金星のお姫様プリティービーナス

                              
 私と中村が夜道を歩いていると、恐ろしく派手なセーラー服を着
た一人の娘がいきなり立っていた。
「はーい! 私の名前はプリティビーナス。金星からやってきたお
姫様なの!」
 私と違って、中村はこういう状況において答えに窮する事がない。
「金星ですって?」
 中村が鼻で笑った。「馬鹿を言っては困りますね。もう少し勉強
しなさい。金星の温度は450度以上もあるんですよ。そんな熱い
環境において、少なくとも人間のような高等な生命は存在しうるはず
は・・」
「ビーナス・ラブリー・フィーバー!」
 突然娘が叫ぶやその全身が赤く輝き始め、左胸から炎がいきなり
吹き出した。中村が悲鳴を上げて飛びすさると、娘は胸を張って言
うのだった。
「熱くないもん! 私、金星で育ったの。」
「ふざけるな!」
 中村の焦げて縮れた眉が震えている。びしりと娘を指さし、再び
握りしめ、「育ったのって、どうやって呼吸するんです。二酸化炭
素を主成分とする金星の大気でよく息が詰まらないもんですね・・」
「平気だもん! ビーナス・フェータル・ブレス(・フォー・ユー)!」
 叫び終わるや、娘はぷうと膨らませた口から激しい勢いで炭酸ガ
スを噴射する。全身をドライアイスの吹雪で包まれた中村は、決め
ポーズのまま凍りついて沈黙した。
「こりゃ雪女かもな」
 思わずつぶやいた私をにらみつけ、中村がばりばりと氷を飛ばし
ながら叫ぶ。「非科学的な! 常識知らずめ!」初めて見る意外な
強さであるが、しかし完全に激昂している。制止しようとする私を
振りほどいて中村は再び娘を指さした。
「そんな体で金星の大気圧に耐えるのは物理的に不可能、そうに決
まっている!」
 いや、それはそうとは言えまい、と私が取りなす間もなく娘は声
をあげていた。
「ビーナス・プレッシャー・エボリューション!」
 娘の体が爆発的に膨張し、私と中村はそれぞれ周囲の建物の壁に
全身をぎゅうぎゅう押しつけられた。それでも中村は正に絞り出す
ような声で言い放つのだった。
「おまえの英語はめちゃくちゃだあ」
 そして圧死した。無論私も同様である。

 科学馬鹿パーティーが全滅した後に押し掛けてきたのは、また別
種の人間達だった。
「あなたは前世を知る我々の同士であると理解します! 私は38
00年前、レムリア大陸で大神官イミールにお仕えしていた・・」
「円盤を見せて頂けますか? いやね、実は私、アダムスキー氏と
は親密な関係にありましてねえ」「あなたの存在はかねてより映画
の形で予言されていました。一緒に黄金竜から地球を守りましょう」
「侵略者めー! この、中村にも劣る、カニ野郎」
 娘がかぶりを振ると彼らも抹殺された。

 無言で横たわる我々に冷たい月光の影を落としながら、娘はただ
一匹残った黒猫を抱き上げて囁いた。

「ただありのままを見ることって・・そんなに? 難しくって?」
 猫は大きな瞳を娘に向けながら、にゃあと鳴いた。





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