第3回 耐久3000字バトル 第3回戦

エントリ 作品 作者 文字数
1俳句日記石川順一3000
2怪人雨男ごんぱち3000



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バトル結果ここからご覧ください。



エントリ1 俳句日記   石川順一


左耳何度も痛み青嵐(2012年6月19日(水))
その前は左の首の辺りかな(同)
左の首の上の辺りよ(同)
さらに前には頭だったのかも知れない(同)

 私は上記3句で「俳句大賞」の大賞を受賞した。審査員長は高浜大先生を師系とする俳誌「ザ俳句」の主宰水山秋子の弟子の西東四鬼(この人は「さいとうしきさん」と呼ばれると「よんきです」と何時も訂正して居たものだ)がカルチャー講座「俳句教室」で教えて居た時の代理先生種原宝刀佳先生がやって下さった。先生の講評では
「この俳句4句、と言っても3句目4句目は連歌の様に575では無くて575を受けての「下77」になって居ります。しかも最後の4句目は破調気味の字余り気味の「下77」ですが、極めてリアルにその日の状況が伝えられていると思います」
 との講評で大賞を受賞した。
 時は梅雨入り前後の曇日や雨の日の多い頃で私は我を忘れて有頂天になった。新緑の匂いが若干うるさいが、かぐわしくも感じられ多少はうきうきした気分が加速した様な気になった。
 お祝いに2012年6月23日(土)の夕食は具だくさんのジャガイモや茄子てんこ盛りの豪勢なカレーを食べた。その日は東海テレビで昼の13時から17時までミステリー劇場の再放送が珍しく2本立てで放映されて居り、それを見ながら受験勉強は少しサボった。(控えめに言えばだが、実は頭にそんな詰め込められなかった。そんな日もあるさ)
 私は6月22日(金)にかつらぎ俳句広場に「しいつ」の俳号で3句投稿して居る。本来は毎月15日が締め切りなのだが7日ほど遅れて仕舞った。

2012年6月29日。夜、私は北斗の拳第22話を見た。以前は第21話ばかりを見て、第22話を見なかったのだが。シンとケンシロウの対決。最後を見るのは野暮だと思い何時もバルコム将軍が倒されジョーカーが倒されシンとケンシロウが遂に次回対決と言う所でやめていたのだ。

 シンとケン対決夏の夜は胸痛
 あけやすの眠らぬつもりが眠りけり
 網戸から人だけでは無き侵入者
 扇風機買いて家へと直行す
 性海寺しょうかいじと読むのだらふ
 丘陵の昇降蝉が声も無くよぎる
 揚羽二羽パーキングから上昇す
 
