第1回 耐久3000字バトル 第5回戦

エントリ 作品 作者 文字数
1多彩な色を得てえふぉーと2968
2その声を伝えたくてごんぱち3000
3キャプテン・キムラ 前編LORTO3000
4(本作品は掲載を終了しました)ウーティスさんB
5(本作品は掲載を終了しました)ウーティスさんA



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  エントリ1 多彩な色を得て   えふぉーと


 
 駅の改札から人の群れが吐き出される。サラリーマン、オフィスレディー、学生。皆一様にうつむき加減で口数が少ない。歩く速度が遅い。淡いセピアの夕日が彼らの目の下に陰鬱な影をつくりだしている。
 
 僕は彼らを眺めていた。でも別に見たくて見ていた訳じゃない。あまりにも疲れ切っていて動けなかったのだ。
 僕はひとつ溜息をつき、木のように硬くなった肩を揉みほぐしながら屈み込んだ。そして足下の鞄を取った。
「高校生のくせに」
 吐く息と共に呟いた。
「なんで僕はこんなに疲れているんだろう」

 僕はべつに勉強とか部活とか人間関係とか、そんなチープで下らないことを言ってるんじゃない。――その三点において僕はそれなりに努力をしてきた。授業はアグレッシブな態度で受けているし、大手予備校にも通っている。弓を引いている間さえ精神統一しながらも常に試行錯誤を繰り返している。自分の周りにいる人間を注意深く観察し、彼らといちばん上手に付き合う方法を考えている。そして常にそれを実行してきた。
 問題は僕の世界の捉え方、ただそれだけなのだ。僕はいつも物事を必要以上に慎重に難しく考えすぎていて、そのせいで僕は自分自身に苛立ち、世界を怖れ、深く疲弊してきた。ときにはだれかを傷つけた。――といっても、まあ、現代のナイーブな青年にはよくある話かもしれない。
  
        ☆

「簡単なことだ。必要なのはアイデンティファイなんだよ」
 心の中でそう呟いたときにはすでに目的地に着いていた。
 僕は軽く頭を振ってからメタルフレームのメガネを外し、それを胸ポケットにしまった。ここに入るところを知っている人に見られたくない。
 
 ここ――フラワーショップ北口。そう、お花屋さんだ。
 
 ガラス戸の横には水色の看板が置かれている。店の外装はいかにも90年代といった感じがする。安っぽい白色の壁は煤けて黒くなっていて、一つだけある大きな窓には細かい傷がたくさん重なっている。 
 窓を見て僕は眼を細めた。視力0.3の目を凝らして覗き込むと、小型のアンティークドールが死んだように瞳を閉じて安楽イスに腰掛けているのが見えた。白い陶器でできた古い人形だった。僕はしばらくその小さな顔を見つめ、そしてガラス戸を引いて店内に入った。
 
 ――都会の真ん中にある寂れた花屋さん。
 僕はそういうのがたまらなく好きなのだったりする。まるで、マジョリティに刃向かう健気なマイノリティを象徴しているみたいで。
 栄養ドリンクでもチョコレートでも流行りのポップソングでもなくて、ただそういった態度や姿勢といったものだけが、僕を励ましてくれる。あるいは、この終わらないルーチンワークみたいな高校生活を脱し、非日常な世界を味わってみたかった、というのもあるかも知れない。べつにどっちでもいい。理由が必ずしも必要でないときだってあるはずだ。

 花屋さんの中に踏み込むと花粉の匂いがした。濃密でもったりとした空気が僕の肺を満たしていく。
 店内の様子は一昔目のスーパーといった感じであまり広くなく、並べられている花の種類は余り多くない。蛍光灯の本数が少なくやや薄暗く、客は僕以外には一人もいない。僕は視線を振り回してざっと花の値段を見てみた。僕が買おうとしている一輪挿しの切り花は一律で400円もするようだった。
 それは僕にとってちょっと想定外の高値だったが、想定外の事態はそれ以外にもあった。店の奥の方のレジで、30才くらいであろう女性の店員さんが寝癖も気にしない様子で思いっきりカウンターに突っ伏して寝てた。
 
