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 感想はエントリー番号が偶数の作品のみです。ご了承ください。

Entry 2●
瀕死のカラス  田中接さん

 Bは主人公を困らせるのが趣味らしい。きっと彼女は、主人公のかつての体験を知った上で目玉の話をしているんでしょう。二人がどういう間柄か分かりませんが、いぢめ加減が妙に関係の深さを匂わせます。
 でも私はカラスの物語を期待していたのですが……題名もカラスだし。
 ところでイニシャルBってどんな名前の女でしょう。ブリジットとか?

Entry 4●
夏休みの憂鬱  ニコさん

 私などは夏休みの終わりと言えば宿題の記憶しかなく、実はあまり感傷的な思い出は無いのですが、宿題なんかよりこういう記憶を残した方がよほど良いですね。
 書き方としては題名も含めて素直なストレート球で、あまり素直なので作品自体が夏休みの作文のようです。ではいかにも掌編小説らしいひねくれた構成なら良いのかと言われると困ってしまいますけれど。

Entry 6●
遅れ咲き  aoyeさん

 七歳にして醒め切った主人公は、普段から疎外されがちな毎日だったのでしょうか。
 ボールを持って駆けたとき、彼は一瞬、力を得ます。でもそれはアイテムの力でした。そもそも友達を集めたのも、誕生日の子供という特別な設定の力でした。生身となった少年が、同じく仲間から外れた桜の木と初めて無垢に向かい合えたとき、彼が救われたのかそうでないのかは分かりません。が、形だけの友達関係に囚われたままひねているよりはずっとマシなんでしょう。ちょっと苦さを残す作品です。

Entry 8●
海に願いを  有香さん

 海って向かい合う者の投影なのでしょうか。冒頭部の語り手は、海だろうか彼女だろうかなどと考えていた時に、ふとそんな気がしました。
 彼女を見守る海の視点は、ほんとうは彼女自身の意志なんでしょう。こうありたいと思う本当の自分は何なのか、気持ちが揺らいでいるときに、人間は海の側から自分を見つめなおすのかもしれません。別に山でも空でもいいけどね。彼氏はどんな言葉を海から聞くのでしょうか。

Entry 10●
幸せを作る壷  ドングリさん

 申し訳ないのですが、あまりよく分かりませんでした。外国では、抜けた乳歯と金貨を妖精がとり換えてくれるというウマい儲け話があるようですが、そういうわけでは無かったらしく主人公は小銭を取られただけでした。どうも運のいい誰かに、幸せを与えるための壺だったみたいです。紙切れの正体は何だったのでしょうか。負け組のしるしには違いないでしょう。領収書なのかもしれません。

Entry 12●
柱  仏さん

 人間の傲慢さを語る主人公は、実は極めて人間中心的な原理で動いていることが分かります。信仰とも言えます。彼女の言い分は、実際に目撃した結果に基づいているという点で、彼女にとっては真理なのでしょう。なぜ落ちるのかはあまり問題ではないと思います。
 力学にしても、大抵の人間にとっては結局伝聞の知識に支えられた信仰にすぎません。物を浮かべる力は重力の作用なのであり、彼女は矛盾しているのですが、「彼」が何を説明しても無意味でしょう。それは教義を語っているだけなのですから。いったい常識とは何なのでしょうか。
 最後の「爆弾が炸裂したような音」は何の事故だったのか分かりませんが、それが彼の信仰の「柱」の、ひとつ折れる音だった事は疑いありません。

Entry 14●
砂が降る  厚篠孝介さん

 怖いです。それは理がまるでないからです。なぜ、どこから砂が降ってくるのか、そういった情報が読者に全く与えられません。作中の人々同様に突き放され、思考を拒絶され、分からないという結論だけに圧倒されます。そういった場合、私たちの多くは怖いという感情を抱き、うろたえるほかありません。でも一部の人は違うようです。主人公とかね。
 砂山と化した静かな世界の上に輝く月は美しいことでしょう。でも理に勝る現代人である私には、それを受け入れる心はないでしょう。それは悲しいことかも知れません。

Entry 16●
鮫  ぱんちさん

 かつては海の猛者と呼ばれた筈の鮫が、いい加減な魚屋から思いつきで買いとられ、テキトーな料理をされ、もう食いたくないと言われて海に捨てられ、哀れな姿でなお生きている。身勝手に生き物を振り回し、それでいて何気ない人間の営みについて考えさせられます。
 なんて読み方はアリなんでしょうか? 率直に申しますと、困ってしまいます。もう少し脈絡があっても良いかとも思うのですが、それは好みの問題と言うべきでしょうか。

Entry 18●
変身  杉原久郎さん

 作者の意図とは異なるかも知れませんが、「転生」の印象があります。ただ、ここで受け継がれるのは私意識ではなく、他者への想いでした。人間は皆、幾世代もこうした共有の部分を持っていて、過去も未来もないまぜにしたところで幾度も転生しているのかもしれません。陳腐な言い方をすれば、それが愛なのかも知れません。
 ふっと遠いところに思いを馳せるような作品で、難解なのですが、大変面白い内容を含んでいる(のだろう)と感じました。小説としては評価しづらい面はあるのですが。

Entry 20●
魔法のぼうし  越冬こあらさん

 夢が無条件にかなえられる魔法は、幸せを奪うものだったようですね。それを一番理解したのは、他ならぬ、魔法を失った工場長だったのでしょう。これだけ打ちのめされても立ち上がったわけですから。
 決して年寄りではない?私の目から見ても、最近の世の中は夢に重みが少なくなったように思えます。我々は不幸なのかもしれません。

