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いつか空を超え 晴れ上がった初夏の空を、数条の飛行機雲が伸びて行く。自国の どんな迎撃機も、決して届かぬ高空を。俺はその目標を思いつつ、 タバコの煙を吹き上げた。 俺とラトは、二人並んで寝転がり、ただ所在なくタバコをふかし ていた。 セトナ海の小島にある海軍噴進弾研究所。俺達はここで、本土爆 撃への最後の対抗手段たる、防空ミサイルの開発を命じられていた。 たった二人きりの、研究所だった。 ゴミ同然の資材の山と漁家に擬された作業所。中には工作機、机 に計算尺、試製のロケットエンジン一基に燃料は実験三回分に満た ず、馬鹿二名には各三箱の煙草。 そして、銀色の誘導装置が一つ。ヤン主任の作りあげた、最後の 工芸品だ。 ラトが嘆息する。 「芸術、だったね」 「ああ」 主任自らの奇想的な設計思想を支える、精緻な歯車の輝き、スプ リングに浮かぶ虹色。決して量産向けではなかったが。 「主任は、あれが戦局を変えうると思ってたのかな」 多分どうでも良かっただろう。降ろうが照ろうがお構い無しの職 工だった。その日も普段通り作業場にいた。そして焼かれたわけだ。 町も、工場も、主任も。 今朝、検印の押されたケースと共に、その知らせは届けられた。 飛行機雲は空を分けたまま滲んでいく。 俺はそっと切り出した。 「なあラト、部品実験は中止して、一基組み上げてみないか?」 「そうだな、まともな工程はもう確保できないし、せめて形にして みるか」 「あの雲までは、届かないかな」 ラトは一瞬、意味を図りかねたようだ。 「発射する気か!」 「いいだろ、別に」 「飛ぶか、馬鹿。しかも一発限りだぜ。後に何にも残らん。俺達は、 技術者として、モノを将来へ残す義務がある!」 「残せるか! どうせ撤収の時に解体処分、設計書も廃棄だぜ」 ラトは言葉に詰まった。 「ラト、堅気の仕事じゃないんだよ‥‥武器職人に、理想なんてな いよ」 俺は続けた。 「だからさ、急いで制御装置を解析しよう。時間がない。残りの工 程も、打ち上げまで検証して、全て叩き込むんだよ、俺達の頭の中 に」 「成る程ね」 俺達は未来に生きるのだ。ヤン主任と一緒に。 某日、俺達は西へ向かう敵爆撃隊めがけ、ミサイルを発射した。 機体は三秒間推進して弧を描き、海面直前で爆発して散った。 将校のため息が届く。 次々と降る銀色の破片は、日射しに輝いては飛沫をあげて没し、 やがて白煙のアーチも柔らかく薄らいでいった。 終戦二日前の事である。 < 戻る |