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1000字小説バトル
チャンプ作品
『俺は酒を飲み過ぎた。』アナトー・シキソ
俺は酒を飲み過ぎた。
もう、誰の通夜だったのかもすぐには思い出せない。
うっかりすると、ただの宴会に来てるつもりになってしまう。
それくらい飲み過ぎた。
周りは殆ど知らない顔ばかりだが、酒のおかげでそんなことも気にならない。
俺は、知らないオヤジにビールを注ぎ、知らないバアサンの酌を受ける。
料理だって、美味いとか美味くないとか、もうどうでもよくなっている。
ただ、ひんやりしたモノや汁気のあるものが妙に食いたい。
のは、つまりは、もう限界に来てるということだ。
黒枠の写真の顔を眺める。
知らない顔だ。
けど、それが誰なのかは知っている。
俺は、喪主の男を見つけ、そいつに適当なお悔やみを言う。
ホントのことを言うと、お悔やみはもう言ったのかもしれない。
十回か、それ以上。
けど、覚えがないから、また言う。
喪主の男は、さすがに殆どしらふで、ただ、俺の言葉を聞いて頷いていた。
俺は、喪主の男の肩を、それらしくぽんぽんと叩く。
かなり白々しいけど、酔っぱらってるからそういうことも気にならない。

不意に小便がしたくなる。
酒の席の小便は我慢が効かない。
俺は立ち上がった。
「なんだ、もう帰るのか?!」
畳に半分崩れかかったオヤジが、赤い顔で訊く。
もちろん、今日ここで初めて会った知らないオッサンだ。
「ションベン……」
俺は、払うように手を振って、ふらつきながら障子を開け、廊下に出た。
廊下はひんやりして、酔っぱらった身にはちょうどいい。
ガラス戸越しに暗い庭を眺めながら便所に向かう。
ここのはトイレじゃない。便所だ。下手すると厠だ。
廊下の突き当たりの戸がその厠みたいな便所だ。
昔の家だから近づくと分かる。便所臭い。
戸を開けたら、すぐ小便器。
朝顔とか言う奴がいるけど、何が朝顔だ!
壁に寄っかかって、小便を済ませ、廊下に出る。

戻る途中で、普通のギニグを見つけた。
さっき来るときはなかった。
今は、ある。
俺は、ふにゃふにゃしたギニグをアテクからアコジュする。
ほんの気まぐれで、意味はない。
酔っぱらってるんだ。

廊下を戻り、息をふーっと吐いてから、座敷の障子を開けた。
惨状。
さっきまで酔って騒いでた連中が全員血まみれで死んでいる。
畳や長テーブルの料理は、血だらけの臓物だらけで酷い有り様だ。
かわりに、死んでたはずの仏さんが棺桶の中に起きあがっていた。
鼻に詰め物をした仏さんが恨めしげに俺を見る。

俺はギニグをアテクからアコジュした。
俺は酒を飲み過ぎたんだ。

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