500字挿し話バトル
  挿し絵を彩る挿し話 500字のメッセージ。

第7回 500字挿し話バトル

  • 小説・詩・随筆など形式は自由です。
  • 投稿締め切り: 2011年 6月30日(締め切りました)
  • 投票の受付:  2011年 7月 7日
  • 投票締め切り: 2011年 7月31日(締め切りました)
  • 結果発表ページ

課題絵(クリックで拡大します) 課題絵
(Illustration: Zippoh)

沓 泉
零れ落ちる砂金の音楽

 路肩で蹲る老人に寒いからとコートを羽織らせた。水を水……と呻くので、飲みかけだったがちょうど持ち歩いていたヴォルヴィックを灰色の唇の隙間に流し込んでやると、噎せかえって大半を溢した。
 零れ落ちる砂金の音楽を聞いたことがありましょうか。
 異国訛りだろうか。寒さで舌が回らないのだろうか。老人の日本語は少し抑揚が暴れていた。
 
 その音楽は目に見えました。音符とリズム、余韻さえ、尖ったり螺旋となったり、幾つもの形を成して砂漠に落ちるのです……。
 私は音楽家でした。ただ楽器は弾きません。指揮棒も、楽譜も要りません。私が使っていたのは、父から授かったシルクハットと真鍮の時計……。聞き手のなかには私を魔術師と揶揄する人間もおりましたが、奏でた音楽が彼らの耳に馴染まなかったからでしょう。目で愉しむ手品のように思えたのかもしれません。
 砂金は分解した時計の盤面から零れ落ちてくるのです……やがて、私の故郷は砂金で満ちてしまった……。

 砂のうえを歩くと音がするでしょう。かつての私の音楽です。
 そして、この星から見える黄金の天体……貴方方が月と呼ぶ……あれが私の故郷……。
 この星は昔の故郷に似ておりますね。



植木
私の祖父のこと

 祖父は昭和の初め、浅草六区で奇術師として舞台に立っておりました。我が家のアルバムにはタキシードにシルクハットを被りポーズを決めている写真が何葉か残されております。祖母の話によると、垢抜けたスタイルで「種も仕掛けもございません」と云う口上は当時の流行語にもなったそうです。
 ある秋の日、舞台を終えた祖父は「煙草を買ってくる」と云い残し楽屋を出たまま姿を消してしまいました。祖母も周囲も驚きましたが芸人のすることだからと2、3日は様子を見ておりましたが、一週間も経つ頃にはさすがに警察に相談しようと云う話になり、本格的な捜索が行われる事となりました。
 失踪当日、レヴュウの踊り子と一緒にいたとの目撃情報があり、その踊り子も行方をくらませている事が判明いたしました。時を同じくし、東尋坊より女性の水死体が上がり、検死の結果それが件の踊り子と判明したのであります。宿帳より祖父とかの地まで流れ着き事に及んだようです。現場には、女の履物の横にシルクハットと重し代わりの懐中時計が置いてあったとそうですが、付近の捜索にもかかわらず祖父の遺体は上がらず、文字通りこの世から忽然と煙のように消失してしまったのです。


「手品師大全」/岡田徳一著/天洋書房
「明治・大正・昭和の浅草」/小島竜彦著/岩屋出版社
「<種も仕掛けもございません>奇術師植木天堂伝」/高橋睦美著/蛍雪舎

石川順一
何を書こうか

 私は何を書こうか迷う事がある。
 思い出を書こうと心に決める。
 岐阜城公園、岐阜城、金華山などをウィキピディアで調べて壮大な叙事詩を書こうと腹を決める。
 金華山は宮城県にもあるのかと少し戸惑う。
 昔旅行業検定を受けて滑った時に勉強した事がある様な気がすると微かな記憶を呼び戻した。
 私にとって上記3箇所はマジック地みたいなものだ。
 思い入れは格別だが思い入れが格別ゆえにむしろ書けぬだろうとは言って欲しく無い。
 時には帽子からハトを出したり何か得体の知れぬ物を出すみたいにファンタスティックな事が出来たらさぞ良かろうと思う時がある。
 しかし現実は中々思うようにいかない事の方が多い。
 どうすれば上記3箇所を捌いて叙事詩を物に出来るだろうか。
 急がば回れで都合のいい良薬は無いのかもしれない。
 これからは安易な気風に流されること無く誠心誠意頑張って行こうと思う。今までだってそうだったのだがこれからは益々、その意気で頑張って行こうと思う。
 なのでよろしくお願いします。



千早丸
地球の心臓

 お祖父ちゃんに、ソレを手渡され日。
 懐中時計の形をした、ビックリするくらい歯車が綺麗な、優しい音を刻みながら世界を回す、地球の心臓。
「これを、やろう」
 お祖父ちゃんは大魔術師で、世界を渡り歩いた。その映像を箱に映して見せてくれ、小さな引き出しには王様や神様たちから送られたプレゼントが詰まっていて、特別に大事にしていたのがエジプトのホルスから託された「世界の心臓」だ。
 歯車もクランクもゼンマイも繊細で、手入れをサボると止まってしまう。時計が止まると世界が滅ぶから、毎朝に調整を繰り返す、気難しい芸術品。
 それをくれるって、どうして?
「また、旅に出る」
 大魔術師だからな、と、今度は長くなりそうだから、だから心臓を預ける。毎日手入れして、世界を壊さぬように、と笑った。
 ソレを手渡された日の、翌日。お祖父ちゃんは宣言通りに出て行って、まだ帰ってきていない。でも箱は相変わらず世界中の景色を映すから、きっと忙しいのかな。

 こんな御伽噺を、弟はいまだに信じている。
 スイスの時計グランプリで優秀賞を貰い、名前は有名でも当人は引きこもり。
 しかし弟は気にしない。
 何故なら、手の中にもう、世界があるから。


fuki:2011年7月24日、アナログ放送は見られなくなります。
地デジ化の準備をお忘れなく!(爆)