私のキライなパパ

                              
『もおぉ、六年生なんだよ。運動会だからって幼稚園じゃないんだ
し・・』
 隣のコースに並ぶナナコが、小声で文句をたれる。
『私が出るたびに名前叫んで応援するの、やめてくんないかなあ。
恥ずかしいよ。何考えてんだろ、うちの親って』
 ナナコがちらと観覧席を向くと、ばかでかい声がまた飛んできた。
ナナコのパパだ。
 私はくすくす笑ってやった。
『いいんじゃない? うちなんかさ・・』
 ジャージの副担任が声をあげる。
「はい、喋らない! 位置について」
 合図に促されて、私たちはスタートラインについた。
 今ごろパパは、またゴール前あたりでビデオなんか構えてるんだ
ろう。ここからじゃ見えないけれど。
 いいじゃない、ナナコ。うちのパパなんか、どうせ来てくれたって。
「用意!」
 ピストルが鳴りわたる。
 
 
<駆け出すランナーのロングショット。
 画面の中央すこし左に私を置いて、
 ぐんと加速させながらズームイン>
 
 パパのファインダーの中で、私は走る。
 たまにはカメラから、目を離してみたらどう?
 いつだってそう。
 パパ、何しに来たの?
 カメラマン?
 
<次第に大きく映し出される私は、ナナコをわずかに追い抜く>
 
 変に凝った映像。
 どっかのテレビ中継みたい。
 誰に見せたいって言うの?
 
<画面アップでゴールのテープを切る私。
 かけ足を緩めていく私にあわせ、カメラはゆっくり引く・・>
 
 
(一着だ・・一着・・勝っちゃった、ナナコに)
 
 二着のナナコが、照れながら、観覧席に大きく手を振っている。
息を整えながらそれを眺めている私の姿を、レンズは正確に追って
いた。
「パパ!」
 私は、カメラに気付いた。
「見てくれた? ねえ、ちゃんと、見てくれたよね!」
 パパは、申し訳なさげな顔でこう言った。
「ごめん、バッテリーが急に落ちちゃって・・急いで換えたんだけ
ど、ゴールの所は間に合わなかったよ。
で・・何着?」
 パパとの新しい関係が完璧に決まったのは、この日だった気がす
る。






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