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1000字小説バトル 2nd Stage
チャンプ作品
『光の道』ハミングバード
「兎は光に向って跳ぶんだ」
祖父が孫の誠に話している。昔大陸で体験した事柄についてだ。
誠はこの兎の話が好きで、何度も聴いている。祖父がもうないと言うと、
「兎の話があるじゃん」
と、この話を催促するのである。
祖父は自分の鬚を撫でているうちに、それが兎の毛並のような気がしてくるのか、悲しみを湛えた表情になって、話し始めるのだった。
「日本がアジアに出て行った頃の話だ。大陸に鉄道線路や道路を造っていった。現地人を使い、未開の土地を切り開いて、まっすぐな道を造る。
そこを夜、車で通った時のことだ。野兎が道に出てきて跳ねている。車のライトで照らすと、兎達は光の伸びていく方向に走り出すんだ。兎は後ろからライトに映し出されて、まっすぐ前に向って跳ねる。絶対横にはそれない。まっすぐ車の走っていく方向に走る。いくら跳ねるのが名人の兎でも、車には適わない。そのうちに疲れてくる。すると速度が落ちる。そこを車に後ろから体当りされて、跳ね飛ばされるんだ。
ボンネットにボンと鈍い音がする。兎が車に当った音だ。兎は体を伸びるだけ伸ばして、光の中から闇に浮び出て、それが兎の命の終りだ」
「その兎はどうしたの」
孫は答えは何度も聞いて知っているが、そう訊ねる。
「持ち帰るのさ。鉄砲を使わない、兎狩りだな、あれは。何匹も何匹もとった」
祖父は弱いもの苛めをした事を、いかにも後悔している口調で話した。
「道を曲げてつければいいのにね」
「おお、いいことに気づいた。お前はいい子だ」
祖父は孫の頭を撫ぜた。
誠は成長すると、測量技師になった。当然道路つくりのための測量も回ってきた。
彼はできるだけ真っ直ぐな道をつけるという要請はあっても、あちらこちらにカーブを入れた。実際に道路開削に当る者は、
「何でここで曲げねばならんのだ。岩山があるわけでもないのに」
などと訝った。しかし専門の技師が作った図面であってみれば、従わなければならなかった。地下に弱い地盤があるとか、逆に掘削困難な岩山が隠れているのかもしれないからだ。
誠は測量しながら、闇夜に光を浴びて浮上する幻の兎を見ていた。
その兎達がカーブに来ると、路面へではなく草原へと、照らす光のままにダイビングしていくのだ。車の来ない柔らかな草の安全地帯へと、着地していく。
誠は現在、オーストラリアへ出ているが、そこでも直線道路ではなく、所々屈折を入れて図面を書いている。
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