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3000字小説バトル

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3000字小説バトル
第85回バトル 作品

参加作品一覧

(2008年 1月)
文字数
1
3737☆★
3000
2
ごんぱち
3000
3
(本作品は掲載を終了しました)
ウーティスさん
4
るるるぶ☆どっぐちゃん
3192

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Entry1
迷える子羊
3737☆★

「ストレイ・ゴート‐迷える子羊‐」は、とあるお店の名前です。

レンガ積みの簡素な家で、煙突がちょこんとあって、絵に描いたように雪が綿のようにのっています。最近は日本のお客さんが多くって、店主のロバートさんが「困るんで何とかしてください」とかいったらしいんですけどね、うまくいかないみたいです。

ご存じない?そりゃご存じでしたら、生きてませんから。ご存じないに越したことはありませんよ。

え、じゃあ、なんでお前は知っているかって?

野暮なことを聞いてきますね。12月から1月のめでたいこと続きですよ?
神様と仏様のお使い係は半端なく忙しいんです。

まぁ、それはともかくロバートさんなんですけどね、彼が言うには「アメリカやイギリスにはとっくに『ワーキングプア』ってのはあるんだ」そーで、「その分君たちの力が欲されるだろう?」と言われます。

確かにその通りでしたので、僕は素直な天使ですから、「そうですね、ロバートさん」といったんですよ。

そしたらロバートさんの長い長い愚痴が始まっちゃって大変だったんですけども。

ローバートさんの愚痴を完結に言えば、「神も仏も信じちゃくれないのに、大騒ぎをしてくれるから、使いはいっぱいいるし、いまさらワーキングプアについて何とかしてくれって言うんだ」ということだそうです。

僕には少し難しいですが、人間界でなんだか「わがまま」が発生しているとか「神様」や「仏様」が言って、仙人のおじいちゃんたちが「だってにんげんだもーん」といい、吸血鬼のおじさんは頭を抱えて「美女」なんていなくなっちゃったといってました。

吸血鬼のおじさん曰く、おいしいのは「夢見る少女」で希望に満ち溢れているのが美味しいらしくて、「現実逃避」やら「現実直面」、「現実淘汰」を旨としている方は美味しくないらしいです。

その点仙人のおじいちゃんたちが上手かなと思いきや、「ふるさとの味は危なくて仕方ない。銀の器に盛るとすぐ黒くなるし」とか「そうそう、この間も『これ絶対安心』ってのに、銀が染まったときは『ダメだこりゃ』と思っちゃった。」とかやっています。

そういえば、仙人会(仙人界とは別物です)にいるジョン・レノンさんと、いかりやさんとジャイアント馬場さんが大うけしていて、『あのころは愉快だったな』とかやってまして。

うーん。

「こら!そこ手を休めていちゃダメだろ!」
「はーい」
「まったく。幾ら少子化っていったって、あの国は物価が高いんだ。」
「はぁ……」
「しかも、ありがたいだなんて思っちゃいやしない。」
「あの……」

僕の師匠のランバートさんは、ちょっと短気なんですが、いい人です。

「おい、坊主。」
「はい、悪がきにやるの勿体ねーから、イランに手伝いにいって来い。」
「はい?」
「おもちゃじゃなくて、ちょっとした命あるものを見せてやればいい。」
「といいますと?」
「花でも、動物でも。子供が子供らしく生きられないのは、かわいそうだ。」
「ですけど……、日本の子供は?」
「かわいそうだが、あの子らは『迷える子羊』からの贈り物がいい。お前の生命に息吹を与える力はあっちで使って来い!」
「んな、ランバートさん、割り当て表違反で怒られちゃいます。」
「お前何年、天使やってんだよ。」
「かれこれ30年です。子供の格好に天使の輪ですけども。」
「天使長に文句一つ言ってこいよ。」
「いや、それは……。」
「おまえんとこのは誰だよ?」
「ミカエル様です」
「……鬼子母神に話付けにいくか……」
「すみません。」
「いや、戦いの天使様にはかなわない」
「はい……」
「あ、絶対に30年とかいうなよ。見てくれ6歳だから」
「はぁ。」