 北斗の拳の動画が仮眠見たいに寝て目覚めてからの深夜2時半ごろでしばらく本などを読んでからであろうか。なので実質的に既に6月30日(土)であった。仮眠見たいに眠る前にはケネディー大統領の暗殺犯とみなされている人物の名前をどうしても思い出せず気持ち悪く思い、調べたのだった。その人物を暗殺した人物ならジャックルビーと直ぐ名前が出て来るのだが。暗殺容疑者を暗殺した人物ならジャックルビー。暗殺容疑者の方は?と思いだせず気持ち悪かった。調べるとリー=ハーヴェイ=オズワルドだった。なのでYou Tubeで李小狼と李苺鈴の動画を見まくって居たのだが。私の情熱は空回りの様な気がしてやはり俳句に専念すべきだと思った。だから仮眠を終えて深夜パソコンに向かう前に「オズの魔法使い」を久しぶりに読んで居たのだが「かかし」などが出て居て、4ページほど以前しおりを挟んだ所から読んだだけだが、「かかし」は「オズ」ではメインキャラらしくて何処を読んでも出て来そうだった。
 2012年6月30日(土)。朝食は卵御飯。早く食べないと腐ると言われたが、再びの仮眠の後食べてもそう腐っているわけでもなさそうだった。麦茶が少しだけ変なにおいがしただけで。昼食はコロッケ。昨日は鮭のお茶漬けを食べてから性海寺へ行って来たのだった。実に忘れ易い。先週はクリエイティヴオムリス店で俳句デジカメ大賞の授賞式があった。冒頭部分で紹介した「俳句大賞」とはまた別の俳句賞だ。
 今日の夜はカレー冷蔵庫の魔道(2012年6月30日(土))
 蝉の初蝉の初とぞ喜べる(同)
 一人何句でも投稿出来て互選でお互いに何句でも落とし合う事が出来たので、2句しか投稿出来なかった私は不利だったのかもしれない。なお6月23日(土)に授賞式があったのに6月30日(土)の俳句を詠んで居る。そうなのだ。私は本授賞式の6月23日(土)には間に合わず、7月1日(日)にあったおまけ大賞の為に投稿したのだ。6月23日(土)のには間に合わなかった。本賞では無くおまけ賞を狙った。見事に本賞の大賞は当然の如く取れなかったおまけ大賞は取れた。
 「講評します。「きょうのよはかれーれいぞうこのまどう」とは何と斬新な俳句でしょう。575の75の部分が句跨りになって居りまして「このまどう」の下5。私は恥ずかしながら「子の惑う」と言う別の意味が残響しているかのような感じを受けました。勿論「冷蔵庫の魔道」ですが、句跨りなので「子の惑う」と読めて仕舞う。解釈されて仕舞う。そう言った誤解を恐れずに詠んでいる。「冷蔵庫の魔道」とは何でしょうか。まさに子供が抱く感情を素直に詠んでいるのではないでしょうか。子供のころ感じた感情を今でも抱いて居ると。だから「冷蔵庫の魔道」であると同時に「子の惑う」なのです。「われ惑う」では無く「子の惑う」。子供時代の自分を客観視して居る。過去の自分にさようならであると同時に何か作者の詠みぶりは言外にまだ未練を感じさせるような印象を抱かせているようにも感じました。」
 との講評を得た。

 私はこれで自己満足して仕舞うと成長が止まってしまうと思った。自己満足せずさらなる俳句的躍進を願い、なおかつ独りよがりや自分勝手な物語を排除するためにむしろ既に起こって仕舞って変えようのない自分の過去を総決算する事によって俳句の上達を達成しようとした。

 母の手に葱と包丁あるを見ゆ(2011年12月15日(木))
 葱の根を切り母は包丁持ちて来る(同)
 吐く息が口より鼻が多くなる(同)
 葱を持つ母の手包丁先が欠け(同)
 精神が病んで居るのか多く食べ(同)
 コスモスの後に寒の菊が生え(同)
 
 忘れて居た過去は修行するのに好都合の様な気がした。変えようのない過去が厳然としてあるがこれは屹立して居て動かしようのない孤峰である。

 「葱」。冬の季語。関東では根を深く作るので「根深」とも言い、太くて白い部分が多い。関西の葱は細くて全体に青い。
 「寒菊」。冬の季語。他に「冬菊」。「菊」は秋の季語。普通の菊が盛りを過ぎた頃につぼみを付け始め、雪の中でも冬中咲き続ける。

 私は冬の12月を回想したが今は梅雨曇が続く梅雨の真最中。季節外れの回想で修業になるのだろうかと若干疑問だったが回想も修行のうちだと思うようにした。
これを書いて居る2012年6月30日(土)21時24分に左足のアキレスけんの辺りにピクッと何か小さな力が加わった。少し気持ち悪い。
 扇風機若干下を向きにけり
 歯ブラシを新調トマトを残しけり(今日では無いですが)
 梅雨曇朝食卵御飯かな

 私はクリエイティヴオムリスショップでのデジカメ俳句大賞で貰ったデジカメを胸にこれからも俳句修業を怠らずに頑張って行きたい。最後にいくつか俳句を引用して終わらせて下さい。

 くらがりに女美し親鸞忌(大峯あきら)
 吾子が嫁く宇陀は月夜の蛙かな(同)
 曝書して太平洋を明日越えん(同)
 鎌倉を驚かしたる余寒あり(高浜虚子)
 春潮といへば必ず門司を思ふ(同)
 白酒の紐の如くにつがれけり(同)

 本当に最後になりますが、クリエイティヴオムリスで賞を受けた誇りを忘れず精進したいです。
歯ブラシは夏の夜だけ旅をする(石川順一)
 