 その女性店員さんはまるで、授業中に微睡む学生のような姿勢で眠っていた。背中で結ばれたエプロンの紐が呼吸に合わせて静かに上下している。ガラス窓から微かに夕日が差し込み、ぼさぼさの髪から飛び出た枝毛がキラキラと光っている。これって大丈夫なのか、と僕は不安に思う。当然だ。店員さんが一人しかいなくて、その一人はぐっすり眠り込んでいる。やろうと思えば万引きし放題だ。
 僕は思わずやるせない溜息をつき、陳列してある花たちに目を逸らした。そしてそちらに意識を移した。取り扱っている花の種類はそこそこ多いようだった。ガーベラ、シクラメン、スイセン、……。バラもあった。僕は手を伸ばし、その赤い花片に触れてみる。
 僕は目を閉じながら、オスカー・ワイルドが書いた「ナイチンゲールとバラ」という短編小説のことを思い出す。ナイチンゲールという愛称をもつウグイスが、自らの生血を使って白い薔薇を赤く染める物語。その終焉は過剰なほど美しく残酷だ。その印象が強い。決して素直なストーリーとは言えないが、僕はあの話が好きで何度も読み返したものだった。
 僕はふっくらした白いシクラメンと長い間見比べていたが、結局、花立てから真紅のバラを一本、鋭い棘が指に刺さらないようにそっと引き抜いた。レジを通り抜けるとき、100円硬貨4枚を店員さんの弛緩した手のそばに置いた。そのときだった。
「……400円になります」
 推定30台の女性店員さんは肘をスライドさせて体を起こしながら、店から出ようとしていた僕に告げた。
 僕はすごくびっくりして店員さんを見つめた。
 店員さんは寝起きの充血した目で僕を見返した。ついさっき起きたのは間違いない、そんな腫れぼったい顔だった。波打った前髪が額に張り付き、目元には紫色の隈が刻まれ、薄茶色の唇は魚の鱗みたいに部分的に落屑している。じっと僕を見返す灰色の瞳は境界線が曖昧で、白目も何となく黄ばんでいて、レイトショーによく出てくる哀れなアンデッドたちにそっくりだった。まだ、さっき見たアンティークドールの方が生気がある。
「あの……、400円です」
「そこに置いてあります」
 僕はバラを持っていない方の手で、カウンターに置かれた銀色の硬貨を示した。店員さんはハッとしたように自分の手元を見て、髪で顔を覆い隠すように深くうなずいた。
「すみません。それで、そのバラ、包装することもできます。お包みしますか」
「それって料金は掛かるんですか」
「掛かりません」
「そうですか。ではお願いします」と僕は赤いバラを手渡した。
 店員さんは軽くうなずいて、レジの下から包装紙を取り出す。
 僕はやることがなかったので、俯いて花を包む店員さんの頭頂部をぼんやりと眺めていた。チョコレート色に染められた髪には疎らに白い部分が覗いている。染め損ねた数束の白髪。それは僕に漠然と死を予感させた。
 
 しばらくして僕はバラを手に持って店を出た。街は先ほどと何ら変わらない。潰れた煙草が捨ててある。放置自転車に結ばれた黄色いカードが風に揺れている。空に広がる夕日の色だけが、セピアオレンジからワインレッドに変わっていた。凝血の色。僕の手の中のバラの色。

 僕は胸ポケットからメガネを取り出た。再び明瞭さを取り戻した世界の真ん中で、手の中の赤いバラを見る。
 
 今はまだ水気を含んで潤っているが、このバラが枯れてしまったら、僕は穴を掘るつもりだ。深くて、暗くて、黒い穴を。そしてそこにバラを埋めてあげる。駅前の赤い夕日、微かな死の予感、目を閉じたアンティークドールを思い出しながら。
 