Entry 22●
おかまのシゲルちゃん  鳳めぐみさん

 シゲルちゃん大好き。それに尽きます。なんのドラマもありません。まるで日記を読んでいるようです。ただ、シゲルちゃんが(みぃちゃんの目には)とても愛らしい男の子で、そんなシゲルちゃんが好きなんだって事だけがひたすら伝わってきます。つまらんと言えばつまらんのですが、このままが良いと思います。
 遠くから眺めているうちが、ある意味もっとも幸福な時間です。そこだけを切り取った断片は、読んでいて暖かく、かつ胸が痛みます。そういう意味では、いやな作品でもあります。

Entry 24●
堕天使と雪  Defaultさん

 街の平和の守護者は、日の当たる世界からは踏み外していて、しかも肝臓がいかれてて? 先は長くないようです(??)。キャラクターは大変魅力的です。が、私に何らかの知識が欠けているのか、それとも題名にとらわれすぎているためでしょうか、その行動原理は今ひとつよく分かりません。彼はなぜ真っ直ぐに彼女を救いにきたのか、彼にとっての罪、罰とは? 読んだままの印象で言えば、少年を殴ったのが罪で、女の問いかけに応じちゃだめなのが罰、となってしまいますが、主人公の神がかった印象からすると少々ノリが軽いです。こういうキャラは少しでも外すと爆笑必至ですので、ガードは慎重に固めた方が良いと思います。

Entry 26●
はじめに想いありき  逢澤透明さん

 私も、人間は言葉だけで生きるものではないとは思います。
 理屈にまみれた日常を営んでいると人間のそういう一面を忘れてしまいがちで、例えば子供には言葉を教えるのと同じくらい、抱きしめてやらねばいけないとか、そんな事を思い出させる作品です。
 それでも人間は、半分がたは言葉で出来ていると思っていますので……「僕」の最後のせりふは、やはり人間否定としか読めないわけです。もちろん「わたし」の方は決してそんな事が言いたかったわけでは無かったと思うのですが、彼女?のツッコミは無いのでしょうか。


Entry 28●
安全基準  羽那沖権八さん

 最近はまあ少なくなりましたが、前に巨大なガードをつけた四輪駆動車とか危険ですね。誰かを守るということが結局自分を守る事になる、少なくとも車に関してはそれが当てはまると思います。その辺、メーカーは実は分かっているはずですが、四谷君同様、多くのユーザーはそんなこと考えません。なにしろ自分だけの身を守る事すら、いまだゾンザイな人も多い。彼の悲劇は他人事ではありません。
 ゴリアテという名前は趣味っぽいです。ドイツの自爆戦車でしたっけ(そっちの方じゃないって。たぶん)。

Entry 30●
Welcome Home  川辻 晶美さん

 私は近年、自然から切り離された生物に、生き物としての意味は薄いんじゃないかなどと考えています。まあ余り感傷的にもなりたくないですが。ジュゴンを見世物にする(しかも植物園?)事にしても、主人公がそれでジュゴンを目の当たりにできたのなら、意義がないとは言えません。でも本当のジュゴンの営みは海にあって、見たければ人間が潜っていくのが筋なんでしょう。
 文章としましては、どこか何か引っかかる気がするのですが、それがどこなのかよく分かりません。「不細工な外見の内に秘められたナイーブな心」と「自然から切り離された動物の悲哀」という、ただちには直結しないテーマが曖昧に混ざったまま提示されている所かもしれません。

Entry 32●
ちんぽくん   一之江さん

 作中の会話は実際には彼との対話になるはずですが、きっと彼の頭がちんぽだったのでしょう。彼こそちんぽくん。またはちんぽが彼になった。同じか。彼に投げるべき言葉をちんぽに語らねばならない「私」が情けなく悲しいです。
 ちんぽは人間の外回りのうちでもかなり「物体」に近いと思います。しかも排泄管。これを相手するのは、実のところ、例えて言えば彼のパンツを洗う時にも似た空しさを含んでいるんじゃないかとそんな気がするのですが、どんなものでしょう。彼を愛していると感じている間は良いのでしょうけれど。

Entry 34●
ED 鮭二さん

 ああ、またちむぽ。これが作者の目指すところの「亀の国」なのでしょうか。
 さて互いに直角を成す三本の指を、どう機能させるのか常人には想像できないのと同様に、彼のポテンシャルを励起させる手法も、マニアックすぎて実験再現性が薄い気がします。彼女にそんな世界を相手させる物理教師の身勝手もすごいですが、しかし強引な指導に感動してしまう彼女の若さは実に素晴らしいです。でもそれは青春のひとコマにすぎません。素敵なコーチに導かれて、彼女は変態物理のエースを狙うのでしょうか。いや、来年は別の女生徒が土手に座っている気がします。

Entry 38●
パゲ山考 俊さん

 「パゲ山」に関する「僕」の記憶は、パゲ山の不明瞭な言語とハゲでしか、いや正確には、それらへの嘲りの記憶でしか残されていません。顔すらも思い出せないという事実そのものが、自分の幼稚な暴力の証明として「僕」に影を落としています。
 で、それを肌で感じたとき、並の小説の主人公なら心理描写のひとくだりでも語りたくなるところなのですが、しかしここでの「僕」には常にアホみたいなリアクションしか用意されないのに驚かされます。そして、ただ漠然とした引っかかりを意識したきり、彼は恐らくはそのうち忘れ去ってしまう。
 しかし現実はこんなものだと思います。それが作者のリアリズムかと感じました。



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 著作者   蛮人S   mail:banjin-s@gorakken.net