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1000字小説バトル
チャンプ作品
『ポストモダンと猿廻し』とむOK
「頼んでた本だけど、届いてる?」
「少々お待ちください…えー、『ルネッサンスと盆踊り』ですね。明日以降の貸出しとお伝えしたはずですが」
「ええ。早く入荷してるかと思って、来てみたんです」
「すみませんが、明日以降またおいでください」
「でも、そこにあるじゃない。君の後ろの本棚の一段目」
「…ありますね」
「いいでしょ?」
「だめです。明日以降の貸出しです」
「明日は休館日じゃない。明後日は俺休めないし。頼むよ」
「だめです」
「どうしても?」
「だめなものはだめです」
「こんなに頼んでも?」
「だめです」
「俺、その本すごい楽しみにしてたんだよ。ほら、いつもちゃんと返却期限だって守ってるし、本を汚したことだって一度もないし」
「…」
「お願い!」
「…だって、あなたに私の感想を伝えながら、本をお渡ししたかったんです」
「…は? え? あの」
「だから待ってください」
「いや、急に言われても…俺にも考える時間が」
「じゃあ、こうしましょう。今日、この本読んじゃいます。読んだら、貸します。だから、あと二時間待ってください」
「あと二時間って、俺がここで待つの?」
「こっちの『ヒューマニズムと浪花節』なら読み終わってますから。これ読んで待っててください」
「なら、そっちを借りて今日は帰るよ」
「前から思ってましたけど、変な本がお好きですよね」
「変とか言うな! 君だって読んでるくせに」
「そういう人って、嫌いじゃないです」
「…あ、どーも…参ったなー。で、そっちの本は面白かった?」
「言いません」
「何だそりゃ!」
「今日は私、五時上がりなんです。待っててくれたら、言います」
「そうなの。じゃあ…って待つか!」
「せっかちな人は嫌われますよ」
「そういう問題か!」
「近くにシフォンケーキのおいしい喫茶店があるんです。甘いものはお嫌いですか? 素敵な和食もあるんですけど、やっぱり本の話は喫茶店でないと気分がね」
「お嫌いも何も。気分とかどうでもいいし」
「やだ。楽しみに待ってる人の気持ちなんて、考えたことないんでしょ」
「え、いや、そんな、君…って逆! 立場逆!」
「五時になったら声をかけてくださいね。ここにいない時は、一階窓口で掛川涼子を呼んでください。カケガワ・リョウコ。覚えてもらえました? じゃあまた五時に」
「ちょ、待っ…あのさあ、思うんだけど、やっぱり自分が先にその本読みたいだけと違う?…あ、今笑ったでしょ? そっちに隠れるな! ちょっと!」
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