Entry1
明日を生きられる喜び
双
互いの国の業により戦争に駆り出される少年が一人
自国は日本。各国より恨み恨まれを繰り返す自称神の国。
少年は眼目に携える者に声をかける。
「絶対にまた会おう」
声をかけられた少年は迷彩服に二丁の拳銃を腰に挿している。
挿している拳銃の一方はライフル。もう一方は軍指定のピストル。
ライフルには数十発の弾が入っており、もう一方のピストルには十発程度弾が補充されている。
迷彩服の者は少年に返事をする。
「当たり前だ。死ぬんじゃないぞ」
声をかけた少年は迷彩服ではなく薄青のサングラスをかけて腰には刀を二本ばかり挿していた
服装は軍から至急される防弾チョッキ。
下には使い古されたロングTシャツ。
その二人の者は互いに差し出した右手を握り合い約束を結び決意を固める。
「これから俺らは戦争に駆り出されるんだな」
少年は言う。これから訪れる予期することの出来ぬ未来を迷妄しながら
「そうだな。正直今すぐにでも逃げたいくらいだ」
「でも俺たちは逃げられない」
「ああ。俺らの帰りを待っている母ちゃんのためにもこの戦いに勝利しなくてはならない」
母ちゃん
二人の少年をこれまで女手一つで育てつづけてくれた唯一無二の育ての親
この二人は幼少時代に戦争で親を亡くし路頭に迷っている最中で一人の女性に出会い拾われた。
その人がこの二人の言う 母ちゃん である。
二人は小さな孤児院で母ちゃんに育てられ、強く、立派に成長を遂げていった。
そして二人が14歳になる頃、戦火は二人の元に今一度降り注ぎ戦争に巻き込まれることになる
【出兵要請】
この要請に拒否権はなく、出兵しなければ自害しなければならないあまりにも酷なもので要請が出たその日に二人は共に涙を流し、これまで育てつづけてくれた母親に感謝の意を込めお礼を言い、一礼した。
「今までありがとう母ちゃん」
「絶対に帰ってくるから。俺らが母ちゃんやみんなを護るから」
二人の言葉に母親は涙した
嗚咽を堪えることが出来ず、ただただ泣きつづけた
出兵当日になり二人は声を揃えて母親に言う
「「いってきます」」
『行って来ます』
これは永劫の別れの言葉ではなく、また会うことを前提にした『ただいま』の言葉をいうためのものである
旅立つ二人の息子に精一杯の笑顔を見せ母親は言う
「いってらっしゃい。必ず帰ってくるのよ」
涙堪え、この時ばかりは泣いていけない。そう自分に言い聞かせ二人を見送った
そして今二人は戦火の上がる戦場へと向かっている。
「絶対に・・・帰るんだ」
一方の少年は右手に握る一丁の拳銃をがたがたと震える右手で構え警戒を解かずに震える足を一歩ずつゆっくりと踏み出し歩いていた。
「こんなところで負けない」
もう一方の少年は両手で刃渡り80cmほどの刀を握りしめており、その少年の両手は微かに震え恐怖と不安を物語っている。
『米国軍だ・・・!米国軍が責めてきたぞ!!』
怒号のような司令官の声が耳に届く。
迫り来る恐怖と世界。
落ち着け。落ち着け。と心の奥で呟く二人。
「オオオオオオ!!!」
叫び声と共に突撃してくる米国兵
その数は恐らく百名を超えている。
鈍い轟音に鉄が激しくぶつかり銃声を鳴らす
次々と倒れていく日本兵。
死の恐怖が少しずつ少しずつ二人を覆い始める。
「母ちゃんの元に帰るんだ!」
迷彩服の少年は戦の火が吹く中へと単身で二丁の銃を構え飛び込んだ。
銃声が一つ、また一つと鳴り響く。
狙った先の米国兵に一つ、また一つと確実に急所に命中し倒してゆく
死を覚悟に飛び込んだ決意に揺らぐものはなく、一人、また一人と次々に蹴散らす。
「オオオオオオ!!!」
負けじと米国兵も両手で支える散弾銃を構え目前の日本兵の息の根を止める。
