初めての全感想になります。 作者の皆様へ: 返礼は不要です。しかし書くなとも申せませんので、どう してもとおっしゃる方はどうぞ。苦情は苦情として受け付けますが、受け入 れるかどうかはわかりません。 1『美しいもの。』そるさん 情景はよく伝わっていると思います。しかし、それだけでは少々困ってし まいます。例えば主人公の乗る列車に私が乗り合わせていたとして、私が主 人公の読み始めた小説をちらりと横目にし、その内容を知っていて、そして 窓の風景を共有して、なおかつそれを美しいと感じたとしても、それで私は 主人公について何が知れるのでしょうか。 そうでない限り、主人公はアカの他人です。「あなたは〜だろう」と言わ れても困ってしまいます。身の上話のひとつくらいは聞きたいと思いました。 どうせ小説なのですから。 そういうことなんです。 2『遠い花火』叙朱さん いい話なんだろうと思います。こういうお仕事お疲れ系(……?)は嫌い ではありません。てゆーか好みなのかもしれません。胸を張って言いたくあ りませんが。 気になったのはリアリティのバランス感でした。仕事の描写はリアルなの ですが、それに比べて核心となるところの台詞は、言いたかった事が今ひと つよく分かりませんし、仕事中にふっと呟くような言いまわしでもないよう に感じられました。二、三週で失望するような職場にどんな魅力を感じてい たのかもピンときませんでした。 3『インフルベンザ』有馬次郎さん なんとも評価しにくい作品なのですが、気色悪さは出ていると思います。 舞台がパン工場である理由はあまり無いので、パン業界への嫌がらせなのか もしれません。そんなわけないって。ただ小説というのは必然を重ねて描く という面があって、たまたま主人公の職場がパン工場なのだったとしても、 これだけ描写に字数を割いたならば、パン工場であることが動機と思う人も いるかもしれません。いないか。 どうでもいいけど、労務課って生産ラインの設定指示までするんでしょう か。そうなのかもしれません。それから私の職場のトイレも時々水勢最強で やけに温度が上がってる事があるんですがね。ありゃなんなんでしょうね。 4『花』黒花睡子さん 少女。ああ少女なんだなあ。としか言いようがありません。ただ漠とした 色合いだけが伝わってきます。これはわたし的には今回のバトルで最も困っ た作品なのですが、良いか悪いかといえば良いんだろうと思います。 5『お菓子と手帳と』のぼりんさん ああまったく、なんてこった。 元々「一発オチもの」に抵抗を感じる私です。嫌いとまではいいませんが、 色々残念な思いをすることが多いので、さほど好きなほうでもありません。 加えてあまり私の趣味とは言えない内容でしたので、これはあくまで好みの 問題なのではありますが、楽しめませんでした。 6『恋愛小説』刀さん 当たり前な道理を当たり前に言ってのける主人公は、それが彼女への信頼 からなのか自信過剰なのか分かりませんが、魅力を感じました。でも現実に は難しいのかもしれません。題名に作者のそういう気持ちが含まれているよ うに思えます。 7『トゥーラ・トカレフ』工藤裕也さん 身勝手で理不尽で軟弱者でちょっとサイコな男の子。そんな主人公を見舞 った肝心な場面での銃のトラブルは、殺された彼女の意思がなしたささやか な、しかし大きな報復だったのでしょう。 ただ、導入からはハードボイルド的な展開が予想されたので、ちょっと肩 透かしな印象がありました。初手からろくでもない男でいた方が良かったよ うに思えたのですが、いかがでしょうか。 8『Rain Day』桂木彩乃さん ふとした出会い。……でおしまい、というのは少し寂しすぎるように感じ られました。もう少しサービス精神を発揮してもよいと思いました。絵に描 いたような恋物語を期待します。 9『紅い唇』さとう啓介さん なんだか無茶苦茶で面白かったです(けなしてないです)。