ということで、鬼子母神のところにお願いしにいって、ミカエル様は青筋たてつつ(あとが怖い)、出かけることになりました。

そこで見たのはえらく凄惨で。
日本の「えー○○とかぁ~」と鼻に抜けるような声はしていなかったんですよ。

「おい、あいつ、殺しちゃえ」
「そうだ、そうだ」

だれも止めません。日本がどれだけ平和ボケしているかを知りました。
で、僕はどじを踏みまして、捕まっちゃったんですよね。

「なんだ、こいつ、羽なんか生えてら」
「おい、こいつ、キリスト教とか異教じゃないのか?」
「それより化けものだろうが」
「なあ、キース、リーンにこいつをあてがおうぜ」
「変人同士いいんじゃね」

ここは神様はいません。仏様もいません。
ランバートさんの「子供は子供らしくあってほしい」という願いは、
血だらけになった僕には遠い気がしました。

と、ぐるぐる巻きにされて、目と口の部分だけを開けられた紙袋をかぶせられ、同じく血だらけになった少女がいました。

虫の息。

でも、紙袋には涙のあとがくっきり見えました。

僕の羽は折れてしまって動けませんし、人間に命を与えるのだけはご法度でした。

何もできない自分が悲しくて、堕天使ならば助けられるのにと歯がゆく感じました。

少年たちに紙袋を外されたその子は、少年たちとは髪の色が異なって、淡い栗色をしていました。

「ジプシーは踊るんだぜ」
「羽の生えた悪魔と踊ればいいさ」

笑い声が頭に響きます。僕の頬に涙が伝います。

とても歯がゆくて歯がゆくて。なんといえばいいのか分かりますか?
神様なら、仏様なら…わかりますか?それなら人間なら分かりますか?

少年たちはその瞬間爆風で消え去りました。一瞬でいなくなりました。

リーンという子は、自分が助かったことに喜びもせず、自分をいたぶっていたものにも悲しみもせず、自分が生きていることを不思議そうにしていました。僕は何もしていないのに「ありがとう」といわれました。無表情でした。

僕を無表情のまま、手当てをしてくれたリーンに、僕は今のところ戦争の無いところへ避難させて、お花畑の近くに彼女の家を作りました。きこりの仕事はロバートさんに習ったので、少しはできました。

それでも彼女は無表情に花を見つめ、ご飯を探して集めてきて、「自分はともかくあなたに」とくれました。わたしはいらないと。

僕に何ができるでしょうか?
天使の羽などいらないと、もしくは彼女を天使にとどれほど願ったことでしょうか。

僕はロバートさんの長い話の中で「そーですね」と相槌を打った中に、「愚痴」といった中に彼女は含まれていました。

「働いて稼いでばかりのやつは地獄いき。多少援助すれば別だけど。争いを褒めるやつも仲間入り。彼らは金と地位と名誉しか見えていない。そして働いても食べていけないのは、まだましだ。文句を言える口がある。俺が神様ならば助けてやりたいのは、ここにくるものばかり。ぼろぼろになって『笑う』ことを忘れて『泣く』ことも忘れて。でも『悟り』を開いたわけじゃない。『生きることに絶望している』やつらなんだ。俺は、それが一番悲しいんだ。」

彼女はその「生きることに絶望している」人でした。

何者かと戦って、心は朽ちてしまって、他人のためにはできるけど、自分のために生きることに絶望をしていました。

ロバートさんは言いました。まだまだたくさんいるんだと。「生きるのがいやだ」と迷うのがいるのだと。

僕は12月も1月もずぅっと過ぎて、一人の人間に戻ってしまい、リーンと二人で生きています。未だ微笑みがぎこちない、リーンになんとか笑ってほしいと願ってて、先日赤ん坊が生まれました。

