チャンピオン代表作品 
  女菩薩浄土
   

      
第1回 小説部門チャンピオン of チャンピオン参加作品 ―3

ザッツ・リベンジ

やす泰

       
 


「すみません。社名だけは勘弁してください」
 夜中に総務部長から電話があって社員の不祥事を知らされた。広報担当の俺はマスコミ対策に走り回ることになった。なんでも五反田のSMクラブにガサ入れがあり、客の一人がうちの会社の社員だったという訳だが、普通それだけなら新聞ネタにはならない。相手の女王様が中学生だったことで話はややこしくなった。
「ペンネームが三月? いや、そういう個人的な事はまったく……」

 いったい社員に何を教育をしていたのか、とかいわれるのには慣れている。
「お役目辛いですね。ご苦労様です」
 こういう同情のことばがたまらない。ずんと身に応える。泣きながら大声をあげて新橋のホームを走りそうになった。
 夕刻テレビ局まで済ませ、そのまま疲れて家に帰ると、郵便受けがたまっていた。カードの請求書があったので開けてみると三越10万円というのがある。そういえば女房が新しいハンドバックがどうのこうのといっていた。なんだなんだと追求しようとした俺を女房は軽くいなした。
「それより、お父さん聞いてくださいよ」
 息子がガールフレンドを妊娠させたという。
「さっき父親という人から電話があってね……」
 そこに娘が帰ってきた。しばらく顔をあわせていなかったが、いつの間にか頭が金髪になりヘソにピアスまでしている。口を開けかけたら、文句あるかの眼でにらみ返された。
「わかった。飯にしてくれ」
「あら、あなた今夜はいらないって……」
 俺は仕方なく冷蔵庫から冷えた肉まんを取り出してテーブルの上に置いた。さらに牛乳でも飲もうかとコップを探していると、犬の小夏が堂々と肉まんを咥えて去っていった。

 俺は切れた。
 家中の温度がすーっと下がるのがわかった。
 まず俺はクレヨンを取り出すと、息子の部屋のドアにバーカ!と書いてやった。次に娘の部屋に行き、だらしなく投げ出されていた洗濯物のブラのカップを娘の目の前でツンツンしてやった。さらに和室の障子にプスプスと指で穴をあけ、襖にもやろうとして突き指し、ドッグフードにつばをぺっと吐きかけ、女房のサンダルを片っぽ縁の下に隠してやった。尚も収まりがつかないので、庭の真ん中に落とし穴を掘っていたら、部長に無言電話を架けてやろうと思いついて、俺はウヒウヒと携帯を取り出した。
 三回目の呼び出し音で部長が出た。
「なんだ、安田君か。どうした?」
「えっ、あっ、いえ、今日の報告なんですが……」



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