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1000字小説バトル 3rd Stage
チャンプ作品
『幸せなうなぎ屋』ごんぱち
ケチな男がうなぎ屋の隣りに引っ越して来ました。
うなぎ屋の店先からは、いつもうなぎを焼く良い匂いが漂って来ます。
「ああ、良い匂いだ、旨そうだ、ああ、本当に旨そうだ!」
男は、うなぎ屋の店の前に立ち、匂いを嗅ぎます。
「そうでしょう、旨そうでしょう? どうです、食べて行かれちゃ?」
うなぎを焼きながら、店主は声をかけます。
「なんだ、奢ってくれるのか?」
「え? いえいえ、まさか。お代を頂いての事ですが……」
「お足を払うぐらいなら喰わないよ。ああ、良い匂いだ!」
男はうなぎの匂いを一杯に吸い込むと、家に帰って行ってしまいます。
そして、家に帰るなり、男はおひつの蓋を開け、飯を食べ始めます。ケチな男ですから、おかずはありませんが。
「ああ、良い匂いだ。旨い、旨い!」
うなぎの焼ける匂いをおかずに、男は飯を食べていたのでした。
男は毎日それを繰り返し、結局今まで一度もうなぎを食べに行った事はありませんでした。
ある月の三十日。
「ご免下さい、ご免下さい」
男の家に、うなぎ屋の店主がやって来ました。
「隣のうなぎ屋じゃねえか。何の用だ?」
「三十日でございますので、お代を頂きに、へぇ、参りましたので」
「……はぁ? オレはお前んとこで何も喰った事はないぞ」
「召し上がった事はありませんが、匂いを散々嗅がれ、飯のおかずになさっている」
「はぁ? 匂いに金を払えってのか?」
「おかずをただで差し上げる食い物屋はございません。お代をお支払い下さい」
「……分かった、払ってやる」
男は金をうなぎ屋に支払いました。
次の日。
うなぎ屋には、誰一人客が来ませんでした。
匂いで金を要求する店主が営業しているという噂が立った店です。みんな気味悪がって近寄らなくなってしまったのです。
その次の日も、そのまた次の日も、客は来ませんでした。
うなぎ屋は悩んだ末に原因に思い至りました。
「分かったぞ、みんな匂いだけで済ませているんだ!」
うなぎ屋は、毎日うなぎを焼き、匂いを長屋中に流して周り、月末には匂い代を集めに回りました。
どの家も門前払いをされ、怒鳴られ、ある時は殴られ、しまいには番所に突き出されてしまいました。
番所の役人は、うなぎ屋を詳しく調べました。結果、うなぎ屋はもう精神的に働ける状態ではないと判断され、生活保護が受給出来る事になりました。
こうしてうなぎ屋は、一生安楽に暮らしました。
めでたし、めでたし。
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