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1000字小説バトル
チャンプ作品
『他意ちゃん』荵
 もう四十越えてるデブの妙子さん、自分のことを「たいちゃん」ってゆう。
「タイチャン、オユウハン、タイ、タベタイ」
 あたしが財布覗いて困ってたら、彼女、すばやく何か携帯電話に打った。ケータイから棒読みの機械音声が出る。
「タイジャナイト、ダメ」
 ったく、知的ってこういうとこが嫌なんだよな。金銭感覚ねーつーか、なんてゆうか、ある意味、自由。

 あたしがホームヘルパーになって最初に受け持ったのが、たいちゃんこと夢枕妙子さんの介助で。もう本名からして推して知るべし。初めて交わした会話なんて、
「こんにちは、夢枕さん。幾原由子です。今後ともよろしく…」
「タイヘン、タイチャン、ヘイ!」
 今なら、初対面のあたし見て、パニクッてたんだと分かる。でもまず彼女がホーキング博士みたいに機械の力、借りて喋ることに驚いた。彼女、自閉症で、知的障害もあって、言葉の発音ができない。車椅子なんかには乗ってないから、はためには普通に見える…。ちょっと服とか変だけど。

 一度ダメって言い出したら聞きゃしない。妙子さんがついにキレた。うおおああ、とかそんな感じで叫んでる。でも簡単に引き下がったら彼女のタメになんないし。
「お金足りないの、ダメなの!」
「ヘイ!」
 スーパーの中、大喧嘩です。ああ、人々の奇異の目が…。店員も驚いてこっち見てる。
 妙子さん段々パニックひどくなって、店内の果物やら野菜やらを引っ掻き回して投げ始める。あたし、慌てて商品、拾うんだけど…。やばい。店長らしきオッサンが走り寄ってきた。あたしは彼女に体当たりして、転んだところを羽交い締めにしながら叫んだ。
「何でもありません!」
 我ながら苦しい…。店長と二人、力を合わせて、暴れる妙子さんを取り押さえたものの、すぐに裏事務所へ連れ込まれて説教された。彼女の障害を説明して、なんとか賠償責任の難を逃れる。
 っていうか、ヘイ彼女。お礼の言葉もないのかよ。店長お前もな。
 
 で、帰り道。暴れて気が済んだのか、妙子さんはしょぼんとしてる。あたしはかろうじて売ってもらえた買い物袋を手渡した。
「ほら、タイじゃないけど魚だよ」
 ビニール袋を受け取って、気がなさそうに中身を見ると、妙子さん、ゆっくりと携帯電話を操作した。
「タイ、ハ、アリマセン」
 彼女の表情がなんか申し訳なさそうだったから、あたし、他意はありません、ってゆうふうに聞こ…。
「ヘイ!」
 って、おい、走るなよ…。
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