そして彼女は笑ってくれました。鬼子母神さまにあってからきたためでしょうか?リーンが神々しく見えました。
迷える子羊 3737☆★

Entry2
塩鬼
ごんぱち

「……う、痛たたた」
 尾巳はバイクを押して松の樹の間を歩く。
 崖から落ちた衝撃で、ボディーは歪み、エンジンは潰れていた。割れたヘルメットは、捨ててしまった。
「ついてねぇ」
 携帯端末のイヤホンを付け、電源を入れる。
 聞き覚えのある古い女性ヴォーカロイドの歌に、尾巳の表情は和らぐ。鼻歌の一つも出そうになった時。
『――続報です』
 アナウンサーの声が割り込んで来た。
「……なんだよ、これからサビなのに」
『下鷹野市内で発生した暴力団事務所発砲事件の犯人は、鷹脚岳へ逃げ込んだ模様。容疑者、竜崎町無職の尾巳を緊急手配中です』
「……オレ、無職?」
 ボリュームを上げる。
『尾巳容疑者に銃を奪われた雲華さんによると』
「雲華兄貴、あれ?」
『奪われた銃はフェイファー・ツェリザカ2080AT(ANTI-TOADSTOOL)、松茸狩猟用の殺傷力の高い大変危険な拳銃です。付近の方は屋内へ避難し、見かけても決して近寄らないで下さい。繰り返します、大変危険です』
「おい、マジかっ、まさか、兄貴が、逮捕怖さに?」
「静かにしろ」
 何の前触れもなく、声がした。
「え?」
「静かにしろと言った」
「!!」
 気がつくと、すぐ側の枯れた松の樹に、一人の老人が目を閉じてもたれていた。

「な、なな、なんだ、あんた!」
「静かにしろ、と言ったつもりだがな」
 老人は目を開けない。
「ん……あんた目が?」
「さっさと行け」
「バ、バカ言うな、オレは極道だが外道じゃあねえ、目の見えないジジイを一人で放っておけるか!」
「手遅れか」
 老人が呟く。いつの間にか周囲は、無数の蠢く粘液状の塊に取り囲まれていた。
「な、こいつら!」
 そのうちの一つが、飛び上がった。
「うわっ!」
 尾巳は反射的に、それを手で弾き飛ばす。
 ぬるりとした触感。
「気色悪っ」
 尾巳は手をズボンで拭く。何度も拭くうちに、皮膚がボロボロと崩れ落ち、ようやくヌルヌルした触感はなくなったが、手の皮は真皮まで剥け、赤く血が滲んでいる。
「気を付けろ、蛋白質は分解されるぞ」
「まさか」
 じりじりと粘液は間合いを詰めて来る。
「酸性土壌改良用に好塩基性と自走性を付与した菌類の野生種。簡単に言うと」
 老人は呟く。
「なめこ、だ」

 じくじくとしたなめこが、土を喰いながら進んで来る。
 時折、「跳ねる」。
 菌類というより、蟲に似ていた。
「なんて数だ、畜生!」
 尾巳はバイクのガソリンを浸し、火を点けたシャツの切れ端をいくつも投げ、火の壁を作る。
「他に何かっ」
 老人の傍らには、大きなカゴと、サーフボードケースのような長いバッグがあった。
「……爺さん、それ!」
 尾巳はバッグのファスナーを開ける。
 バッグの中に入っていたのは、人間の身長ほどもある巨大な刀だった。
 ――否。
 付いてるのは刃ではなく、細かなギザギザとした歯だった。
 四十二式斬松茸。
 巨大化し、自律行動をする松茸を狩る為の鋸だった。
「バーナーとかショットガンとかないのかよ!」
「この辺りの松茸狩人は、これ一本だ」
「ノコギリであんな沢山のなめこが切れるってのか?」
「そんな訳なかろう」
「だああああっ、死ぬ、すぐ死ぬ!」
「落ち着け。ここの土壌は特に酸性が強い」
 松茸狩人は、静かに言う。
「二時間は保つ」
 松茸狩人は、空を見上げる。
「爺さん、目っ!?」
 ぽつぽつと雨が降り始めた。
「時間潰しの間に、アルカリ土壌の土埃でも入るとまずいから閉じていただけだ」
「時間潰し?」
「思ったより早かったな」
 酸性雨を浴び、なめこたちの動きは目に見えて鈍り始めた。
「よ、よっしゃ! 今のうちに逃げ――」
 言いかけた尾巳の、表情が凍り付いた。
 雨で弱まった炎の向こうから姿を現したのは、あちこちからなめこの粘液を滴らせた、体長二メートルはあろうかという松茸だった。

