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引き継ぐ世代に 体育館の外は眩かった。 空の青が異様に濃い。天頂の太陽はグラウンドで真っ直ぐ照り返 し、ぼっと乾ききった空気の輝きが、細めた眼にもぎらぎらと射し 込んでくる。光化学スモッグが出ているようだ。この感触は子供の 頃から変わらない。 校舎から教頭が姿を見せた。案の定、教頭は校旗の掲揚台に上る と、右端のポールの下で黄色の旗をばさりと広げた。 「教頭先生・・」 「ん、宅間先生、子供達はもう帰したの?」 「ええ、やっぱりスモッグですか、今日の練習は早めに切り上げて 丁度良かったですよ」 「そりゃ結構」 教頭はカラカラとロープを引いた。垂れたままてっぺんまで持ち 上がった旗は、ぴくりとも揺れなかった。 「今年は暑くなるそうですし、スモッグも増えるでしょうね」 「でもまあ、昔に比べりゃマシでしょ」 僕は頷いた。確かに公害は減ったかと思う。家は清潔になったし、 学校の設備も整った。子供達を取り巻く環境は、僕の時代とは比べ ようもなく良くなった。 本当に、そうなのか? 自分では気付くまいが、なぜ君達は、そんなに疲れた顔をする。 教頭も同じ思いに行き当たっていたのだろう。 「ねえ宅間君、正直言うて分からんのよ。今、子供達は明らかに苦 しんどる。でも何からどうすりゃ良いのか、がむしゃら動いても、 どうもよく見えんのよ。 昔はただ、目の前の火の粉を払うんで必死だったし、ねえ、スモ ッグが出ちゃ旗揚げて、車が増えちゃ旗振ってね、そんな事で何と か守ってきたつもりよ。 ただ、単純だったね。良くも悪くも、私も、社会もね」 そうかもしれない。でも。 25年前、駆ける僕のランドセルを掴んで引き倒した強い腕。 急ブレーキの音。 左右に目もくれぬまま、真っ直ぐ道路へ飛び出したはずの僕は、 一瞬どういうわけか青空を蹴り、背中から倒されていた。呆然とす る僕を、うわずった大声で怒鳴り続けた先生。 生かされた僕。生かしてくれた先生。 あなたは間違ってなどいない。 「いやいや、私は別に卑下してるわけじゃないんよ。 生かしてなんぼ、そんな事、大人として当然でしょうが。私だっ て同じよ、昔は腹なんか空かしててねえ。 いや失敬、これからは、また違う世の中が必要になる、それだけ よ、宅間君。言いたかった事はね。 すまんな、また難しい宿題を出したね。 私も今年限りだし、時間も増えるよ。及ばずながら、一緒に考え ていこう」 旗の翻る音が、いつしか僕の耳にも届いていた。 < 戻る |