散弾銃の実包にはプラスチック製のケースと金属製のリムで構成されたケースの中にあらかじめ多数の小さな弾丸(散弾)が封入されており、銃口より種々の角度をもって放射状に発射される機能を持っており抵抗する暇もなく息絶えさせてゆく。
12口径もの大きさの口を開く散弾銃を持つ米国兵を前にして抵抗する術がほとんどない日本は戦争の勝機を失いかけていた。
その中でも諦めず、小さな二丁の拳銃で力の限り戦い続ける迷彩服の少年がいた。
負けられない。
負けるわけにはいかない。
ただその一心で恐るべき脅威を持つ米国兵を相手していた。
しかし銃には弾というものが必要になる。
勿論のことだが。
少年はあまりに熱中しすぎ弾のことを考えるのを忘れていた。
やがてライフルの弾が底を尽き、弾切れを起こす。
「・・・くそっ!」
ライフルを右手で投げ捨て、左手に持っているピストルで応戦する。
狙いは防御力の薄い首元。
一人、また一人と倒していくその姿に日本軍兵の士気は徐々に上昇していた。
少年の戦争に対する覚悟と姿勢に引かれ、戦いを行っていく。
しかし日本の強行姿勢はそう長くは続かなかった。
散弾銃を前に小さなピストル相手では攻撃力の差があまりにも開きすぎており、歯がまるで立たずに倒れていく日本兵。
一時は優勢になっていた日本ではあったが、その形勢はすぐに逆転した。
少年は弾が切れ、右手を散弾銃で貫かれ、左足にも深く弾が入り込んでいた。
「負け・・・負けられないんだ・・・!」
左足で進もうとした瞬間、電撃が走るような速さで左足に深い苦痛を与えていた。
声にならない叫びに苦渋の表情を浮かべるものの、その痛む足を無理矢理に前へと動かしピストルを逆に持ちグリップの部分で米国兵の顔面を殴打する。
逃げられない
負けられない
死ぬわけにはいかない
様々な感情が巡っては消え巡っては消えていく。
疲れ果て、倒れかける迷彩服の少年。
その少年に気付き別の場所にて米国兵を相手していた刀を持つ少年が急いでその場へと駆けて行く。
向かう途中、米国兵に道を遮られたりしたが両手の刀を真上から振り下ろし頭部を切り裂き殺していく。
「康孝!!」
康孝(やすたか)と呼ばれた者は迷彩服を身にまとい、弾が切れた拳銃を握っていた。
「秀一!」
秀一(しゅういち)と呼ばれる少年は血で濡れた刀を握っていた。
「大丈夫か!?」
駆け寄った瞬間、一発の銃声が悲鳴をあげた―――――
「やすた・・・!」
声をかけようとしたその瞬間
先程放たれた一発の弾が秀一の頭部を深く貫いた。
「ごめ・・・ん」
ふわりと一枚の紙のように体が飛び一言そう告げると地面へと倒れる。
「康孝!!康孝!!」
「お前は・・・生きて・・・」
地面に倒れた秀一は最後にそういい終えると果てていった。
享年 14歳
小谷康孝 死亡
「うおあああ!!!」
捨てられてからというもの二人は常に一緒で常に一緒に行動していた。
その友が今、憎き米国兵に撃たれ、死亡した。
力の限りに叫び、涙を流し血で濡れた刀を更に血で濡らしていく。
もう犠牲は出さない。
もう誰も殺させやしない。
感情のままに振るうその刀は酷く痛々しく隙だらけであった。
その少年のスキを逃すはずはなかった。
鈍い音が鳴り響き散弾銃から弾が放たれ刀を振るう少年の頭部を貫いた。
「かア・・・サん」
最後にそういい残し少年は果てていった。
しばらくの交戦の末に戦争は米国軍の圧倒的勝利で終わった。
日本軍は全滅。
戦争に駆り出された少年は皆息絶え無残な最期を遂げた。
それから数年に渡り日本は戦争を行っては敗北を重ね、白旗を掲げ敗北を表明。
今日生きている者は皆、口々に言う。
「我々が生きている今日は昨日死んだ人々が死ぬほど生きたかった今日なんだ」と。
日本は満身創痍ながらに小さく一歩を歩き始めた。