それに対処したのは、いつかこういう日が来るだろうと予測してい
た者達だけであり、その中で残る事より、地球を捨てる方を選択し
た者達が宇宙に旅立ち、長い年月をかけて、新たな星を発見。そこ
で文明を築き、500年後には宇宙船を地球の軌道に乗せながら、再
生の為の研究を行うまで発展した。
「ここまではいいか?」
私、ムウ大尉は脳内から記憶を呼び起こし、コンピュータにつな
ぐメットを頭から外しした。側にいるのは人間にしか見えないアン
ドロイドでS101、製造されて101番目だから、101という単純な
ナンバーだ。
「完璧です。大尉」
S101は頷くと私の側を去り、他の人間の所へ行った。今生きて
いる人間は数少なく、人類の歴史を残さねばならないと、我々はア
ンドロイドに託す事にした。彼らは死ぬ事なく、危険な作業も人間
の代わりに行い、地球再生に役立つ。眠気が襲い、私はメットをか
ぶり直した。夢も全てコンピュータに記憶される……人類の記憶と
して。
「これがその手記だ」
私は先人である人間が残した、数枚のチップをS100から受け取
った。
地球を捨てた人間が造った私達アンドロイドは、人間全てが絶え
た今でも、宇宙船に乗り地球再生の為のプロジェクト研究を行って
いる。もう、地球人が不時着し定着した星にも人間はいない。星に
移住した人々は文明を築いたが、子供の出生率がいつまでも伸びな
い事に気づいたのは500年後、最後の人間が死去したのはそれから
100年後であり、アンドロイドだけの星となった。私達は生命を生
み出さないが、仲間を作ることは出来る。出来た仲間はデータ入力
したわけでもないのに、地球を再生するという意識を最初から持っ
ていた。永久命令として人間がロックしたらしく、決して解く事が
出来なかった。
「判りました。最適の方法を探し出します」
私S101は挨拶すると後ろの物に目をやった。クリスタルの箱に
入ったシャーレの中にはかつての患者ムウ大尉の細胞がある。DN
Aを解析し、それが覚えている太古の地球の姿をコンピュータ (こ
れも地球人の記憶から取った言葉だが、 今はマザーと呼ばれてい
る)に投影、動植物の形成を研究する為に使用していた。
「地球に投降する用意は既に完了している。まずは地球の核を起こ
す為、海中に大量の爆弾を仕掛ける。マントルがずれ地殻変動を起
こした後、 各地に植物の種を撒き、成長促進剤使用、 その50年後
に
魚類を卵を海中に頒布、しかる後に私達が降り立つ」
「全て御心のままに」
これも大尉の記憶からの引用だ。
大尉のDNAは夢を見ている。自分の体が損なわれるままなく生存
していて、時間は地球死滅から500年後。夢の中では家族、会社、
グループと幾つもの集団に属し、安定ながら些少の焦燥心理状態と
マザーは判断。その前は戦争、記憶を遡ると多いのは戦い、それに
混じりながら笑顔や生育状況の発達した草花、鉄鋼、動物が映し出
され、太古に存在した巨大な生物、単細胞、濁流と化した溶岩。
私は司令室に向かうと椅子に腰かけ、スクリーンを前にして言っ
た。
「マザー、命令だ。地球時間3450年、6月11日、爆弾投下」
「イエス」
司令室にマザーの声が響いた。宇宙船全体がマザーであり、廊下
を歩きながら、ふと呟いた言葉にもマザーは返答してくる。
――投下予定日、爆弾を積んだ無人機が地球の周りに配置され、
合図と共に爆弾は投下された。その様子が映し出されているスクリ
ーンには、衝撃で震え、地球のあちこちで、どす黒い赤の溶岩が流
れている様が映っていた。無人機はとうに熱で溶け、溶岩の一部と
なり、地面に吸収されていった。音は聞こえないが、もし耳にした
ら、無理矢理起こされた怒声か、生誕の産声かもしれない。
「この状態が続くのはいつまでだ」
「約100年と計測、溶岩は地面となり新しい土地を形成、海水は常
温」
「判った。それまで私はスリープに入る。交代要員を起床させよ」
「イエス」
私はスリープ室に向かった。S100はもう眠りについている。
幾らアンドロイドとはいえ、ただ100年ぼうっと待っているのはつ
らいものだ。私はスリープベットに横たわり自らの電力を最小限に
落とした――。
――小さな電子音が耳に届いた。体中に電気が行き渡り、私は目
を開けた。スリープベットの蓋が音もなく開き、私は体を起こした。
「ああ、100年経ったのか……」
見渡すと、目覚める前と何も変わっていない。隣には交代要員の
S102が眠っている。
司令室に向かうと、ペアであるS100が既にスクリーンの前に座
り、地球の様子を眺めていた。
「やあ、起きたのか。どうだい、100年ぶりの朝は」
「いつも通りですよ。地球は変わったようですね」
「ああ。地表が落ち着き、海が生まれた。私達の作戦は成功した。
植物の種を撒布してもいいだろう」
スクリーンに映る地球は、青と白の文様を美しく描いた星となっ
ていた。ムウ大尉の地球の記憶そのままで、捨てた時代の黒っぽい
星とは大違いだ。ふと見ると、大尉の細胞を入れたシャーレがない。
「マザー、シャーレは?」
「お久しぶりです、S101。質問のシャーレは細胞が死に絶えた為、
S102が処分しました」
「判った」
これで人間の形跡はゼロになってしまった。仕方が……ないだろ
う。私は植物の種を撒布する準備に取り掛かった。
それから50年後。 海面近くに多数の機械を下ろし、 魚類の卵を
頒布。既に植物は根を張り、生命力に溢れた緑の手を堂々と広げて
いた。 その50年後私は再び眠り、 100年後には交代要員ではなく
起床した。
もう、地上に降りる時期なのだ。
司令室にはS102と103が在席し、 他多数のアンドロイドが乗る
ポットを操作し、地上までと地上に降り立ってからの安全を守備す
る。
――ポットの蓋が開き、まとわりつくような濃い密度の空気が私
を包んだ。視界に映るのは、風に吹かれてなびく、若草色の草原と
色とりどりの花々。水に跳ねる、魚の音。
ムウ大尉の記憶から受け取った美しい情景そのままだった。花々
には小さな羽のある生き物が止まっていた。
「あれは何だ?動物か?」
顔も見知らぬ、仲間の一人が叫んだ。
「司令室、調査せよ。予定外の動物か昆虫が存在、発生理由を報告」
動物・昆虫の類を、私達は種の保存をしなかった。動物に関して
は論議もあったが、失敗・及び危険増加する可能性多々の為見送ら
れ、食料としても不必要だった。
「マザーより報告。ソレは{蝶}という昆虫。自然発生の可能性有り」
ざわめきが起こり、困惑が私達の間を駆け抜けた。
「どう思う?」
S100に聞かれ、私は首を横に振った。
「自然発生なんて。私達が立てた計画――アンドロイド数は一定、
かつ、魚類・植物は生態系を保護しつつ地球を完全に再生する。に
は、破壊の元となり易い動物・昆虫は含まれていません。昆虫だけ
なら、小型ゆえ影響は些少とも考えられますが、もし動物も発生し
たら」
「再生してもまた、同じ結果になるかもしれないな」
「しかし、主たる種は私達です」
その時、マザーから再度報告が入った。
「報告。林間部に人間の男女発見」
私は思わず目を覆った。
地球は、完全に再生したのだ。