 本当に感謝したいです。

 
 
 


 
 
 




 
 







  エントリ2 怪人雨男   ごんぱち


 目を醒ますと、最初に耳に入って来るのは雨音だ。
 ベッドから身体を起こし、カーテンをめくり窓の外を見る。
 マンションの八階から見渡す街は、雨に煙っていた。けれど、少し遠くの方は、陽が射し晴れ間が見えている。
 あの晴れ間がこっちに来れば良いのに。
 そんな事を考えながら、私は脱いだパジャマを洗濯カゴに放る。
 カゴの中にはワイシャツや靴下が山盛りになっている。
 少し考えてから、カゴを持ちバスルームに行き、脱衣室の洗濯機に、中身を放り込む。
 スタートボタンひとつのお任せコース。
 液体洗剤と、かび臭さを抑えるための柔軟剤をキャップ一杯。
 水が出始め、洗濯機のドラムが小手調べのように少しづつ回り始める。
 すっかり空っぽになった洗濯カゴを置き、シャワーを浴び、寝汗を流す。
 身体を拭いたバスタオルを、まだすすぎになっていない洗濯機に突っ込む。
 下着だけ身に着け、髪を乾かし、シェーバーでヒゲを剃り、口を濯ぐ。
 さて、これから。
 壁掛け時計に目を向ける。
 午後三時。
 休みを半日棒に振った訳だ。今日が日曜だからって、日付が変わるまで仕事なんかしてたからか。
 冷蔵庫を開ける。
 めんつゆとマヨネーズと豆板醤、後は玉子がパックに半分。
 料理漫画ならこれで気の利いた一品でもこしらえて、対戦相手をぎゃふんと言わせるのだろうが、生憎と独身三〇男の平均程度の料理技能しか持ち合わせていない。
 何より、米もしかけていない。
 こんな時は、街に出よう。
 ジーンズと、ポロシャツ一枚着て、後は黒い傘を一本。

 洗濯物をベランダの雨の当たらない部分に干した後、私は外に出た。
 マンションのロビーから出て傘を開く。
 雨滴が弾け、水溜まりが荒れ狂っている。
 これはまた派手な降りだ。
 雨は慣れっこだが、ここまで降るのも珍しい。
 住宅地の中を歩く。
 家々の屋根も壁もしっとりと濡れ、庭木の緑が鮮やかだ。蛙の声がどこからともなく聞こえる。
 これはまあ、いつもの光景なのだが。
 いつもの光景。
 そう。
 私が行くところ、雨が降る。
 いわゆるひとつの雨男。
 かつてそう言われて気を悪くしたタレントがいたというが、私の場合そういうオカルトや迷信や誹謗中傷の類ではない。
 私は、悪の秘密結社『暗部レラ』によって改造を受けた『悪天候怪人雨男』なのだ。
 私の体内に組み込まれた重力歪曲システムによって、私の直上三〇〇〇メートル、半径一〇〇〇メートル圏内の空気が膨張させられる事で気温が強制的に下がり、水蒸気は水滴となって雨を形成し降下する。
 つまり、私の上空にある程度の雲や水蒸気があれば、大抵雨が降るということだ。
 この能力をどう役立てるつもりだったのか、暗部レラが解散させられた今となっては分からない。
 そもそも、フロント企業に就職した後に配置転換で怪人になった立場の為、彼らの理念その物をあまり把握していない。
 新聞を細かく見ている人は覚えているだろうが、世界征服を目論んでいた暗部レラは、戦闘員の内部告発によって様々な違法行為が明るみに出、幹部連中が軒並み逮捕されて解散になった。
 本格的な活動の前だったせいで、構成員の多くは不起訴となったが、公安にマークされており次に何かあれば即座に処断されるだろうというのが、同時期に改造された日力怪人合羽男氏の見立てだ。
 丸のまま信じた訳ではないが、私たち暗部レラの関係者は互いに距離を取り、名前も住居も替え、連絡の取り方も分からなくして今に至る。
 そんな訳で、私に残ったのはリアル雨男という属性だけ。いつの日か、動力が切れてシステムが停止するまではずっと。