「息子の嫁と 関係を結ぶ爺と、それを死なせて代わりに付き合う(かもしれない)隣家の 少年」なんて、これくらいぶっ飛ばさないと読んでられない。明確な割り切 りが感じられました。 10『臆病者の窓』木葉詩子さん 率直に言ってよく分かりませんでしたが、文字通りに受け取るとして、主 人公の病的に不安定な精神状態は伝わってきます。それゆえか気が滅入るの も確かです。夢に出そうです。ところで改行は本来あったものが欠落してし まったのでしょうか。 11『壁』杉田晋一さん 迷い道く〜ねくねー(古い歌だ)。というわけで迷っています。主人公は 結局彼女をどうしたいのか、なんだか当人にも分かってない節があって、実 は迷い道にいると思っているのは主人公だけなのかもしれません。それは結 構楽しいことかもしれませんが、しかし読者的には何か決着が欲しいように も感じました。 12『Human immunodeficiency virus』羽倉 諒さん 何か人体をモチーフにしているらしいのですが、あまりよく分からなくて、 H参謀ってHIVなのかなと思ったので少しだけWebで調べたのですが、 HIVはヘルパーT細胞を利用して増殖するらしいのでT将軍ってこれかと 思ったのですが、ちょっと違うみたいな気もして、自害した将軍といえばわ たし的にはロンメルなのですが、あまり関係ないようなあるような。で、結 局普通の軍記ものとして読むしかなかったのですが…… 13『愛を感じるとき』やまだ小麦也さん 何なのかよく分かりませんでした。エッセイ? ただ、とりあえず定食はおいしそうに感じられたので、定食の愛は文章を 通して私にも伝わったのでしょう。 14『虐待』RIBOSさん 先にも書いたのですが、一つのオチに集約するタイプの作品はさほど好み ではありません。何度も何度も読めるのが好きだからです。まあ他にも理由 はありますが割愛します。 シリアスな語り口から、突然、馬鹿馬鹿しくも微笑ましいオチへの落差が 上手だと思いました。ただ、その鮮やかさが魅力であるがゆえに、二回読む 気にはなれませんでした。あくまで好みの問題なのですが。 15『僕と蟻と彼女』BEANさん 面白いのでもうちょっと書いて欲しいという気持ちです。 字数もまだあるし主人公の近況についてもう少し書き込めば完成度が高い と思うのですが、しかしそこを書かずに放り出してしまうあたりの微妙な突 き放しが作者の持ち味なのかもしれません。と、最後の「めでたしめでたし」 を唖然と眺めつつ思いました。 16『メールで愛』吉原 明さん 笑わせたいのかどうされたいのか作品の意図がはっきりしないのですが、 ひきこもりってこんなものなのでしょうか。などと思わせるリアリズム調整 からすれば、固有名詞の散らし具合はこれも既知感とか親近感よりはギャグ がねらいなのかな、などと余計な事ばかり考えて没入できないのは、結局他 人同士の会話だからでしょうか。 17『千字くん』時空門奴さん >頼むよ。 やだ。 ……えっと。 「字数をくれ。千字に納まる世界をくれ。千字に納まる主題をくれ。できれ ばもういっぺん読んでくれ」と作者のわがまま言いたい放題なのが楽しいで す。でも単なる楽屋オチって印象は拭えないです。 18『歓喜』るるるぶ☆どっぐちゃん さん どこかのアニメか寒い国から来た映画のせいか「クラシック界の太宰」見 直し運動のせいか、人は死ぬ前に歓喜の歌が流れるというのが昨今の定説み たいです。しかし私はベートーベンの9番を作品として正面から受け止めた ことがないのでその何たるかを垣間見たこともなく、この作品を批判もでき なければ誉めもできないのです。とりあえずテンポの良さは魅力的です。 19『正月すぎの餅』海坂他人さん 餅を喉に詰まらせるというサザエさんと紙一重な導入から、静かな母娘二 人の時間へと移っていく流れ。たまに文章としてひっかかる部分があるのと、 後半主人公(の心の独白)は少し饒舌かなあと思われましたが、良い作品だ と感じました。 