こけまくり姫

                              
 やたら喉が渇くイヤな夢から醒めたら、ベッドから転げ落ちてい
た。
 立とうとしたら、脱げかけたパジャマの裾を踏んでこけた。
 だまってテーブルの縁に掴まり、体を支えようとしたとたんテー
ブルごとひっくり返った。

(痛・・)
 何だよこれは。
 呪いのパジャマを転がったまま脱ぐ。
 よし、起きろ私、もう一度立ち上がるんだ。
 気合い一発。うりゃあ。
 たちまち部屋が回転し、どしんと尻餅をついてこけた。
(う・・うええ)

 これが二日酔いってやつですかい?
 なんか、まだ目の前が、右から左へごおって流れてるよ。
 あ、戻ってきた。
 あ、また流れていく。
 あ、戻ってきた。もう流れないように、頭を押さえてやれ。
 むわあっって、今度は何か、胸に反動が来るじゃないか。
 きっ気持ち悪い、水くれえ!
 壁につかまって、今度は慎重に立ってみる。
「みゃあ」
 って、まとわりつくなあ、ばか猫。
 また、転んだ。

 半開きの口に、猫が冷たい鼻をふつふつと当ててくる。
「酒臭い?」

 ・・しかたないよお
 あたしゃここんとこ、ずっとこけまくりなんだよ
 仕事も何も。
 みんな、あいつのせいなんだ
 ほんと

 部屋が、また回り出す、猫の黒い瞳もまた、
 ぐる、ぐる、ぐると。
 構わず目を閉じる。
 暗闇の中で全身が回転して、頭が床にずぶずぶ沈み込んでいくよ
うだ。

 ねえ、
 こんどは、
 こんどはちょっと、
 いい感じかなって
 なんて、おもってたんだよ
 おい、猫、聞いてるか?

 猫の尻尾がふぁさ、と頬を撫でて横切る。

 ほんと、こける時って、いっぺんなんだよ
 大事にしてた、つもりだったのにね。
 ほんと、私ってさあ、

 かり、かり、ぼりぼり。

 ・・聞いてねぇ。
 あいつカリカリなんか食っていやがるな。

 もういい。もう立たないよ。
 立つからこけるんだ。
 私はもう、転ばない。
 もう絶対、絶対立つものか。

 床でふて寝するパンツ丸出し女。
 猫は音を立てて水を飲みはじめた。水・・
 あ、水だ。

「・・ねえ、水汲んできてよ。ねえ」
 猫が汲むわけない。

 ああ、水飲みたい。

 水、飲まなきゃ・・






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