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1000字小説バトル 3rd Stage
チャンプ作品
『その一球にかける、栗原特訓編』石本レオ
2年生エースの栗原は、どうしても内角に球を放ることができなかった。
左投手は、左打者に対して有利とされている。それは、投げる手が打者の背中側から出てくるため、投球の軌道が見極めにくいからである。また、一塁にけん制する際に走者と向き合うため、プレッシャーを掛けることもできる。左投手が居ることはチームにとって限りなくプラスなのだ。
「練習なんだから投げて見せろ」
監督の柏木は、練習後に特訓を提案した。
主将の東野、キャッチャーの市川も協力した。
左打ちの東野がバッターボックスに入った。市川は、マスクを被ってミットを内角に向けた。
マウンド上の栗原は、ロージンバッグを手に取り、一息ついた。
「当てるぐらいの気持ちで投げろよ」
東野は、本気の目になって言った。
一球目。ボールは、ど真ん中に決まった。試合ならホームランを打たれるくらいの失投だ。
「徐々に肩を慣らしていけよ」
柏木は失投をフォローするかのように声をかけた。実際、軽めとはいえ既に練習で100球近く投げ込んでいる。肩は十分温まっているはずだ。
2球目は、外角に決まった。
左打者は、左投手が外角に決めると相当遠く感じる。ストライクゾーンギリギリに決まればなかなか手は出せない。これも武器になるのだが右打者にはあまり効かない。右打者には内角と外角の投げわけが肝心なのだ。
3球目以降、栗原の思うようなコース(内角)に決まってくれない。暴投が目立ち始め、ワンバウンドしたり、キャッチャーが立たなければ取れないような高さにボールが行く。
見かねた市川がマウンドに向かい「力を抜け」とアドバイスした。
しかし、改善されない。
「内角に投げるまで終わらないぞ」
偶然内角に行くということもないのだ。これは、栗原の心の問題かもしれない。体が内角に放ることを拒絶しているのだ。自分が変わらなければ内角へボールは行ってくれない。
「ラストだ」
肩のこともある。それは、ちょうど50球目だった。
栗原は、額の汗を拭い、ロージンバッグを手に取った。指は真っ白だ。
(これが、ラスト……)
渾身のストレート。
ボールは内角に向かった。
市川のミットに収まる直前、金属音とともにボールは跳ね返ってきた。
そして、栗原の頭上を越えて暗闇に消えた。
「内角だったよな」
柏木の問いに3人は「はい!」と声を揃えた。
翌日のミーティング。
「明日のスタメンはこれで行く。気合入れていくぞ!」
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