 雷鳴が轟き、雨がどんどん強くなって来る。
「なめこが松茸に寄生した」
 松茸は菌糸をほぐし、触手のように繰り出す。
「初めて見る例だ」
 弾丸のように素早い触手が、松茸狩人に迫る。
「危ねえ!」
 尾巳はジャケットの内側に吊っていた銃を抜き発砲する。巨大で柔らかいAT弾が、松茸の腹を抉った。
 ほぼ同時に松茸狩人は、転がりながら松茸と距離を取る。
「爺さん、大丈夫か!」
 松茸狩人の四十二式斬松茸の腹に、ちぎれた菌糸が付着して、まだぴくぴくと蠢いていた。一瞬の間に、盾にしたのだった。
「松茸弾を持ってるなら、始めから言え!」
「下がっててくれ。オレが撃ちまくって――」
「もう、絶対撃つな」
「って、ええ?」
 強くなった雨は、一筋の流れを作り、ほんの僅かだけなめこの包囲に隙間が出来る。
「今だ!」
「え? えっ?」
 尾巳の頭が反応仕切れないうちに、松茸狩人は走り出した。

 樹々の間を、四十二式斬松茸を担いだ松茸狩人は走る。
「ちゃんと付いて来てるか」
 松茸狩人が怒鳴る。
「来れてなきゃ、返事出来ねえだろ!」
「なめこの事だ!」
 尾巳がふと見ると、松茸狩人の腰の袋から白い粉がこぼれている。
「あの……付かぬ事をお聞きしますが、その粉はどちら様?」
「石灰だ」
 酸性雨を浴びたなめこは、石灰の僅かなアルカリに釣られ真っ直ぐ松茸狩人達の方へやって来る。
「だあああ! すぐ捨てろ、今捨てろ、死にたいのかこの野郎!」
 不意に、周囲が開けた。
 崖の下、松枯れが一層激しい場所だった。
 崖の上には県道があり、ガードレールが切れている。尾巳が落ちた場所だった。
 松茸狩人は、カゴを置くと、四十二式斬松茸を肩に担いだ。
「さ、下がれ爺さん、そんなノコギリ一本じゃ!」
「さっきも言ったろう」
 松茸狩人は、尾巳に背中を向け、松茸となめこの大群に対峙する。
「この辺りの松茸狩人は、四十二式しか持たん」
 雨足は弱まらず、崖を伝い、水が筋になって流れる。
「理由は単純」
 松茸はなめこ達と合流し、突進して来た。
「山で起きるあらゆる事態に」
 松茸狩人は、唐突に振り返る。
 否。
 身体を返す勢いそのままに、四十二式斬松茸を振り抜いていた。
「こいつは、役立つ」
 四十二式斬松茸の超硬化チタン歯が、崖と、その中に張り巡らされた植物の根を一気に切り裂く。
 崖が崩れ落ち、酸性雨をたっぷりと含んだ酸性土壌に、なめこ達は一気に埋め尽くされ、動きを止めた。
 しかし。
 土が盛り上がる。
 土まみれになった松茸が、姿を現した。
 次の瞬間。
 十メートルは離れた距離からの、松茸狩人の大きな踏み込み一つ。
 一閃。
 松茸は、横に真っ二つになり、どう、と倒れた。
 アルカリに浸食され切った菌糸は、既に松茸の形すら維持出来ていなかった。
「よく、動いてやがったな……」
 いつの間にか雨は止み、空が白み始めていた。
「松茸ってのは、そういうものだ」
 松茸狩人は土を掘り、土の塊のようになったなめこを土ごと取り、カゴに入れる。
「え……って、採るの?」
「なめこに、毒のある種類は一切ない。酢で洗って火を通せば良い味噌汁の具になる。寄って行け、喰わせてやろう」
 遠くから、サイレンの音が聞こえて来た。
「あ……」
 パトカーが止まり、警官が覗き込んでいる。
 尾巳は肩をすくめる。
「お迎え、か」
「そうか」
 作業を続けながら、松茸狩人は言った。
「なら、今度来い」
「……松茸、喰わせてくれるか?」
「獲れていればな」
「有難え」
 尾巳は崩れかけの崖を駆け上って行く。
「出所したら、松茸食べ放題だ!」
 朝日が、長い影を作っていた。
塩鬼 ごんぱち

Entry3

(本作品は掲載を終了しました)

