ひとし君のふしぎ発見!
草野仁は拉致された。番組収録の帰り、二人組の男に襲われたの
だ。白マスクで顔の半ばを覆い、一人は黒眼鏡、もう一人は野球帽
を深目に被っていた。
「草野さん」
野球帽が関西訛りで話しかける。手にはヌンチャクが握られてい
た。
「スーパーひとし君人形は、一つで二個分の値打ちが御座いますな。
あれは何ですか、特別な素材でも使うとるんですかね」
「いかがでしょう。例えば紙幣というものは、あれは本当はただの
紙ですね。しかし国のルールに基づきまして福沢さんでしたら一万
円という事にしましょうと、つまり紙幣に価値を与えているのは政
府の信用というわけです」
「流石です、草野さん」
黒眼鏡が拍手した。
「分かりやすい解説でした。では同様にスーパーひとし君に価値を
与えているのは草野さん、あなたなのですね」
「さてさて」
草野仁は肩をすくめた。二人が詰め寄る。
「草野さん、あんたは今や日立グループの、お茶の間における顔と
もいえますわ。そこまでの地位に登り詰めはったカリスマ性、その
秘密は何ですやろ」
「何ですやろと言われましても、私は一司会者にすぎません」
黒眼鏡がナイフの鞘を抜く。
「僕の情報が正しければ、次世代ゲーム機にも使われている日立の
『SH』というプロセッサ、あれもスーパーひとし君の略なんです
って?」
草野仁は、ほっほと笑った。
「いや、それは初耳ですねえ、マコト君」
黒眼鏡は思わずマスクを押さえた。
「さて、もう帰らせて戴きますよ。私も下調べが必要でしてね。黒
柳さんだって今頃は図書館でマヤ文化の勉強中でしょう。漫才して
る暇なんて無い筈ですよ」
「う、うるさい! 帰さへんで草野さん」
「仕方のない人達ですね」
草野仁はスーツとワイシャツを脱ぎ捨てた。するとそこに立って
いたのは赤い帽子に探検隊ジャケットを着た男。
「す、スーパーひとし君だ!」
黒眼鏡がハッと振りかえると、背後にもう一人スーパーひとし君
が立っている。
「一人のひとし君が、二人のひとし君に!」
スーパーひとし君は、倍々に増えていく。
「四人に、八人に」
「五百十二人、千二十四人! ああ、もうあかん……」
悪漢どもは並んで失神してしまう。草野仁たちは笑みを浮かべた
まま言い放った。
「没収です」
残念音楽と共に床に沈んでいく二人を満足げに見送り、草野仁は
にこやかに振り返る。
「というわけで視聴者プレゼントはヌンチャクとナイフです。では
また来週、お目にかかりましょう」
※作者註: この作品は或るTV番組のパロディとして書かれたものですが、作品中のセリフや「スーパーひとし君」のルールが間違っているとの指摘を複数の方よりいただき、私もこれを確認しております。特にパロディという作品の性質上、ディテールを誤ることは致命的なミスであると認識していますが、当面は原文のまま公開させていただきます。ご了承ください。
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