 その時きっと、僕の灰色の日常は多彩な色を得てアッシュシルバーに輝き出す。きっと。 







  エントリ2 その声を伝えたくて   ごんぱち


 部屋に駆け戻った伸子は、ベランダに干してあった洗濯物を取り込む。
「……一応、セーフ」
 冬間近の雨に、辺りはしんと冷え込む。
 伸子はタンスからセーターを出して着込む。
「大消失のせいで、辛い冬になりそうね……」
 手を揉んで温めながら、押し入れに入れている布団袋を開ける。中には、冬物の衣類が入っている。
 伸子は子供用のジャンパーを手に取った。
「うーん、今年はもう着られないかしら……」
 縫い目を見つめる。
「伸ばせるかな……」
 考え込む伸子の耳に、雨音が妙に飛び込んで来る。
「祥一……そうだ、祥一」
 ふと、伸子は顔を上げる。
「……あの子、傘持って行ってたかしら」

 ――二〇二〇年三月七日。
 対立する二国間のコンピュータへのクラッキング攻勢は、エスカレートし、ついに最終兵器が使用された。
 ネットワークを通じ、あらゆる例外なくコンピュータに感染する、超高速増殖型ウィルス。自国を守ろうという意図の大量情報破壊兵器。
 これにより、ほぼ全てのコンピュータのデータが消失した。電子化が進んでいた書籍、物語や絵、建物の設計図などの文化的な財産、戸籍などの個人情報、更には大半が電子化されていた貨幣、自動車の制御システム、兵器の火器管制システム、発電所の管理システムに至るまで。
 通信もない状況で、多くの人にとってこの事件は正体不明の災害でしかなかった。
 半年を経、混乱は幾分収まり小学校を始めとした公共の施設も機能しつつある。近隣の都市との交流が進む中で、人々はこの災いを「大消失」という共通の名で呼ぶようになっていた。

 廊下と同じ幅の狭い伸子の住むマンションの玄関には、伸子の靴が一足だけ。そして、傘立てには、夫の則武の黒い傘と茶色い傘と透明なビニール傘と、それから青い子供用の傘。
「もう、やっぱり持って行ってない……」
 伸子は玄関からリビングに戻る。
「届けに行こうかな……学校かしら、もう帰り道かしら」
 部屋の隅のコンセントに視線を向けていた。
 かつてはいつもそこに繋がっていた充電アダプタと、携帯電話。
「一言確認出来れば良いのに」
 雨の中立ち往生する祥一の姿、無理に帰ろうとして雨の中で転ぶ祥一の姿、増水した川に落ちる祥一の姿、見知らぬ大人に傘をさしかけられそのまま連れ去られる祥一の姿。
「携帯電話が……使えれば」
 伸子は思い切ったように玄関へ早足で向かい、そのまま傘を持って外へと飛び出して行った。

 雨の中を、伸子は小走りに進む。
 燃料用にアスファルトの剥がされた道は、雨が降ればすぐにぬかるむ。
 伸子の靴はたちまち泥だらけになり、水がじくじくと染みこんで来る。冷たい空気がコートの内側に入り込む。
 商店街を抜け、住宅地を通り過ぎ、今や使われなくなった高速道路をくぐったところで。
「あ、お母さん」
 友達らしき男の子の傘に、一緒に入っている祥一が、驚いたような、嬉しそうな顔で、伸子を見つめていた。
「ああ、祥一」
 伸子は祥一に駆け寄る。
「傘、入れて貰ったのね」
「うん、田代が入れてくれたよ」
「田代、くん? ありがと」
「いえ」
 男の子は、照れ笑いを浮かべて俯いた。

 前日の雨とは打って変わって、空は真っ青に澄み渡っていた。
「行って来まーす」
 祥一は元気良く挨拶して、玄関から出て行く。
「行ってらっしゃい」
 伸子は渡り廊下に出て祥一を見送る。
 踊り場を通り、階段を降り切って、祥一の姿が完全に見えなくなったのを確認してから、伸子は部屋に戻った。
 ダイニングの椅子に座り、祥一の小さくなったジャンパーの縫い目を解き、布を足し始める。
 右袖を半分ほど縫ったところで、窓の外を見る。
「……ちゃんと、小学校に着けたかしら」
 呟いて、首を横に振る。
「小学校に来てなかったら、普通連絡が入――」
 固定電話は埃をかぶっており、液晶ディスプレイは何も表示していない。
「そう、か……」
 縫い針を動かす。
「……学校に着いてなくても」
 縫い針の動きはゆっくりになっていく。
 伸子は力なく立ち上がり、ダイニングの隅に置かれた引き出しを開ける。中には、携帯電話が入っていた。
 電源ボタンを押す。
 だが、電源は入らない。
「繋がってよ……」
 指先が白くなるほど力を入れ、電源ボタンを押す。
「話させてよ」
 力が入りすぎ、指先が震える。
「祥一……」
 電源ボタンはめり込み、そのまま戻らなくなった。

