原始人ゴロー

                              
 その朝、俺は部屋の明るさに目を覚まして飛び起きた。
(しまった、今日は早朝企画会議でプレゼンだったのに! 目覚ま
し鳴ったのか? 今何時だ?)
 慌てて枕元を振り返るが、時計はない。代わりに白衣の女二人が
立っていて、俺は悲鳴を上げた。ここはどこだ?
 女二人は同時に喋り始めた。
「ようこそ五郎ちゃん。私達の名はリサ。今は西暦2065年なん
ですよ。」
 なぬ?
「あなた、67年前の明け方に過労の心不全で死んだでしょ」
 そんなの知るわけない。
「これ覚えてる? 冷凍保存実験参加同意書」
 なんか景品の抽選につられて応募したような。
「景品は外れたけど、実験参加権は当たったのよ。あなたの遺体は
しっかり保存されたわ。発達した蘇生技術で生き返るまでねぇ」
 じゃ俺は未来人に生まれ変わったわけか。
「どうかしら・・そろそろ疲れたからスイッチ切るわね。一日1分
が限度ね。ふう」
 リサ×2は胸元のペンダントをひねると、笛を吹き鳴らすような
声を交わし始めた。
 それは極めてテンポの速い言葉だった。


 あれからふた月、俺は未来人を目指すも今だ会話すら出来ない。
 この時代の言葉は、すべて幅広い共有知識による「暗黙の了解」
で高度に圧縮され、話がポンポン飛躍する。文章にしても同じ。知
識が必要なのだ。
 俺はリサ×2に易しそうな教材を用意させた。それはビデオのよ
うだった。

 ネコ耳のお姉さんが叫ぶ。
『はーい、みんな、元気かな?』

 だがその先がもう分からないのだ。
「わああ」
 1本目にして俺は挫折した。涙がじわと溢れてくる。
「・・五郎ちゃん、もう帰る?」
「えっ」
「あなたが死ぬ前に巻き戻してあげる。そのかわり死んだ筈のあな
たの存在は消えるわ。もちろん、この未来の記憶も。ふう」
 もう限界だろう。ここは俺にとっては非人間的すぎる。人間はも
っと冗長で、のんびりした生き物なんだ。リサ×2は優しかったけ
ど、保母の資格を持ってると口を滑らせて以来、何か引っかかるも
のもあるし。

「帰るよ」


 企画会議の時間。
 タバコが充満する会議室で、五郎は奮闘していた。
「・・という事で、ご質問御座いますでしょうか?」
「うむ、つまり、そのプラグインをパソコンに取り付けることで、
我が社の広告はインターネットで早く安くなると」
「プラグインについて、もう少し解り易く皆に説明し給え。」
 五郎は内心悪態をつく。
 まだるっこしい連中だな。自分で勉強しろよ、まったく疲れるぜ。





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