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UNDOをどうぞ 「日本の大将さまが許してくれるのなら、帰りたいです」 ぼそりと彼は呟いた。離れて立つ彼の姿は、夕日の中の影絵となっ ていた。 ここまで鮮やかな赤色が、この世で本当にあるものなのだろうか。 彼の故郷の夕日は、ここまで赤かったのだろうか。それともやは り・・ 「・・帰りたいです」 彼の呟きは聞こえなかったことにした。 午後の日の射す縁側で、老人は小さな機械と向き合っていた。 「こんな立派な人間を、殺さにゃならんかった・・」 最新型の口述記録機は、衰えた老人でさえ簡単な操作で扱うこと ができた。老人が何かの話の弾みで、うっかり欲しいと口にしてし まったら、早速とばかりに曾孫が贈ってくれた機械だ。 「海軍の陸戦隊として、ガダルカナルまで行ったわけ。そこで、私 は、とんでもない失敗をしてしもうた」 餓島。今まで誰にも、あの島の記憶を話したことはない。できれ ば、一生、 「実に、気だての良い、上等兵じゃった・・」 一生、あの世までも隠し通しておきたいと、 「・・・・」 そう、思っていたはずだった。 「・・ココマデノ記録ヲ捨テテ、ヤリ直シヲシマスカ?」 陽が傾き始めている。老人には時間が無かった。 じきに孫夫婦が帰ってくるやもしれぬ。いや、多分その前に。 「続ける」 機械は再び回り始めた。 「緊張するというのは、凄いもんで。あの、息吸うたって声が出な い。はあ、はあっ、て、それだけ。で、よし、やろうってんで」 「・・殺しちまった」 「で・・その肉を・・」 実に、気だての良い、上等兵じゃった。 赤い。陽が赤い。 老人は船に乗っていた。それはわずかばかりの戦友と乗り込んだ、 引き揚げの船。 (切羽詰まって、よくよくの、極地に追い込まれていた、結果のや りかたです! 他にやりようが無かったから、やった。・・私の、 言い分は、それだけなの) 「・・ヤリ直シヲドウゾ」 「・・ヤリ直シヲドウゾ」 「・・ヤリ直シヲドウゾ」 平沢進「UNDOをどうぞ」(アルバムCD「Virtual Rabbit」POCH-1084に収録)よりイメージして書いたもの。 台詞は曲中から聞き取ったものを参考にしています。 < 戻る |