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「ここ奥多摩、イヨ山のふもとには、連日人々が押し寄せています」
若い女のレポーターが、近くの中年夫婦にマイクを向ける。
「どちらからいらしたんですか?」
「はい、名古屋から」
妻の方が答える。
「ええっ? 名古屋からはるばるですか?」
「ええ、オクちゃん見たさに」
「可愛いですもんねー」
「本当に可愛いです」
レポーターは夫の方にもマイクを向ける。
「来ようと思われたのは、どちらで?」
夫は森に視線を固定したまま返事をしない。
「ふふふ、この人が行こうって言い張ったんですよ。オクちゃんを見てるとリストラの心の傷が癒されるからって」
「そうだったんですか!」
「私もこの人が元気になるなら、と思って、付いて来たんですよ。もちろん、私自身もオクちゃんを生で見たいんですけど」
「なるほど、ありがとうございました」
レポーターは群衆から離れ、物売りの露店に向かう。
「こんにちは、どうですか景気は」
露店には、オクちゃんテーマソングのCDや、生写真が並ぶ。
「売れるよ」
露天商は声をひそめる。
「つーか、バカ売れ」
「そんなに売れますか?」
「写真一枚百円で、そう一日五百枚は出るかな。自分のカメラじゃ、やっぱり不安になるみたいでね」
「凄いですね!」
「どこから来たのか分からないけど、オクちゃんサマサマだね」
その時。
「オクちゃんだー!!!」
子供の一人が叫んだ。
「え? あっ、カメラさん、こっちです!」
レポーターが指す先には、オクちゃんが愛らしい姿でゴロゴロと転がっていた。
「オクちゃーん!」
「オクさーん!」
「オクちゃんっ!」
「オークーちゃーーーーん!」
子供たちが口々に声を掛ける。
「君たち」
ラフな服装をした初老の紳士が、人差し指を口に当てる。
「オクちゃんがびっくりするから、静かにしよう」
子供たちは、声を出すのを止めて頷いた。
カメラは、じっとオクちゃんを映す。
「可愛いですねー、あー、あんな事やってるへえ……」
レポーターは小声で、別の若い女にマイクを向ける。
「どちらから?」
「近所です」
「可愛いですよね?」
「ええ。もう、休日はいつもここです。でも――」
女は表情を曇らす。
「?」
「オクちゃんが、悪い人に襲われないかが心配で」
「あ、そうですね。この辺りって」
「ええ。最近、無差別殺人が起こってるそうですから……」
「早く犯人が見つかると良いですね」
人々は慈愛に満ちた顔で、笹を食べるパンダのオクちゃんを見つめていた。
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