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1000字小説バトル 2nd Stage
チャンプ作品
『献身』ごんぱち
 臍の緒を付けたままの濡れた赤ん坊を、手術着姿の医師は抱き上げる。
 まだ肺の呼吸が始まっていない為、声も上げない。
 医師は、吸水シートを広げた手術台に赤ん坊を置く。
 それから看護師から手渡されたペンを使い、赤ん坊の身体に線を引き始める。直線や曲線、いくつもの線で、赤ん坊の身体が埋め尽くされる。何かの絵には見えず、模様と呼ぶには不均一過ぎる。
 医師は、ペンをメスに持ち替えた。
 そして、ゆっくり赤ん坊の胸の辺りに引いた線の上に当てる。
 赤ん坊はびくり、と震えた。
 医師はそのままメスを静かに動かす。熟練を思わせる、迷いのない動き。
 メスが通った後から、ぽつぽつと珠のように血が浮かんだ。珠は珠の形を保ったまま大きくなっていき、ついには隣りの珠と合わさり、そして流れ始める。
 医師は、切れ目を付けた皮膚の、少し下にメスを入れる。皮とその下の血管の混じった皮下の脂肪が切られ、赤ん坊の肉体から剥がされていく。
 医師の手先はあくまで柔らかく優しく丁寧に焦りもなく、赤ん坊の「表」を剥がしていく。
 次々に血が流れる血を、看護師が脱脂綿で吸い取り、ガーゼで拭う。赤く染まった脱脂綿が膿盆にいくつも積み重なっていく。脱脂綿から垂れた血が、膿盆の上に小さな水たまりを作り、それが他のまだ白さの残る脱脂綿に吸い取られる。
 赤ん坊の下に敷かれた吸水シートは、赤い色をじっくりと広げながらも、一滴たりとも漏らす事はない。全て高分子ポリマーが吸収し、固める。
 何一つトラブルはなく、医師は極めて手際よく手術を進め、赤ん坊は、元々そのような部品を組み立てて作ったかのように、表と中身に完全に分類された。

「あぁ……」
 鏡を見ながら、佳奈子は思わず声を洩らす。
「おめでとうございます、一ヶ月も経てば継ぎ目も分からなくなりますよ」
 医師も笑う。
「ありがとうございます、先生」
「いえいえ、当たり前の仕事をしたまでです」
「あの焼けただれた顔が、すっかり元通りになって……」
「ほら、あまり泣かないで。傷に障りますよ」
「……本当、本当に……綺麗に戻って」
「クローン再生ですからね。拒絶反応の起きる確率もぐんと低いですよ」
「はい」
「それでですね」
 医師が合図すると、看護師が入って来た。手に、包帯で包まれた塊を抱いていた。
「残りの部分は、どうされますか?」
「ああ、それですか」
 佳奈子はちらりとそれを見た。
「医療の発展の為に役立てて下さい」


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