20『生まれたての陽の光と夜を越えてやってきた風』伊勢 湊さん 「僕」はドキュメンタリー番組のレポーターのようです。それはそれで分 かりやすいのですが、ジョンの暮らしそのものよりは「僕」との交流に主眼 を置きたかったとすれば「僕」の存在が希薄と思います。ジョンの身の上話 が全部伝聞になってしまうのも弱いように感じられました。1000字のボ リュームからすればジョンを語り手にした方がスムーズだったかもしれませ ん。こりゃ感想じゃありませんね。 21『Not yet.』川辻晶美さん 主人公は男ですが、あこがれの芸能人が落ちぶれて自分の部屋に転がり込 むなんて彼女にとっての夢物語。才能有る彼を立ち直らせる恋女房は私ひと り〜的みたいな。ってここまでいくと演歌ノリだし、男のロマンでもあるの ですが。男の意識の目覚しい飛躍ぶりに何やら無理を感じますが、きっと「 終わっちゃいない」という気持ちが普段からくすぶっていたところにちょう ど彼女が現れたのでしょう。なんだかリアリティはないかもしれませんが、 夢見ることは楽しいものです。 22『鳥になりたい』羽那沖権八さん 目の付け所がユージくん。彼もストレスたまってるのかもしれませんが、 そう言うと「また引っかかったね」などと笑うのでしょう。この得体の知れ ない癒し方は作者自身のものかもしれません。平和っていいな。 最後の会話は、どれが誰の台詞か分かりにくかったように感じました。 23『ひこうき雲』リツコさん ただの失敗談のような気がするのです。それをお腹の生命のナンタラーな ミタイナーな閉じ方に持っていくのはちょっと強引に思える。むしろ私は別 れた彼女に故意ではないとはいえ無遠慮なことを言われても、屈託の無い笑 顔をみせてくれる彼の方に興味をひかれます。しかしそんな奇特な男よりは 自分のお腹に即座に思いを寄せてしまうのは妊婦の思考回路としては当然な のかもしれません。赤ん坊というのは親の心も体も時間もその概ねを独占し てしまう可愛い怪物なのですから。 24『メロンパンの誘惑』一之江さん 好物の(多分、たびたび弁当箱の中身になっているのだろう)のり弁とメ ロンパンの対比や、景品のネーミングセンスからすれば、最後のところは無 くてもよい。もちろん有ってもよいと思います。このあたりの調整(字数っ て意味じゃない)に作者の余裕を感じられます。これまた感想じゃないや。 ※まったくの余談 ちなみに私はカルピスウォーターの「チャンピオンバスローブ」てのとキ リンスピード「松坂大輔バージョンヒップバッグ」というのをシールで当て ました。後者は昨夏締めきり迫る中あと1枚という所で回収騒ぎとなってマ ジで販売機から商品が消えたのを知るや異物ごときで愚民どもがガタガタぬ かすんじゃねえなどとワメきながら道端に落ちてる缶を拾ったという傍目に は何やら危険な香りも漂う気合と執念で応募したものでありプレゼント担当 者も一枚だけ古びたシールにさぞかし心打たれたのではないかと考えており ます。なお缶を積む必要はありませんでした。シールだけ集めればよろしい。 25『贋・・・爺』鮭二さん 実話でしょうか。 実のところこの方の近作はきちんと読んでいません。いやちゃんと読んで いますが。仕方ないので悩み事でも書きましょう。ある女が、私にこう言う のです。「わたくしは生まれ育った家からしてあなたとは違っておりますの」 ええ確かに彼女は昔も今も、私の同居家族ではありません。「ですから着て いるものから、口にするもの、言葉遣いまでも、あなたとは天地ばかりの差 があったとしても、至極当然なことと思いません?」はい。論理的にみて至 極当然の帰結でしょう。そう答えると、彼女はオホホホと満足げに笑ってく れます。だから彼女と私とはきっと良好な関係なのだと思いますが、しかし なぜそんな事を訊くのでしょうか。私はいっぺん彼女の脳に尋ねてみたいの ですが、日本人の工具はやっぱりKTCであるべきでしょうか。 26 掲載終了しました。 |