Entry4
シルク
るるるぶ☆どっぐちゃん

 悪魔は海岸線で椅子に座り本を読んでいる。その細い足首を打ち寄せる波に濡らして。
 女は図書館で本を読んでいる。
 女が読んでいるのはセックスとバイオレンスとロマンと萌えとバトルの満載された漫画だった。
(いやあ、やめてえ! 許してえ! 助けて助けて!)
(その銃弾はシルクハットの男の股間を容赦無く撃ち抜いていた。「ひ、ひいい」悲鳴をあげて膝を突くシルクハットの男)
(血飛沫)
(ここは俺に任せろ。なあに、そう簡単に死ぬつもりは無いさ)
(お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、ごめん)
 トゥエンティ・ホワイト・センチュリー・ガールズ・ストライプのライブの音が遠くから聴こえる。
 白いマシンガンが最後の晩餐を撃ち抜く。
 白いバスーカがサクラダファミリアに直撃する。
白いロケットランチャーが、中央総武線をひまわりのように燃え上がらせる。
 白いギターのハウリングが宙に投げ出された様々な書物をびりびりにする。
「晴れたる青空、漂う雲よ」
 なんて青い海。なんて青い海。なんて青い空。
 海岸線。
がらんどうの青い鳥。
「だから結局、次のプロジェクトもこのような形で進めたいと思います」
(いやあ、やめてえ! 許してえ! 助けて助けて!)
(その銃弾はシルクハットの男の股間を容赦無く撃ち抜いていた。「ひ、ひいい」悲鳴をあげて膝を突くシルクハットの男)
(血飛沫)
(ここは俺に任せろ。なあに、そう簡単に死ぬつもりは無いさ)
(お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、ごめん)
(血飛沫)
「マーケティングに乗っ取って需要を全て詰め込みました。勿論すでにメディアミックス等も考えてあります。既に外注のアニメ業者に委託の打診をしてありますので」
(その銃弾はシルクハットの男の股間を容赦無く撃ち抜いていた。「ひ、ひいい」悲鳴をあげて膝を突くシルクハットの男)
(ここは俺に任せろ。なあに、そう簡単に死ぬつもりは無いさ)
(お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、ごめん)
「何か意見のある方は?」
 トゥエンティ・ホワイト・センチュリー・ガールズ・ストライプのライブの音が遠くから聴こえる。
「またこんなの描かされるのか。また同じような企画だ。うんざりだな」
 企画書を読み、男は呟く。
「まあそう言うなよ」
「またこんなの描くのか俺は。うんざりだ」
「じゃあ何が描きたいんだい?」
「ああ、そうだな。ああ。そうだな。うん。そうだな、例えば」
「失われた時を求めて、か? 田園に死す、か? 百年の孤独、か?」
「ああ、どうだろうな」
(いやあ、やめてえ! 許してえ! 助けて助けて!)
(その銃弾はシルクハットの男の股間を容赦無く撃ち抜いていた。「ひ、ひいい」悲鳴をあげて膝を突くシルクハットの男)
(虹)
「マーケティングに乗っ取って需要を全て詰め込みました。勿論すでにメディアミックス等も考えてあります。既に外注のアニメ業者に委託の打診をしてありますので」
 股間を血糊で汚した男がシルクハット、タキシードの格好で舞台に立っていた。色とりどり、沢山のボールを投げては受け止め投げては受け止め投げては受け止めジャグリングをしている。観客からは万雷の拍手。笑い声。笑い声。笑い声。男は色とりどり、沢山の花束を投げては受け止め投げては受け止め投げては受け止め。観客からは万雷の拍手。
「何か他に意見のある方は?」
 ビニール・ボールを手で弄びながら、壇上のシルクハットの男は皆に向かって言う。
 砂漠。ゴッホとゴーギャンとアレキサンドロスとジャコメッティとリュシュアン・フローベルとティエンティ・ホワイト・ストライプス・ガールズの立ち尽くす砂漠。かたかたかたかた。映写機のまわる音。
「何か他に意見のある方は?」
 悪魔が夢を見ている。燃え上がるスクリーンに映し出されるラプラスの悪魔の見る夢(そこではすべてがゆるされ、すくわれている)。
 軌道エレベータのようにどこまでも伸びたサクラダファミリア。波が打ち寄せている。ざあ。ざざあ。かたかたかた。じゃらじゃらじゃらじゃら。
「またこんなの描かされるのか。また同じような企画だ。うんざりだな」
「まあそう言うなよ」
「またこんなの描くのか俺は。うんざりだ」
「じゃあ何が描きたいんだい?」
「ああ、そうだな。ああ。そうだな。うん。そうだな、例えば」
「失われた時を求めて、か? 田園に死す、か? 百年の孤独、か?」
「ああ、どうだろうな」
(いやあ、やめてえ! 許してえ! 助けて助けて!)
(その銃弾はシルクハットの男の股間を容赦無く撃ち抜いていた。「ひ、ひいい」悲鳴をあげて膝を突くシルクハットの男)
(ここは俺に任せろ。なあに、そう簡単に死ぬつもりは無いさ)
(お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、ごめん)
(もう絵は描かないのか?)
(さあな)
(もう詩は書かないのか)