 住宅地を抜け国道沿いを歩く。
 長距離輸送のトラックが、水溜まりを踏み、激しく水飛沫を散らして走り過ぎる。
 道行く人々は、屋根を求めて足早に進む。
 傘を忘れたジャージ姿の学生の一団が、はしゃぎながら走り去る。
 見飽きた雨の風景だ。
 国道沿いの建物は、住宅から少しづつ商業的なものに変わっていく。
 電気屋、煙草屋、惣菜屋、家具屋、それから。
 雨にかき消される事もなく、コーヒーの香りが鼻をくすぐる。
 『喫茶琥珀舘』の看板が掲げられ、メニューの黒板には「雨の日サービスございます」と書かれていた。

「いらっしゃいませ」
 ドアベルが鳴るかならないかのタイミングで、女の店員が声をかける。
 中年のマスター一人、店員一人、カウンターに六席、テーブルが三つの小さな店だ。
 学生街に程近いこの店は、昼の営業時は大抵大学生のバイトを雇っている。入れかわりは多かったが、この店員になってからは半年ぐらいは経つだろうか。
 私はカウンター席に腰を下ろす。
「こんな雨の日にありがとうございます」
 店員は本来のメニューと、A4用紙に印刷された雨の日メニューを差し出す。この挨拶も何度目になるだろう。
「ありがとう」
 雨の日メニュー――実際には「雨の日&月曜日メニュー」は、カレーセットにサンドイッチ付きで六五〇円。ここのカレーは目新しさはないが学生相手だけに盛りが良い。学食よりは贅沢で、ぐっと腹を膨らせたい学生のごちそうってところだろうか。
 その他の雨の日メニューは――。
「延長モーニングセット」
「はい、ありがとうございます」
 店員は厨房へ向かう。
「マスター、延長モーニング、ワンです」
「はいよ」
 厨房の向こうから、マスターの返事が聞こえた。
 店内を見渡す。
 他の客はいない。
 マスターの趣味で、音楽の類は何一つかかっていないせいで、雨音がやけに大きく聞こえる。私にとって雨音は無音と同一だ。
 窓から通りが見える。雨の中を傘をさした人々が歩く。歩く。歩く。
 一体、傘をさしていない人を見たのはいつのことだったろう。
 空に本当に水がない時は、私の力をもってしても雨は降らない。でも、それはいつだったろう。雪の季節が終わった後は、常に雨だったような気がする。
「お待たせしました」
 店員がコーヒーとトーストとゆで卵をカウンターに置く。
 コーヒーの香りをすぅっと吸い込んで一口。
 二口目を飲んでいる時、ドアが開き客が入って来た。
「いらっしゃいませ」
 店員が応対する。
 やかましい程でもなく、堅苦しすぎない程度にてきぱきした店員の動きは、丁度、店内に満ちたコーヒーの香りのように誰をも邪魔しない。
 トーストとゆで卵を食べる。
 客と店員が言葉を交わしている。
 大学生ぐらいの男、うれしそうに。
 店員の表情も柔らかい。
 ああ、そうなんだ。
 コーヒーの最後の一口を飲み干して、席を立つ。

 ドアベルと一緒に聞こえる「ありがとうございました」は、晴れ間みたいに弾んでいる。
 夕暮れ、店員と彼との帰り道は、きっと雲も切れるだろう。
 私が雨を降らせた後は、雲はすっかり消えるから。
 さあ帰ろう。
 明日も早い。
 雨の停留所でバスを待ち、湿った社屋で誰でも出来る仕事をしよう。
 雨男である私に、晴れの日はもう来ないのかも知れないけれど。
 濡れるズボンの裾も、どんより雲に覆われた空も、湿気た床を裸足で歩く感触、どれも慣れた。
 天気の好き嫌いを語れるのは、様々な天気を味わえるからこそだ。
 雨が悪い天気なんて、一面的な見方に過ぎないのだ。
 トラックが水溜まりを通り過ぎ、派手に泥水の飛沫を散らす。服は泥だらけになったが、洗えばそれで良い。多分、私のいない物干し台では、洗濯物はよく乾いてくれているだろう。









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