「――それでね、田代たちとチヨコレイトってやって帰ったんだよ」
 晩ご飯の芋汁を食べながら、祥一が話す。
「そう……それは、何時頃?」
 伸子はにこやかに尋ねる。
「うーん、時間はよく分かんない。時計ないし」
「思い出してみて? 小学校から家まで、大体三十五分かかるの。どの辺からどの辺だった?」
「ええとね……」
 祥一は少しオーバーに首を傾げてから、思い出したように言う。
「そうだ、第八バス停のとこだよ」
「そう。だとすると、十五時二十分頃ね」
 伸子は大きく頷く。
「その後は?」
「あとは、家に帰ったよ?」
「それはおかしいわ。祥一、あなたが家に着いたのは、十五時四十分なの。普通に歩いたら、もっと遅いでしょ?」
「うんとね、おなかすいてたから、ダッシュで帰ったんだよ」
「ああ……そう。なるほどそれなら分かるわ」
 ホッとした顔で、伸子は席を立つ。
「おかわりは? いっぱい食べなさい」
「はーい」

 授業が終わり、祥一が校門から出て来る。
「お帰り、祥一」
「あれ? お母さん」
 祥一は伸子に駆け寄る。
「おむかえに来てくれたの?」
「ええ」
 伸子は微笑んで、手を差し延べる。
「一緒に帰りましょう」
「うん」
 祥一は伸子の手をきゅっと握って歩き始める。
「祥一」
「なあに?」
「小学校で、あった事教えて」
「うん。ええとね、図工でね、絵をかいたんだよ。未来の自分」
「それは何時の事?」
「三時間目と四時間目だよ」
「そんなにずっと描いてた訳じゃないでしょう? 別の事をしてたり、トイレに行ったりしなかった?」
「トイレは行かなかったけど、水は飲んだよ」
「それは何時頃の事? どこで飲んだの?」
 その時、膝ががくりと折れ、伸子は転びそうになる。
「あっ、お母さん!」
 ギリギリのところで、伸子は踏み止まる。膝が震えていた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「ちょっと、歩き疲れただけよ。それより、水はどこで飲んだの?」

 夜中、伸子は目を覚ました。
 隣で眠る祥一と、その向こうで眠る一週間ぶりに仕事から帰って来た夫の則武。
 伸子は、祥一の顔をじっと見つめる。
 目を閉じ、寝息を立てている祥一を、伸子は見つめ続ける。
 そして、伸子は祥一を揺さぶった。
「……んぁ?」
 ほとんど眠ったような声で、祥一が返事をする。
「ねえ、どんな、夢、見てるの?」
「みてないよ……」
「嘘」
「本当……だよぉ」
 祥一はまた眠ってしまった。
 伸子は立ち上がると、ダイニングの引き出しから携帯電話を取り出す。電源ボタンは抉れ、穴が開いていた。
 伸子は携帯電話を耳に宛がう。
 それから、電源ボタンのあった位置を押して、再び耳に宛がう。
 また電源ボタンを押す。
 露出した基盤の角に指先の皮膚が裂かれ、血が滲み始める。既に伸子の親指は同じような傷だらけになっている。
 電源ボタンを押す。
 指先の傷が一層大きくなり、血が流れ落ち始める。
 電源ボタンを押す。
 それに気付く風もなく、祥一と則武は寝息を立て続けた。
 電源ボタンを押す。
 電源ボタンを押す。