「じゃあ何が描きたいんだい?」
「ああ、そうだな。ああ。そうだな。うん。そうだな、例えば」
 見た夢は燃え上がるひまわり。燃え上がるひまわりの夢。少年は燃え上がるひまわりを抱きしめる。燃え上がる少年。
 ラプラスの悪魔。
 ゴッホがその前に座り、絵筆を取る。
「やあ、今日は良い天気だね」
 爆撃機から降り注ぐ爆弾の爆炎のその中で、男に向かって女が言う。
「白いドレスはもう飽きちゃった」
「そうか」
「ねえ、白いドレス、あたし、飽きちゃったわ」
「ああ」
「ねえ、ブティックに行きましょう、あっちの方の通りに、ブティック街があったから」
 男と女は歩き出す。爆弾の降り注ぐ荒野。爆弾の降り注ぐ日本庭園。爆弾の降り注ぐ降り注ぐ降り注ぐビルの屋上。それらを通り抜け、男と女はアルルのブティック街へ辿り着く。
「ねえ、映画、見ましょうよ」
 女は気が変わったのか、看板を見上げて笑う。
「ねえ、映画、見ましょう」
「ああ」
 看板には様々な映画の宣伝ポスターが描かれていた。恋人が死ぬ話。恋人が殺される話。父が死ぬ話。母が死ぬ話。妹が死ぬ話。息子が死ぬ話。娘が死ぬ話。悪魔が死ぬ話。
 神に悪魔が殺される話。
「そうだな」
 ブティック映画館の看板を見上げて男は言う。
 爆撃機に乗った少女は虹を目指して飛ぶ。闇夜にかかる七色の光芒。そこを目指して少女たちは飛び続ける。
「痛いなあ! 脚どけてよ」
「そんなところに腕置かないで、操作出来ないじゃない!」
「ねえ、おトイレは?」
「ねえ、ご飯は? お弁当、作って来たよね?」
「あ、忘れてた」
「もうこんな白いドレス飽きちゃった!」
 少女たちは虹に向かって飛び続ける。
 爆撃機の中で響き続けるファット・ボーイ・スリムの軽快なコンピュータ・ミュージック。少女の一人は後部座先の後ろのドアを開き、パンツを脱いでスカートをたくし上げ、放尿をする。荒野に雨が降り注ぐ。The rine in Spine stais minely in the pline。スペイン荒野にただ雨は降り注ぐ。
 かたかたかたかた。映写機の回る音。少女たちの乗る爆撃機がスクリーンに映し出されている。スペイン荒野にただ雨は降り注ぐ。
 カメラの前に立つヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。ひまわりを抱えて。
 燃え上がるひまわり畑。
 カメラの前に立つヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。チャイナ服を身にまとって。
 燃え上がるひまわり畑。
 燃え上がるシルク・スクリーン。燃え上がる原色の、十二分割の、マリリン・モンロー。
 ゴーギャンが海岸線を歩いている。沢山の裸の女の子を引き連れて。持ちきれないほどのキャンバスや絵の具、絵筆を抱えて。アルルへ向かって歩いている。
 ゴーギャンがゴッホの右耳を拾う。
「これが六億ポリゴンで再現した、ゴッホの右耳です」
 六億ポリゴンで再現されたゴーギャン。アルルのあぜ道でゴッホの右耳を拾う。
「最新コンピュータで細部まで精巧に再現された、ゴッホの右耳です」
 巨大スクリーンに映し出されたポリゴンモデリングのゴッホの右耳。
 人々は立ち上がり歓声と拍手を送る。