文化鍋の文化のまき(1998/4/20)
8年ばかり昔のこと、社員寮を出た私が一人で暮らし始めるに、とりあえず家電製品を揃えねばと思いつつも部屋は狭く、電源も足りなかったので炊飯器の代わりに買ってきたのは文化鍋であった。
文化鍋というのは鍋の縁が上に延びていて、閉じた蓋よりずっと高いところにあるので少々中身が吹き上がってもこぼれない。厚手の鍋に重い蓋の組み合わせは炊飯にもっとも適しており、その8割はラーメンだったものの煮物全般うまくこなした。
なお頭に「文化」と付けるのは昔に流行したネーミングで、何でもかんでも文化だったらしいが、当時を生きていない私はよく知らない。今では凶器としての包丁や、関西の2階建てアパートに名を残す程度である。
さて、こうして時間を超えた世界から文化を手に入れたものの、未開人には使い方が分からない。腹は減ってくる。やむを得ず、私が知る中でもっともこの文化に近いと思われる人間に技術指導を請う。今は研究所でやはり異文化指導をしている人物である。たしかこんな内容だった。
鍋は文化鍋でなければ、なるべく厚手で蓋が重いもの。
1 米を研ぐ
2 米より多めに水を入れる
3 はじめ緩やかに、やがて強く加熱し、沸騰したら弱火にする
4 水が無くなってきたら、ちょっとの間強火にして、止める。
5 蒸らす。
なんだか当たり前の手順な割に結構悩みつつも炊きあげた。おかずは何であったが忘れたが、とにかく御飯は旨かった。いまでもこの鍋で炊くのが一番旨いと信じているも、近年は炊飯器任せで鍋の出番は無い。
鍋の飯を食らっていると、縄文弥生以来の食文化を振り返っているかのような気分になってくる。大げさな表現だが、しかし鍋の素材が変わり、米が変わり、熱源が変わったとは言え、何百年何千年と米を炊いてきた営みを想像させるには電気炊飯器は進みすぎている。一方文化鍋の進歩が止まっているわけでもなく、実はこの鍋にしても内面はこびり付かない樹脂加工が施してあって、なんだか嬉しい。
それぞれの土地でそれぞれの生活を特徴づけていくものを文化とするならば、これはまさに米食の国の文化である。まあ、電気炊飯ジャーにしてもそうなのだが。
解説
凶器としての包丁 ---------- この包丁について調べようと検索したところ、殺人事件の記事ばかり出てきてあきれた。文化は変容する。
2階建てアパート ---------- 本来は近代的な住宅を指していたようである。欧米の生活様式をコンパクトにまとめた機能的住居なのだ。こちらは地震の記事ばかり出てきたのだった・・・