  エントリ3 キャプテン・キムラ 前編   LORTO


 無限に広がる大宇宙を、宇宙船『白鶴丸』が進む。
 キャプテンの木村守夫は、シップステレオのヴォリュームを上げる。
『宇宙波間に見える、宇宙津浪、命懸けるが、俺の意地、男一匹仁王立ち〜』
「だぁちぃ〜」
「……守夫」
 モニタの隅にいた、リリがぼそりと声をかける。白鶴丸のシステムのインターフェイス用人格だった。
 二〇代後半の女性の姿で、力強い視線を持つ美人で、木村の隣のシートに座っている女性型ボディと容姿が似通っている。
「そろそろその音楽止めて下さい」
「海賊にもハーフタイムショーは必要だ」
 木村は、ヴォリュームを上げようする。
「たまには銃声とピロートーク以外の音を聞きたいのさ」
「どっちも聞いた事ないでしょ」
 ステレオの操作権限は完全にリリが持っているので、ヴォリュームは全く上がらない。
「大体、海賊って言ったって、ドックに停泊中の船からパーツを盗むだけなんだから」
「でもほら、オレは海賊ギルドの所属船だけを狙ってるんだぜ。言うなれば義賊だな」
 リリは、モニタに荷台の様子を表示させる。戦闘用宇宙船の分厚い装甲版が積まれていた。
「……自転車のサドル盗むのと本質は変わんないですよね」

 小惑星に建造された宇宙ショッピングモール『TL2』のドックに、白鶴丸は停泊していた。
「ありがとうございましたー」
 店員が笑顔で頭を下げる。ドライブスルー用エアロックから、マクドナルドのロゴが入った紙袋が出て来る。
 木村は紙袋を開く。
「宇宙フィレオフィッシュは、これ、だな」
「宇宙ストロベリーシェーキ、早く下さい」
 人格をボディに移したリリが、横から袋に手を突っ込んで、シェーキのカップを取りストローで飲み、アップルパイをかじる。人工皮膚に覆われたボディの動きは滑らかで、一部の金属パーツがある事を除けば人間と見分けが付かない。
「故買屋、見つかったか?」
「それなんですけどね」
「ん?」
「ちょっとあの装甲版、ナノマシンが大量に付着してたんです」
「ナノマシン、なの?」
「駆除はしましたが、守夫の顔ぐらいは見られたかも知れませんね」
「っって、ええええ!? 顔バレちゃったの!? ヤバいじゃん! 逮捕されちゃうじゃん!」
「ギルドが警察に通報なんかしますか……大体、保証人詐欺からの借金苦で一般人から海賊に転身した守夫は、プライベート情報がだだ洩れです。顔バレ自体は気にしても仕方ないですよ。ナノマシンは駆除したから、足取りを気取られる心配も、まあ、少ないと思います」
「そっか、良かった……なあ、リリ」
「なんです?」
「さっきのダジャレに対するリアクションがないようなんだが、どうナノ?」
「受け流しという高度なツッコミですよ」
 その時。
「きゃあああっ、遅刻遅刻!」
 船外無線で叫びながら、一隻の宇宙船が突っ込んで来た。
「緊急回避、アイ・ハブ・コントロール!」
 システム移動をする手間を省き、リリがサブパイロット用のコントロールパネルを操作する。
 だが、最大船速で突っ込んで来る宇宙船を避け切る事は出来なかった。
 激しい衝撃と共に、白鶴丸は弾かれ、回転しながら宇宙街道を外れて飛んで行く。
「パルスブレーキを使用します!」
 白鶴丸の外装が開き、仕込まれた爆薬が制御されつつ爆発する。その反動で、一気に回転がストップした。
「……ふぅ。機体ダメージは、衝突時のもののみ。危ないところだったわ」
「それは……良かったな」
 ケチャップとマスタードだらけになっている木村が、シートの隙間から身体を起こす。
「ごめんなさい!」
 モニターに映像が割り込んで来る。
「ん……?」
 映ったのは、操縦桿を握る、セーラー服姿の少女だった。口には宇宙パンのトーストをくわえている。
「あ……可愛い」
「あら、あらあらあらあああ!?」
 画面の向こうで少女はトーストを食べながら、木村を見つめる。
「なんて凛々しい方!」
「え? まあ良く言われたけどね、親に」
 木村は照れつつも笑う。
「どうしたんだハい? そんなに急いで?」
「はい、友達との約束の時間に遅れそうなんですぅ。宇宙船も壊れちゃって、あたし、どうしたら良いのか」
「はっはっは、だったら乗って行きなさい。この白鶴丸、船籍は安酒みたいだが、性能は普通だ!」

