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第1回 詩人部門チャンピオン of チャンピオン参加作品 ―5

忘却の儀

氷月そら

空模様。

       
 

    「これより忘却の儀を執り行います」
    あたしはそうつぶやいて
    散らかった部屋を見回した
    この部屋に残ったあなたの気配を
    ひとつ残らず 消してしまわなければならない

    「まず、集めます。くれぐれも見落としのないよう」
    大量の写真
    映画の半券
    過去の予定の書き込まれた手帳
    マフラーを編んだ、残りの毛糸
    とにかくあなたの気配がしみついたもの全部
    徹底的に、集める

    「では、火をつけますので庭の方へ移動願います」
    ひとかかえより少し多いあなたの気配
    それと一緒に庭に出る
    燃えやすいよう 気配を山にして
    最後に 薬指の指輪をほうりこむ

    「それでは点火致します」
    宣言してからマッチで火をつける
    火が、広がっていく
    小気味よい、音
    煙がもくもくとあがる
    燃えていく、あなたの気配

     ああ、煙が、目に、しみる。

    「燃え尽きたようなので、最後に灰を片付けます」
    燃えてしまった 灰になった あなたの気配
    ほうきとちりとりで、集めていく
    灰が舞い上がって くしゃみをひとつ

    ふと
    ころん と音がした気がして
    灰の中を よく見てみた
    黒ずんだ、小さな、輪

     なんということだ!
     指輪が、燃え残っている!

    指輪を持って ばたばたと家の中へ
    トイレにかけこんで
    ざぁぁぁぁっと、指輪を、流した。

    「以上を持ちまして、忘却の儀を終了いたします」



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