 白鶴丸のエアロックに空気が充填された。
 ヘルメットの下から短い黒髪が、宇宙服の下からセーラー服が出て来る。
「ありがとうございます、格好良くて優しい船長さん!」
 モニタ越しに少女は頭を下げる。
「なあに、良いって――」
「動かないで」
 リリの声が、船内に鋭く響く。
 船内警備用の自動レーザーガンが、少女のスカートを焼き切る。
「な! 止め、いいぞ、いや、止めろリリ!」
 露わになった少女の太腿には、ガンベルトが巻かれていた。
「え、ええっ?」
「……こ、これは、パパが、護身用に」
 リリは、少女のガンベルトの銃を拡大表示する。
「コルト社SA2259w。ウォーターブリットタイプ・コイルガン。水を電磁加速して超高速、高圧で射出する銃よ。軟目標に対しては強烈な威力を発揮するけれど、硬目標には非力」
 少女の顔が引きつる。
「船を傷つけずに乗組員だけを殺傷する、ギルドの海賊御用達の銃よ」
「そこまで……見抜かれているなら、仕方ないです」
 少女は深々と頭を下げる。
「いかにも、あたしは海賊ギルド支部竜神会に所属する、誇り高き海賊、潮路紀美です。あなたをスカウトに来ました、木村守夫さん」
 次の瞬間、白鶴丸が激しく揺れた。
「どうしたリリ!?」
「熱源感知、緊急回避中です!」
 回線割り込みで、船内にガラガラ声が響き渡る。
『その船! 大人しく停船せい! そうすれば、苦しまずに殺してやる!』

「敵影確認、ギルドのエンブレム付きの戦闘艇です」
 リリが、レーザーガンを紀美に向ける。
「い、いや、竜神会じゃありません。この下品な訛りは、モルティ・ストマーチ支部のヤツです」
 衝撃で尻餅をついたままの姿勢で、紀美が弁明する。
「ええと……大海賊の木村さんをスカウトしようと企んでいるんでしょう! 奴も!」
「機関部外壁破られたわ! 守夫、あんたも白兵戦準備して!」
 リリがボディに移り、メンテナンス用の巨大なスパナを持つ。
「えっ、ええっ!? オレは、その、技巧派の海賊で……ここは素直に投降して、命乞いをするっていうのはどうだろう」
「さっき言ってたでしょう、殺す気しかないわよ、ヤツらは!」
 迎撃システムのレーザーガンが破壊される衝撃が伝わって来る。
「ええいっ、偏光フィールド使ってる! 迎撃システムが効かない!」
「木村さん、システムさん!」
 紀美が怒鳴る。
「あたしに任せて」
「え……でも……なぁ、リリ?」
「分かったわ。解放する」
「って、ええっ!?」
 エアロックの船内側の扉が開く。
「感謝します」
 紀美は、エアロックから飛び出し、機関部へ続く通路へ向かった。

 通路の先で、戦闘の銃声が聞こえ始める。
 紀美は全くスピードを落とす事なく、そこへ飛び込んだ。
 戦闘用宇宙服を着た人間が、迎撃システムを銃で破壊している最中だった。
「立ち去れ! あたしの獲物よ!」
 紀美は発砲する。
 だが、戦闘用宇宙服の装甲は、水弾を受け止め、衝撃を逃がす。
「がははは! 竜神の! そんなもので、このサルディナ様を倒せると思うか!」
 警告して来たのと同じ、男の声だった。
 戦闘用宇宙服の肩部キャノンが紀美をロックする。
「死にさらせ!」







  エントリ4         ウーティスさんB


(本作品は掲載を終了しました)




  エントリ5         ウーティスさんA


(本作品は掲載を終了しました)





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